モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

最終章 悪役令嬢は・・・

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リリーがイーサンに恋をしている事は、前から気付いていた。

（と言っても、私が人並みに恋愛ってもんを理解できるようになってからだけどね、はは・・・）

以前の私は、自分に対する好意にすら気付いて無かったのだから。

（だけど考えてみればさ、ゲームではイーサンは隠れキャラだったから、上手く選択肢を選ばないと会えなかったわけで・・・）

全てのキャラを攻略した上でトラヴィスのルートを選ばなくては、イーサンには出会えないのだ。

（だけどこの世界では、私が1年生の時に誘拐されたせいで、二人はとっくに出会ってしまってたんだよなぁ）

誘拐事件で二人は、闇の魔術と光の魔術でぶつかり合った。

―――闇の魔力と光の魔力は対となり補い合うもの

禁書の部屋にあった本に書いてあった言葉だ。

もしかしたら闇の魔力と光の魔力は、磁石のS極とN極のようなものかもしれない。正反対だけど引き付けあってしまうもの。

（リリーはイーサンに会った途端に、彼に惹かれてしまったのかもしれないなぁ）

教えてくれなかったけど、彼女はずっと誰かに恋をしていた。他の攻略者達・・・皇太子トラヴィスでさえも目に入らない程に。

だけどイーサンの心はヘンルーカで一杯だった。今も昔も、何度身体が変わったとしても、彼女だけを想い続けている。

（くっそ～！イーサンめぇ、リリーを泣かすんじゃないよ！）

リリーを抱きしめながら、握りこぶしを作った。

（あ～殴ってやりたい！目を覚ませと言ってやりたい！いつまでも居ない人を想っていても仕方ないじゃない・・・）

そんなの自分だって辛すぎるじゃないか。

「大丈夫かリリー。・・・出来たらイーサンと一緒に居た時の話をして欲しいのだが・・・」

トラヴィスが気遣いながらもリリーを促した。

リリーは涙を拭きながらゆっくりと立ち上がる。

「すみません・・・もう大丈夫です」

そうして気丈にも、洞窟でイーサンと転移してからの話をしてくれた。

二人が着いたのは皇国の城下街だったそうだ。イーサンはそこにリリーを置いて行こうとしたが、彼女はイーサンの腕を掴んで離さなかった。

「必死でした・・・。離れたら彼は闇の組織を憎む余り、暴走してしまいそうで・・・」

（実際、暴走しただろうな。全員殺すって言ってたし）

おっそろしい奴である。

「彼は私にも攻撃をしてきました」

「な、何ですとぉ！」

（リリーを攻撃しただって！？ゆ、許せん・・・あの野郎・・・）

今度会ったらすり潰してやる・・・。

私の怒りのボルテージが上がったのに気づいたのか、リリーは両手を振りながら

「だ、大丈夫だったんです！彼の攻撃は全力では無かったと思うんです。だって私の魔術で防げたぐらいですから・・・」

リリ―は何故か少し嬉しそうだった。

「そうなんです、手加減してくれたんです。私は一生懸命、光の魔術を使いました。闇の魔術に対抗できるただ一つの方法ですから。そうしたら彼が・・・」

リリーの瞳からまた、一筋だけ涙がこぼれた。

「・・・ヘンルーカを思い出すって・・・光の魔術を見ると、ヘンルーカを思い出すからって、攻撃を止めてくれました。それからは落ち着いてくれて、私達は一緒にリーツを捜していたんです」

リリーは涙を拭いてぺろっと舌を出す。

「私が勝手にくっ付いて行っただけですけどね」

そう言って笑った。

（リリー・・・）

切ない。リリーの気持ちも・・・そしてイーサンの気持ちも切なすぎるぞ。

（あ～しんどい！二人の恋は恋愛初級者には聞いてるだけで辛すぎるよ・・・）

恋愛に関してはまだ、あらゆる方面に免疫が無いのだ。

「そうしているうちに、セルナク行きの船がある事を聞いたのでイーサンの魔術で転移したんです。そうしたらアリアナ達がモーガン先生と戦っていたので驚きました」

「戦っていたと言うか一方的にやられてたんだけどな。だからあの時は助かった」

ディーンが苦笑しながらそう言う。

「イーサンが今、何処にいるのか分かるか？」

トラヴィスの問いに、リリーは首を振った。

「いえ・・・でも、船に転移する前に私にこれを渡してくれました」

リリーは首からペンダントの鎖を引き出す。そこには飾り気の無い、銀色の指輪が通されていた。

「これに魔力を注げば、私達の居場所が彼に伝わります。何かあった時に呼べと。ふふ・・・だから無理やりついていく事はやめました」

リリーは頬を少し染めて、その指輪を大事そうにそっと撫ぜた。