モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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いつの間にか騒ぎを聞きつけて、周りには人が集まってきていた。

「い、痛いわ!止めて!手を離して!」

容赦なくねじ上げられてマーリンは涙ながらに叫び続ける。

「クリフ、もう良いわ。手を離してあげてちょうだい」

アリアナの言葉に、クリフが無表情のままマーリンを解放した。

マーリンは地面に崩れ落ち、ねじ上げられてた腕を痛そうに抱え込んだ。だけど直ぐに顔を上げるとアリアナを涙の滲む目で睨みつけた。

「何よ!。貴女なんて魔力無しの出来損ないの人間のくせに!」

そう叫びながら立ち上がり、

「ディーンやリリーも他の人達も、権力で周りにはべらしているのよっ!。公爵家に生まれなかったら、貴女なんて誰にも見向き去れないわよっ」

「その通りね」

アリアナは表情一つ変えずにそう返した。

「貴女の言う通りだと思いますわ。でもね、あの子は違う・・・」

アリアナの目線の先には人垣の後ろの方で、静かな目で騒ぎを見ているディーンの姿があった。二人の視線が一瞬交差したが、アリアナは直ぐに目を逸らした。

そして頬に手を添えると、周りを魅了する可愛らしい笑みを浮かべ、

「私が魔力無しの出来損ないだとしたら、貴女は何なのかしら?。聖女候補のなりそこない?。候補すら降ろされるなんてみじめね。でもどうせ貴女なぞリリーの足元にも及ばないでしょうから、早く降ろされて良かったかもしれなくてよ?。それにお金でしか婚約者も友人も買えないなんて、なんて可哀そうな方なのかしら」

その言葉にマーリンの顔色が真っ青になった。

それでもアリアナは容赦せず、

「ディーン様は魔術で人を傷つける様な方は大嫌いなのよ。ご存じなかったのかしら?。それにいい加減ディーン様にまとわりつくのは止めた方が良いのじゃないかしら、ふふ。これは貴女の為に言って差し上げててよ。だって彼が迷惑だって言ってましたもの。これ以上嫌われたくないでしょう?」

マーリンは表情が抜け落ちた様になり、小刻みに震えだした。

だけどアリアナは射るような目をマーリンに向けて、

「これ以上あの子を傷つけたら許さなくてよ。貴女の様な方にディーン様はわ・・・」

恐らく渡せませんと言いかけたのだろう。だけどアリアナは急にミリアに顔を向け腕を掴むと

「ごめんなさい、ミリア。わたくし、眠いわ・・・」

「えっ!?」

「それに、今の騒ぎであの子が起きそう・・・後はお願い・・・」

「アリアナ様!?」

アリアナは意識の底に沈んで行った。




「という事だったの。ね!。アリアナ様、凄かったでしょ?」

いきいきした顔で説明してくれたミリアには悪いが、私はガクッと片手をついて項垂れた。

(夢であってくれ・・・)

真剣にそう思った。

(アリアナ・・・貴女やっぱり悪役令嬢の素質に満ち溢れてるよ)

ゲームの設定恐るべし。

(リリーはマーリンが好きだから、『アリアナ』のやった事で傷ついているんじゃないだろうか?)

そう思って私は目の端でリリーの様子を伺った。だけど思ったよりもリリーの表情は落ち着いている。

(あれ・・・?)

私は不思議に思って聞いてみた。

「ねえリリー。リリーは『アリアナ』がマーリンにした事を怒って無いの?」

リリーは少し困った表情を浮かべたが、

「アリアナ様がマーリンに言った事は、確かに少し言い過ぎかなと思いましたけど・・・。でも彼女もアリアナ様に対して酷い事を言ってましたし・・・」

そう言って苦笑した。

「それよりも、今回の事で私はやっぱりマーリンは精神魔術の影響下にあるって思ったんです。だからその解術方法を早く探さなきゃって」

(そうか。リリーはやっぱりマーリンの事を信じているんだ)

私はリリーに頷いた。

「うん。マーリンを早く助けてあげよう」

手を握り合う私達にミリアが呆れた顔で溜息をついた。

「まったく・・・二人ともお人好しよね。でもとりあえず今日はもう寝ましょうよ。明日はせっかくの自由日なんだもの・・・洞窟の調査に行く日よ」

最後の方は周りに聞こえないよう、声を低めてそう言った。

「そうね。『アリアナ』のせいで寝不足は必至だけど、少しでも寝ておいた方が良いよね」

私達はテントの中の灯りを消した。
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