212 / 284
第8章 悪役令嬢は知られたくない
2
しおりを挟む
ふくれている私を横目にしながらトラヴィスは机の引き出しを開ける。
「機嫌直しなさいって。良いニュース教えてあげるから」
「良いニュース?」
トラヴィスがニヤリと笑った。
「やっと許可が下りたわよ」
そう言って引っ張り出した物を顔の前に持ち上げた。チャラっとチェーンのなる音がする。
「そ、それってもしかして!」
「そう、禁書の部屋の鍵」
そう言ってトラヴィスは、細かい装飾が施された大き目の鍵を目の前で揺らした。
「えっ!ほんとですか!?」
禁書の部屋とは、歴史あるアンファエルン学園の図書館の最奥にある部屋である。
なんでもここには人の目に触れさせたくない書物が隠されていると言う噂だった。
イーサンをぎゃふんと言わせたくて闇の組織や闇の魔法について調べ始めた私だったが、早い段階で暗礁に乗り上げていた。
公爵家の書斎や学園の図書館、果てはお城の書庫まで頼み込んで調べさせてもらったと言うのに、詳しい事は何も分からなかったのだ。
まるで、わざと隠されているかのように・・・。
そんな時に、光明を投げかけてくれたのはトラヴィスだった。図書館にある禁書の部屋を教えてくれたのだ。
「ゲームの3部で出てくるのよ。確か、闇の組織について書いた古書があったはずよ」
私達は学園長に禁書の部屋に入らせてもらえるように申請した。だけど返事は却下。どうも禁書の部屋に関しては学園長の権限外らしい。
「ふうん、面白いじゃない・・・」
皇太子の申請でも通らないと言う事がトラヴィスの闘志に火をつけた。
あらゆる省庁、機関、果ては父である皇帝にまで掛け合ったらしい。
その交渉期間6カ月!
やっと許可が下りたと言うのだ。
「す、凄いです!さすが皇太子!」
そう言うとトラヴィスは苦笑して、
「半年もかかってんじゃ、皇太子の威光も怪しいもんだわ」
そう言って肩をすくめた。だけど直ぐに真面目な顔になると、
「でもね、最終的には許可が下りたとは言え、この件に関しては不審に思う事だらけなのよ」
鍵を机の上に置いて、腕を組んだ。
「?・・・と言いますと?」
私は鍵を覗きこんだ。
「まず、禁書の部屋に入る申請を何処に出していいか分からなかった。図書館に聞いたら学園に聞け言う、学園の事務所に聞けば学園長に聞けと言う」
トラヴィスはブロンドの髪をかき上げて溜息をついた。
(おおお、セクシーだねぇ、ねーさん!)
5年生になって少し背が伸びて、トラヴィスはますます格好良さが増した。すっかり慣れてしまったが、アラサーOLの口調とのギャップが凄い。
私の心の感想など知らないトラヴィスは話を続ける。
「学園長は図書館の事は図書館に聞けって言うし参ったわよ!」
確かにそうだった。あの時もトラヴィスは腹を立てていた。
「お役所っぽいですよねぇ。前の世界でも良くありましたよ」
何処の世界でも面倒事は人に押し付けるし、役所は知られたくない事を隠すのが上手いのだ。
「あの時は確か、怒ったねーさんは皇帝陛下にまで直接聞きに行ったんですよね?」
「そうよ!そうしたら、驚いた事にわが父は禁書の部屋の事すらご存じなかったのよ!」
トラヴィスはドンっと机を叩いた。
「信じられる?!」
そう言って私を振り返った。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。禁書の部屋が出来たのって随分昔の事なんですよね?」
「だけど、禁書部屋への潜入はゲームではかなりの重要イベントよ。皇帝がその部屋を把握出来てないのは問題じゃない?。まぁね、忙しい方だから学園の図書館の事までは気が回らないかもしれないけど・・・」
「えーと結局、どうやってこの鍵を手に入れたんです?」
私は話を元に戻そうとした。
「鍵自体は図書館に保管してあったのよ。・・・不自然な程厳重にね」
トラヴィスはもう一度鍵を手に取るとクルッと器用に指で回した。
「ただし、貸出するには許可がいる。結局その許可を出したのは何処だと思う?」
そう聞きながら、私に鍵を差し出した。私は恐る恐る鍵を手に取って良く見てみる。
私の手の平よりも大きい鍵は持ち手に凝った彫刻が施されていた。何かマークの様にも見えるが・・・
「・・・もしかして魔法省と警察省ですか?」
そう聞いた私にトラヴィスは目を丸くした。
「正解!良く分かったわね!?」
私は鍵の持ち手をトラヴィスに示した。
「ここに二つの省の紋章が入っています」
二つの紋章が持ち手の片側に組み合わさって彫られていたのだ。
「良く見つけたじゃない・・・さすがね。でも、もう一つ許可が必要だったのよ。誰のだと思う?」
私はもう一度鍵をくるくる回しながら観察した。そして思わず「あっ」と声を上げてしまった。
鍵の持ち手の方では無かった。鍵穴に刺す方の先端部分、その形状がそのまんま・・・
「これ・・・アンファエルン皇国の国旗の模様です!」
私は驚いてトラヴィスを見つめた。トラヴィスも真剣な目で見つめ返す。
「皇帝の許可。御璽を頂く必要があったのよ。・・・どう思う?ここまで厳重にされてるなんて。しかもこの方法にたどり着くまでも、こんなに手間がかかるとは・・・」
誰も鍵を借りる方法を知らず、どこにも公には記されていない。トラヴィスは皇国の知恵者や古老を頼り、城の書庫にあった古い文献の中にやっとこの方法を見つけたらしいのだ。
「機嫌直しなさいって。良いニュース教えてあげるから」
「良いニュース?」
トラヴィスがニヤリと笑った。
「やっと許可が下りたわよ」
そう言って引っ張り出した物を顔の前に持ち上げた。チャラっとチェーンのなる音がする。
「そ、それってもしかして!」
「そう、禁書の部屋の鍵」
そう言ってトラヴィスは、細かい装飾が施された大き目の鍵を目の前で揺らした。
「えっ!ほんとですか!?」
禁書の部屋とは、歴史あるアンファエルン学園の図書館の最奥にある部屋である。
なんでもここには人の目に触れさせたくない書物が隠されていると言う噂だった。
イーサンをぎゃふんと言わせたくて闇の組織や闇の魔法について調べ始めた私だったが、早い段階で暗礁に乗り上げていた。
公爵家の書斎や学園の図書館、果てはお城の書庫まで頼み込んで調べさせてもらったと言うのに、詳しい事は何も分からなかったのだ。
まるで、わざと隠されているかのように・・・。
そんな時に、光明を投げかけてくれたのはトラヴィスだった。図書館にある禁書の部屋を教えてくれたのだ。
「ゲームの3部で出てくるのよ。確か、闇の組織について書いた古書があったはずよ」
私達は学園長に禁書の部屋に入らせてもらえるように申請した。だけど返事は却下。どうも禁書の部屋に関しては学園長の権限外らしい。
「ふうん、面白いじゃない・・・」
皇太子の申請でも通らないと言う事がトラヴィスの闘志に火をつけた。
あらゆる省庁、機関、果ては父である皇帝にまで掛け合ったらしい。
その交渉期間6カ月!
やっと許可が下りたと言うのだ。
「す、凄いです!さすが皇太子!」
そう言うとトラヴィスは苦笑して、
「半年もかかってんじゃ、皇太子の威光も怪しいもんだわ」
そう言って肩をすくめた。だけど直ぐに真面目な顔になると、
「でもね、最終的には許可が下りたとは言え、この件に関しては不審に思う事だらけなのよ」
鍵を机の上に置いて、腕を組んだ。
「?・・・と言いますと?」
私は鍵を覗きこんだ。
「まず、禁書の部屋に入る申請を何処に出していいか分からなかった。図書館に聞いたら学園に聞け言う、学園の事務所に聞けば学園長に聞けと言う」
トラヴィスはブロンドの髪をかき上げて溜息をついた。
(おおお、セクシーだねぇ、ねーさん!)
5年生になって少し背が伸びて、トラヴィスはますます格好良さが増した。すっかり慣れてしまったが、アラサーOLの口調とのギャップが凄い。
私の心の感想など知らないトラヴィスは話を続ける。
「学園長は図書館の事は図書館に聞けって言うし参ったわよ!」
確かにそうだった。あの時もトラヴィスは腹を立てていた。
「お役所っぽいですよねぇ。前の世界でも良くありましたよ」
何処の世界でも面倒事は人に押し付けるし、役所は知られたくない事を隠すのが上手いのだ。
「あの時は確か、怒ったねーさんは皇帝陛下にまで直接聞きに行ったんですよね?」
「そうよ!そうしたら、驚いた事にわが父は禁書の部屋の事すらご存じなかったのよ!」
トラヴィスはドンっと机を叩いた。
「信じられる?!」
そう言って私を振り返った。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。禁書の部屋が出来たのって随分昔の事なんですよね?」
「だけど、禁書部屋への潜入はゲームではかなりの重要イベントよ。皇帝がその部屋を把握出来てないのは問題じゃない?。まぁね、忙しい方だから学園の図書館の事までは気が回らないかもしれないけど・・・」
「えーと結局、どうやってこの鍵を手に入れたんです?」
私は話を元に戻そうとした。
「鍵自体は図書館に保管してあったのよ。・・・不自然な程厳重にね」
トラヴィスはもう一度鍵を手に取るとクルッと器用に指で回した。
「ただし、貸出するには許可がいる。結局その許可を出したのは何処だと思う?」
そう聞きながら、私に鍵を差し出した。私は恐る恐る鍵を手に取って良く見てみる。
私の手の平よりも大きい鍵は持ち手に凝った彫刻が施されていた。何かマークの様にも見えるが・・・
「・・・もしかして魔法省と警察省ですか?」
そう聞いた私にトラヴィスは目を丸くした。
「正解!良く分かったわね!?」
私は鍵の持ち手をトラヴィスに示した。
「ここに二つの省の紋章が入っています」
二つの紋章が持ち手の片側に組み合わさって彫られていたのだ。
「良く見つけたじゃない・・・さすがね。でも、もう一つ許可が必要だったのよ。誰のだと思う?」
私はもう一度鍵をくるくる回しながら観察した。そして思わず「あっ」と声を上げてしまった。
鍵の持ち手の方では無かった。鍵穴に刺す方の先端部分、その形状がそのまんま・・・
「これ・・・アンファエルン皇国の国旗の模様です!」
私は驚いてトラヴィスを見つめた。トラヴィスも真剣な目で見つめ返す。
「皇帝の許可。御璽を頂く必要があったのよ。・・・どう思う?ここまで厳重にされてるなんて。しかもこの方法にたどり着くまでも、こんなに手間がかかるとは・・・」
誰も鍵を借りる方法を知らず、どこにも公には記されていない。トラヴィスは皇国の知恵者や古老を頼り、城の書庫にあった古い文献の中にやっとこの方法を見つけたらしいのだ。
24
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる