モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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私は背の高いディーンの背中を見ながら、暗い森の中を歩いた。

ディーンの言う通り、早く休めそうなところを探さないと真っ暗になってしまう。

(なんかもう・・・こんな状況なのにちゃんと話せない自分って・・・)

手を引っ張って貰いながら、情けなさに私は俯いた。

(ちゃんとしなきゃ、ちゃんと・・・。でないとディーンに呆れられちゃう)

弱気な気持ちを追い払いたくて、歩きながら頭を振った。そして大きく息を吸って気合いを入れる。

(大丈夫!。さっきは皆の役に立てたし、私は・・)

「リナ」

「は、はひ!・・・な、何ですか?」

また噛んでしまった・・・

(ううう、かっこ悪いよぉ・・・)

「あれを!」

ディーンの指差す方を見て驚きに目を見開いた。

「えっ?あっ!」

森の中にぽっかり空いた草地に丸太小屋・・・と言うか大きさ的にはログハウスと言っていいだろうか?。

「こ、これって・・・?」

「多分、誰かの狩猟小屋だと思う。多分どこかの貴族のものだと思うけど。・・・でも助かった。今夜はここに泊まらせて貰おう」

ディーンはそう言って、私の手を握ったままスタスタと小屋に向かい始めた。

予想していたが、小屋の入り口には鍵がかかっていた。ディーンはそれを魔術で難なく外すとドアをゆっくりと押し開けた。

そして入口から中の様子を確認すると、「大丈夫そうだ」と言って私を中に入らせた。

小屋の中は思ったよりも広くてソファに椅子とテーブル、暖炉やちょっとした台所もある。二間ある向こうの部屋は、小さいけれど寝室のようだ。

こんな森の中にあるにしては調度品が揃っていて、簡単な食器やタオル、毛布なんかも綺麗に整頓されて置いてあった。

だけど・・・

(何で、森の狩猟小屋のカーテンがピンク色?)

サーモンピンクと言った方が近いだろうか・・・同じ色の円形の絨毯も敷かれていた。置いてある小物類もやたらと可愛い柄だ。

(乙女趣味の人の小屋なのかな?)

「狩猟小屋というか・・・小さな別荘みたいですね」

きっと持ち主はお金持ちの商人の娘とか、もしかしたら貴族のご婦人かもしれない。

(勝手に入って大丈夫かな?。見つかったら文句言われそう・・・)

ディーンはそんな事は気にならないのか、部屋のランプにさっさと火をつけた。そして外にあった井戸で水を汲むと、てきぱきと台所で湯を沸かし始める。

「あっ、て、手伝いますよ」

カップと、ついでにお茶の葉も少し拝借して私達はテーブルでお茶を飲んだ。

「野宿しなくて済んで本当に良かったです・・・」

夜の森は怖い。初夏とは言え夜中はそこそこ冷えるし、もしかしたら野生動物がいるかもしれない。

(小屋を見つけられてラッキーだったな)

やっと人心地着いた気分だった。だけどディーンは私の言葉に頷いてはいるけれど、さっきから黙ったままだ。それにどこか緊張している様にも見える。

(どうしたのかな?。ディーンも疲れたのかもしれないな・・・)

私もお茶を飲み終わってから、急に眠気を感じていた。

「ディーン。時間は少し早いけど、そろそろ寝た方が・・・」

言いかけて私は気づいた。

(ん?・・・寝る?・・・今夜はここでディーンと二人っきりって事で・・・)

そう考えた途端に眠気なんて吹っ飛んでしまった。

隣の部屋にはベッドが一つ。熱くも無いのに顔から汗が流れ落ちた。

(どどど、どうしよ・・・え?・・・どうしたら?)

焦ってる私の心情を知ってか知らずか、ディーンは急に立ち上がると、ドカッと音を立てながらソファに座った。長い脚を組んで、ついでに腕も組んで背もたれにもたれる。

「リナは隣室のベ、ベッドを使うと良い。私はここで寝るから」

そう言われて私は慌てた。

「そ、そんな・・・。駄目です!。ディーンは今日の戦いで、魔力を沢山使って疲れているはずです。ディーンがベッドで寝てください!」

イーサンや黒フードの攻撃から私達を守る為にずっとシールドを張っていたのだ。

「そう言えば!怪我は?イーサンにやられた怪我は大丈夫なのですか?」

思い出して私はディーンに詰め寄った。

「確か片腕が動いて無かったですよね?。骨が折れてたんじゃ・・・それに、頭からも血が出てたし、体中に傷が・・・・」

ソファに座ったディーンの怪我の状態を調べようと、あちこち顔を近づける。

するとディーンは突然、ソファから飛び退って私から離れた。

「だ、大丈夫!。殿下に治癒魔術をかけて貰ったから!」

「でもさっき倒れてたし、治癒魔術で完全に治ったわけじゃ無いですよね!?。どこか痛いとこは無いですか?」

近づく私にディーンは片手を上げて手の平を向けた。

「大丈夫だから!。頼むからあまりこっちに来ないでくれ!」

そう叫んだ。

(あ・・・)

お腹の中が急に冷たくなったような気がした。

(ディーンは・・・私に触れられたくないんだ)

頭がなんだかくらくらする。

(・・・嫌われた・・・)

眉が下がった情けない顔を見られたくなくて、私は下を向いた。

「す、すみません。嫌だったですよね・・・離れます」

声が震えるのを必死で抑えて、私はディーンに背を向けた。
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