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第8章 悪役令嬢は知られたくない
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私達は今、モーガン先生を捜索する憲兵達の本部に居た。
「サグレメッサ・モーガンの病院からの足取りは掴めたのか!?」
「城下のサバス地区を調査しましたが、見つかっておりません」
「少尉、西地区にモーガンの目撃情報がありました。直ちに向かいます!」
がやがやと忙しい本部で、私達3人は完全にスルーされている。
と言うのも、
(姿と気配を隠す魔術、強化バージョン成功!)
私がグローシアに力を供給する事で、グローシアの魔術はディーンと私にも効果を発揮した。
私達は堂々と憲兵隊本部の建物に入った。そして隠れている訳では無いのに誰にも咎められない。
誰かにぶつからない限り、見つかる事は無さそうだ。
(本当は私とグローシアだけで来たかったんだけどな・・・)
ディーンは怪我が治りきっていないし、かなり疲れている。私達が調査している間に休んで欲しいと言ったのに、彼は一緒に行くと言ってきかなかった。
(ディーンは頑固だからなぁ・・・)
私は隣で真剣な顔で立っているディーンを見上げて溜息をついた。心配なのに、一緒に居られるのは少し嬉しい・・・。
(・・・でもとにかく、何か情報を手に入れなきゃ)
すると、外から慌てた様子でバタバタと駆け込んで来た一人の憲兵の姿が見えた。
「ジョージア・キンバリーとケイシー・バークレーらしき者の目撃情報がありました!」
「どこだ!?」
(ジョー!、ケイシー!)
私達は耳をそばだてた。
「城下のディガナ地区の河の船着き場で、赤い髪の女と茶色の髪の男が船に乗り込む所を見た者がいるようです」
「モーガンは一緒じゃ無かったのか!?」
「それについては不明なようで・・・」
少尉と呼ばれた男性は少し考える様にしていたが、
「二人はどんな格好をしていた?」
「男の方は特に目立つ服装では無かったようですが、女の方は男性が着る様なズボン姿だったそうです!」
「何!?。ジョージア・キンバリーは伯爵家の令嬢だぞ!。ズボンなんぞ穿くわけ無いだろう!。人違いだ!」
少尉はその情報を切り捨てて、他の報告を聞き始めた。だけど、
(ううん!。ジョーに間違いない!)
ジョーは男勝りで乗馬も上手い。学園内でもよくズボン姿でウロウロしている事もあって、いつもミリーに注意されていたのだ。
私達は顔を見合わせて頷き合った。
そうして3人固まったまま憲兵隊の本部から外に出て、急いで辻馬車を拾った。
「ディガナ地区の河の船着き場まで。急いでくれ!」
ディーンが御者に行先を告げると、ガラガラと言う音を立てて馬車は進み始めた。
「ジョー達はモーガン先生と別れたのでしょうか?」
「目撃者が単に見逃しただけかもしれない。船着き場で話を聞いてみよう」
ディーンは私の疑問にそう答えた。
船着き場は思ったよりも遠かった。もう時刻は夕方に近い。
「この辺は城下でも外れの方だ。私も来るのは初めてなのだが・・・」
周りの様子を見ると、あまり治安が良さそうには思えない。路上に直接座っている男達が、じろじろと無遠慮な視線を私達に向けて来ていた。
(カツアゲでもされそうな雰囲気・・・)
ディーンとグローシアが私を守る様にサッと動いた。私を二人の影に隠す様にする。
(でも、超イケメンのディーンの方が目立つんじゃない?。グローシアだって美人だし)
私を隠した所で目立つのは防げない気がした。
「急ごう」
ディーンの言葉に私達は船着き場の桟橋に向かった。そして泊めてあった小型船の船首に座っている船頭らしき男性に声をかけた。
「少し聞きたい事がある。今朝のうちにズボンを穿いた赤い髪の少女と栗色の髪の青年を見なかったか?」
ディーンの問いに船頭はじろっと私達を睨むと、手の平を差し出した。ディーンがその手に紙幣を握らせる。すると、
「朝の9時頃に、俺の仲間が乗せてったよ。もう一人黒髪の別嬪な女も一緒だったぜ」
(モーガン先生!?)
私達は顔を見合わせた。
「行先は?」
船頭は再び手の平を出す。ディーンはもう一度紙幣を渡した。
「ダイナスの港だ。もうそろそろ着いてる頃だろうよ」
「ダイナス!?」
ディーンが驚いた声を上げた。
「どうしたのですか?ディーン」
「うちの・・・ギャロウェイ家の領だ。それにダイナス港から出ている船は、外国行きだけなんだ」
「えっ!?」
嫌な予感が私達の頭をかすめる。
グローシアが不安そうな顔で、
「どうしますか?。ダイナスまで行きますか?」
躊躇する様子でそう聞いた。
ディーンも眉を寄せて溜息をつく。
「今から行っても着くのは夜中だ・・・。それに、もう二人は・・・」
ーーーもう何処かの国に行く船に乗ってしまったかもしれない。
ディーンの言い淀んだ内容は予想できた。私もそう思ったから。
だけど私はさっさと泊めてあった船に飛び乗って、船頭に言った。
「ダイナスまでお願いします。お金は言い値で払いますので」
「なっ、アリアナ!?」
ディーンとグローシアも慌てて船に乗り込んで来た。
「馬鹿!。一人で行く気か!」
「いいえ」
私はニッコリ笑った。
「二人とも付いて来てくれるって分かってましたから」
ディーンの呆れた顔とグローシアの慌てた顔を見つめて、
「駄目元でも、出来るだけの事をしたいのです。残念ながら学校をさぼってしまう事になりますが・・・」
そう言うとディーンは苦笑しながら、
「まだ予定では、私達は野外キャンプに参加している頃だよ。・・・そうだな、ギリギリまでやってみようか。どちらにせよ、君は止まらないだろうし」
そう言って、船頭にもう一度行先を告げて運賃を払ってくれた。
グローシアの目からも迷いが消えて、
「私はアリアナの行く所なら、どこなりとお供します!」
私に跪いて騎士の礼をした。
私は二人の手を取って握った。
「きっと、ジョーとケイシーを助け出しましょう!」
夕暮れの河の上を、船は遠くに輝く月に向かって滑って行った。
第9章 終
「サグレメッサ・モーガンの病院からの足取りは掴めたのか!?」
「城下のサバス地区を調査しましたが、見つかっておりません」
「少尉、西地区にモーガンの目撃情報がありました。直ちに向かいます!」
がやがやと忙しい本部で、私達3人は完全にスルーされている。
と言うのも、
(姿と気配を隠す魔術、強化バージョン成功!)
私がグローシアに力を供給する事で、グローシアの魔術はディーンと私にも効果を発揮した。
私達は堂々と憲兵隊本部の建物に入った。そして隠れている訳では無いのに誰にも咎められない。
誰かにぶつからない限り、見つかる事は無さそうだ。
(本当は私とグローシアだけで来たかったんだけどな・・・)
ディーンは怪我が治りきっていないし、かなり疲れている。私達が調査している間に休んで欲しいと言ったのに、彼は一緒に行くと言ってきかなかった。
(ディーンは頑固だからなぁ・・・)
私は隣で真剣な顔で立っているディーンを見上げて溜息をついた。心配なのに、一緒に居られるのは少し嬉しい・・・。
(・・・でもとにかく、何か情報を手に入れなきゃ)
すると、外から慌てた様子でバタバタと駆け込んで来た一人の憲兵の姿が見えた。
「ジョージア・キンバリーとケイシー・バークレーらしき者の目撃情報がありました!」
「どこだ!?」
(ジョー!、ケイシー!)
私達は耳をそばだてた。
「城下のディガナ地区の河の船着き場で、赤い髪の女と茶色の髪の男が船に乗り込む所を見た者がいるようです」
「モーガンは一緒じゃ無かったのか!?」
「それについては不明なようで・・・」
少尉と呼ばれた男性は少し考える様にしていたが、
「二人はどんな格好をしていた?」
「男の方は特に目立つ服装では無かったようですが、女の方は男性が着る様なズボン姿だったそうです!」
「何!?。ジョージア・キンバリーは伯爵家の令嬢だぞ!。ズボンなんぞ穿くわけ無いだろう!。人違いだ!」
少尉はその情報を切り捨てて、他の報告を聞き始めた。だけど、
(ううん!。ジョーに間違いない!)
ジョーは男勝りで乗馬も上手い。学園内でもよくズボン姿でウロウロしている事もあって、いつもミリーに注意されていたのだ。
私達は顔を見合わせて頷き合った。
そうして3人固まったまま憲兵隊の本部から外に出て、急いで辻馬車を拾った。
「ディガナ地区の河の船着き場まで。急いでくれ!」
ディーンが御者に行先を告げると、ガラガラと言う音を立てて馬車は進み始めた。
「ジョー達はモーガン先生と別れたのでしょうか?」
「目撃者が単に見逃しただけかもしれない。船着き場で話を聞いてみよう」
ディーンは私の疑問にそう答えた。
船着き場は思ったよりも遠かった。もう時刻は夕方に近い。
「この辺は城下でも外れの方だ。私も来るのは初めてなのだが・・・」
周りの様子を見ると、あまり治安が良さそうには思えない。路上に直接座っている男達が、じろじろと無遠慮な視線を私達に向けて来ていた。
(カツアゲでもされそうな雰囲気・・・)
ディーンとグローシアが私を守る様にサッと動いた。私を二人の影に隠す様にする。
(でも、超イケメンのディーンの方が目立つんじゃない?。グローシアだって美人だし)
私を隠した所で目立つのは防げない気がした。
「急ごう」
ディーンの言葉に私達は船着き場の桟橋に向かった。そして泊めてあった小型船の船首に座っている船頭らしき男性に声をかけた。
「少し聞きたい事がある。今朝のうちにズボンを穿いた赤い髪の少女と栗色の髪の青年を見なかったか?」
ディーンの問いに船頭はじろっと私達を睨むと、手の平を差し出した。ディーンがその手に紙幣を握らせる。すると、
「朝の9時頃に、俺の仲間が乗せてったよ。もう一人黒髪の別嬪な女も一緒だったぜ」
(モーガン先生!?)
私達は顔を見合わせた。
「行先は?」
船頭は再び手の平を出す。ディーンはもう一度紙幣を渡した。
「ダイナスの港だ。もうそろそろ着いてる頃だろうよ」
「ダイナス!?」
ディーンが驚いた声を上げた。
「どうしたのですか?ディーン」
「うちの・・・ギャロウェイ家の領だ。それにダイナス港から出ている船は、外国行きだけなんだ」
「えっ!?」
嫌な予感が私達の頭をかすめる。
グローシアが不安そうな顔で、
「どうしますか?。ダイナスまで行きますか?」
躊躇する様子でそう聞いた。
ディーンも眉を寄せて溜息をつく。
「今から行っても着くのは夜中だ・・・。それに、もう二人は・・・」
ーーーもう何処かの国に行く船に乗ってしまったかもしれない。
ディーンの言い淀んだ内容は予想できた。私もそう思ったから。
だけど私はさっさと泊めてあった船に飛び乗って、船頭に言った。
「ダイナスまでお願いします。お金は言い値で払いますので」
「なっ、アリアナ!?」
ディーンとグローシアも慌てて船に乗り込んで来た。
「馬鹿!。一人で行く気か!」
「いいえ」
私はニッコリ笑った。
「二人とも付いて来てくれるって分かってましたから」
ディーンの呆れた顔とグローシアの慌てた顔を見つめて、
「駄目元でも、出来るだけの事をしたいのです。残念ながら学校をさぼってしまう事になりますが・・・」
そう言うとディーンは苦笑しながら、
「まだ予定では、私達は野外キャンプに参加している頃だよ。・・・そうだな、ギリギリまでやってみようか。どちらにせよ、君は止まらないだろうし」
そう言って、船頭にもう一度行先を告げて運賃を払ってくれた。
グローシアの目からも迷いが消えて、
「私はアリアナの行く所なら、どこなりとお供します!」
私に跪いて騎士の礼をした。
私は二人の手を取って握った。
「きっと、ジョーとケイシーを助け出しましょう!」
夕暮れの河の上を、船は遠くに輝く月に向かって滑って行った。
第9章 終
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