モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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「絶対にワザとよ!。衝撃波が真横に逸れるなんて考えられないわ」

テントの中でミリアはぷりぷりと怒っていた。

「アリアナを狙ったのよ。ディーンが自分の方を向いてくれないからって嫉妬して・・・なんて怖い人かしら」

レティシアも眉をひそめてそう言った。

その横ではリリーが悲しそうな目で俯いている。私は慌てて、

「でも、中級レベルだと魔術の操作も難しいんじゃ無いですか・・・?」

そう言うとミリアにじっとりした目で睨まれた。

「あのね、マーリンは聖女候補だったのよ」

「はい・・・」

「元聖女候補が魔術の制御ぐらい出来ないわけないでしょ?」
「はい・・・」

「だいたい自分が下敷きになりかけたのに相手を庇っててどうするの!?」

「は、はい!」

怒られてしまった・・・。

私が頭をすくめていると、

「・・・あんな方では無かったんです」

リリーがぽつりと呟いた。

「一緒に聖女候補の授業を受けていた時は、明るくて本当に良い方だったのです」

「リリー・・・」

私はリリーの肩に手を添えた。

「同じ聖女候補で・・・ずっと卒業まで協力しあっていけると思ってました。なのにどうして・・・」

確かに今のマーリンの様子は、私がゲームで知っているヒロインの親友『リン』とかけ離れている。

(ヒロインがディーンと結ばれても、陰で泣きながらも祝福するような子だったのになぁ・・・)

そう考えて、なんとなくじわっと嫌な想像がよぎった。

(まさか・・・でも)

「あの、もしかしてマーリンさんもまだ精神魔術下にあるとは考えられませんか!?」

私がそう言うと皆が「え?」という顔を私に向けた。ミリアが慌てた様に、

「だってマーリンさんの解術も、リリーとマリオット先生で成功したんでしょう?」

リリーにそう確認する。

「え、ええ・・・解術は出来たはずです」

「でも、精神魔術は重ねてかけれるってあの黒い本に書いてあったでしょう?。それにノエルみたいに解術後にまたかけられたのかもしれない」

私は皆の顔をゆっくりと見まわして説明すると、ミリアはレティシアと顔を見合わせて首を傾げた。

「だってマーリンがアリアナに謝りに来た時の事覚えてる?。あの様子を考えたら、今の態度が精神魔術のせいとも思えないのよ」

ミリアの言葉にリリーはまた眉を下げて俯いてしまった。

だけど私は確信に近いものを持っていた。

「聖魔術が効かない精神魔術もあるんですよ。黒い本にも書いてありましたよね?」

そして自分の右腕をあげて手首を見せる。

「私にも糸が結ばれているんですよここに、細くて黒い糸が」

「えっ」?

「前も少し説明したよね?。黒いフードの人物が消える時、私を縛っていた鎖は消えましたが手に糸が巻かれたって。・・・フードの人物の顔が思い出せないのはきっとそのせいだと思う。私はまだ精神魔術下にあるの」

「アリアナ・・・」

ミリアが眉間にしわを寄せて

「でも、アリアナへの聖魔術だって成功したのよね?リリー」

「はい!そのはずです」

リリーも大きく頷く。

私は首を振って、

「だけど、私もメイドのマリアも術者の顔を全く思い出せない・・・。だから、精神魔術は聖魔術だけじゃ完全に解術出来ないんだと思う。だからマーリンもそうなんじゃ無いかって思うんだ」

「う~ん、そうかもしれないけど・・・」

ミリアもレティシアもあまり納得していないようだったけど、私はマーリンを信じたかった。ヒロインの親友である『リン』は、明るくて優しいヒロインの一番の協力者なのだから。

その後私はテントの中でそのまま泊まった。

別荘に戻っても、どうせ『アリアナ』が勝手にテントに戻って来るだろう。だから私は先生に頼んで最初からここで寝る事にしたのだ。

皆に『アリアナ』が出てきたら相手をしてあげてとお願いして、私は目を閉じた。

そしてどのくらい経ったのだろう?。再び目を開けた時私は驚愕した。

訳が分からず(ああ、これは夢の中なんだ)と思った。

だけど私を支えるミリアの手の温もりが、徐々にこれが現実である事を伝えて来る。

真夜中の湖のほとり、喧騒の声で目が覚めた私は何故かテントの外の地面に立っていたのだ。

「は!?何で?」

戸惑いがそのまま口に出てしまう。

だって目の前には真っ青な顔をしたマーリン。そして私達を囲むように沢山の生徒達。

(えっ、どう言う状況!?)

クエスチョンマークだらけの私の目の前で、突如マーリンは顔を両手で覆うと「ううう・・・」と声を上げて泣き始めた。そしてよろよろと座り込んだあげく、地面に突っ伏して号泣しだしたのだ。

「ど、ど、どうしたんですか!?」

おろおろと手を差し伸べようとしたところを、何故かミリアに止められた。そして彼女は目を輝かせて、

「アリアナ様がやってくれました。成敗してくれましたよ」

「はい!?」

(まさか、まさか、まさか・・・)

ポンっと肩を叩かれてビクッとなり、振り返るとトラヴィスが立っていた。彼は苦笑いしながら首を振って、

「とりあえず、後は私に任せて君達はテントに戻りたまえ」

「で、でも・・・」

「いいから」

早く行けっとばかりに手を振られた。

私は止まらない冷や汗を拭く事も出来ずに、ミリア達に連れられてテントに戻った。
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