モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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朝食の後片付けの後、魔術実戦の授業が始まった。

30人の生徒を3つのグループに分けて色んなシチュエーションで対戦するらしく、その組み分けが行われていた。

(へぇ、意外とちゃんとしてるんだ)

レブナン先生は魔力や魔術の習熟度を考えて組み分けしているようだけど、そのバランスが見事なのだ。

まず最初に、

Aグループにはトラヴィスとミリアにリリー
Bグループにはディーンとクリフ。
Cグループにはクラークとパーシヴァルとレティシア

と魔力が強くて魔術も多種類使える人が分けられた。

「なるほど」

私は思わず手を叩いた。

各グループにちゃんとシールドが得意なリリー、ディーン、クラークが配置されている。

(本当に実戦を考えた分け方なんだ)

最初にレブナン先生と会った時はテンション高すぎて大丈夫かと思ったが、彼は意外と出来る人のようだ。

次にグループには中程度の実力者が振り分けられていったのだが・・・、

(あ・・・)

ディーンのいるBグループにマーリンが振り分けられたのを見てドキリとする。

(いやいや授業なんだから偶然・・・でもなぁ)

レブナン先生は二人の事情なんて知らないから仕方ないんだけど、ついつい先生を横目で睨んでしまった。


昨日レティシアには誤魔化したけど、マーリンはディーンを諦めていない。

あえて詳しく聞かない様にしてるけど、マーリンは時々寮まで彼に会いに来るそうだ。だけどディーンはいつも、彼女を部屋には入れずに直ぐに話を終わらせているらしい。

何故それを私が知ってるかと言えば、ディーンが毎回それを律儀に報告しにくるからである。

「わざわざ、教えてくれなくても良いですよ」と言ったら、「よそから伝わって婚約者に誤解されたくないから」と返された。


私はグループ分けを眺めながら、溜息をつく。

(契約婚約者にそこまで気を使わなくても良いのに・・・)

そう考えて直ぐ、私は自分で自分の頬をぺちっと叩いた。

(いや・・・違う。こういうのは卑怯だ)

だって私はもう、ディーンの気持ちを知っている。

マーリンの目線がずっとディーンの方を向いているのを見て、私はもう一度溜息をついた。


「ではAグループとBグループでやってみよう!」

レブナン先生が張り切った声でそう言った。

「まずはウォーミングアップだ!。Aグループは皆で全力でシールドを張ってくれ。Bグループはそれに向かって攻撃!。何の魔術を使っても良いけど物理攻撃は無しだぞ」

二つのグループはそれぞれ一定の距離を取り、先生の合図でAグループの中でシールドを使える数人が前に出た。だけど中には

「ええ~、私シールドなんて出来ない」
「怖いわ・・・。攻撃がシールドを壊したらどうしましょう?」
「大丈夫よっ。トラヴィス殿下が守って下さるわ」

何て言ってる女生徒達もいる。

(あ~、あれはイケメン狙いだけで来た参加者だな)

多分魔力もそんなに強くないのだろう。魔術の授業もちゃんと受けているのだろうか?

(魔力ゼロの私が言うのも何だけどさ、レブナン先生の授業は結構本気っぽいよ。真面目にやらないと)

だけど当のレブナン先生は、

「Aグループには殿下とリリーさんがいるから心配いらないよ。いざとなったら僕も助けるから!」

語尾にハートマークが付きそうなくらいウキウキした声でそう言った。

そして、先生の「はじめ!」と言う声で実戦授業が始まった。

「おお!凄い!」

私は少し離れた場所で、Cグループの人達と二組の模擬戦闘見ていた。

トラヴィスとリリーの張ったシールドはかなり強いみたいで、Bグループの人達が攻撃してもビクともしなかった。

ディーンやクリフの攻撃ですら遮っているのだ、他の生徒の攻撃なんかそよ風程度にしか効いてない。

「さすが、殿下とリリーのシールドは鉄壁だなぁ」

私がそう呟くとクラークが、

「でもこういう訓練をしておくと、自分のシールドがどこまで攻撃に耐えられるか分かるから良いね。攻撃する方も自分の攻撃力の限界を知る事ができる」

レブナン先生の授業は理にかなっていると感心していた。

攻撃しているBグループはディーンとクリフ以外は直ぐに疲れてしまったみたいだ。座り込んでしまって肩で息をしている生徒もいる。

「あれは魔力の使い方に無駄があるんだ。上手く魔術に変換出来ていないんだね」

「なるほど、そうなんですね」

クラークが説明してくれたけど、魔力の無い私には良く分からなかった。

(普通はこれぐらいのレベルなんよね、きっと)

今まで攻略者達の魔術しか見た事なかったから、多分基準がズレてしまってるのだ。

(それにしても、トラヴィスとリリーは凄いなぁ)

二人は表情も変えずに淡々とシールドを張り続けている。

だけど、ディーンが集中する様に目を閉じて何か呟くと、氷と風と稲妻が混じった嵐の様な魔術がAグループに襲いかかった。

「おお!」っと周りから歓声が上がる。

さらにクリフから衝撃派が放出されるとAグループのシールドと激しくぶつかり、シールドが一瞬ブレる様に揺れて小さくなった気がした。

「きゃー!」
「いやぁ、怖い!」
「わぁああ、止めてぇ」

Aグループの女生徒達の悲鳴が聞こえた。シールド張ってるトラヴィスに抱きつく者もいる。

(ワザとだな・・・)

なかなかあっぱれな根性だ。

「そこまで!」

ルブナン先生の声で2つのグループの戦闘が止まった。

「いやあ!初めてにしては両方とも素晴らしかった!」

興奮を隠せない声でそう言って、頭の上で手を叩いた。

「特にディーン君の最後の攻撃。あれは3つの魔術を同時発動させたんだね!?」

「はい」

「素晴らしい!。それにクリフ君の衝撃派の魔術も凄かった。あれ程の威力のものは皇家の方以外で見た事が無いよ!」

「恐縮です」

(ごりごりに皇家の血筋だもんね)

心の中だけど突っ込んでみる。

「さぁ!次はCグループがシールドでBグループが攻撃だ。準備してっ!」

ルブナン先生はスキップせんばかりに楽しそうにそう言って、手に持ったノートに何か書きつけている。

一応、授業だから評価をメモしているのだろう。だけど・・・

(この先生、ただの魔術オタクなんじゃない?)

そんな風にしか思えなかった。
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