モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

最終章 悪役令嬢は・・・

14

私は先ほどの風で乱された自分の髪を整えるふりをして顔を隠す。

「ディ、ディーンって性格変わりましたよね？。ま、前は絶対そんなじゃ無かったです」

動揺を誤魔化すように口を開いたが、声が少し上ずってしまった。

「そうだね。自分でもそう思うよ。こんな私は・・・気に入らない？」

「そんなこと無いです！」

思わず勢い込んで大声で返事をし、驚いたディーンの顔に我に返った。

（は、恥ずかしい・・・）

顔を伏せる私にディーンは柔らかい声で話し続ける。

「これまで色んな事があっただろ？新しい事に出会って、知らなかった事を知って。嫌な事や辛い事もあったけど、おかげでそれまでの自分が、固い小さな枠の中にいた事に気付いたんだ」

「枠・・・ですか？」

「ああ、その中に居るのはとても楽だった。自分の嫌な部分も知らずに済んだから。・・・君と最初に会った時の事を覚えてる？」

「え？・・・あの、学園の廊下でリリーと居た時の事ですか？」

「そう。私は君とリリーが二人で居るのを見だだけで、君がリリーに嫌がらせをしているのだと思った。正確にはアリアナがだけど」

「あ～ありましたねぇ・・・」

あの頃のディーンは私の天敵だった。

「当時の私は真面目なだけが取り柄で、頭の固い融通の利かない子供だった。自分の考えだけが正しいって思い込んでいたんだ」

「そ、そこまで言わなくても・・・」

近いものはあったけど、それはゲームでそういう設定だったから仕方無いのじゃなかろうか？

ディーンは苦笑しながら、

「これでも自分の至らない部分や、馬鹿な所に気付く様になって、自己嫌悪で落ち込んだりもしたんだよ。気付いてた？」

「いえ、全然・・・」

そう答えるとディーンは「あっはは・・・」と屈託なく笑った。こんな少年っぽい所も昔は見られなかった。

私は気になって聞いてみた。

「あの・・・今はどうなんですか？」

「何が？」

「まだ・・・落ち込んでたりします？」

「・・・たまにね。私はズルい人間だから。・・・アリアナにも『クズ男』って言われたしね」

「あ、あれは！違うじゃないですか！ただのアリアナの勘違いで・・・」

「違わないよ。それに『クズ男』でも良いかなって思ってるんだ」

「え！？」

驚く私にディーンは悪戯っぽい目を向けた。

「それ以上落ちようが無いだろう？・・・最近はさ、落ち込むならとことん落ち込む事にしてるんだ。そうすれば、後は登るだけだから」

（え・・・？）

「くだらない事は考えないで、行動する事に集中しようと思って。そうしてたら、少し気持ちが楽になった」

穏やかな笑みを浮かべる彼に、私は胸が熱くなった。

（同じ・・・私もそうなんだよ・・・）

彼が語った事は、いつも私が大事にしていた儀式。

（辛い時はいつもそうやって、自分を励ましてたんだ・・・）

一人じゃない。

心が震える程、嬉しかった。

「・・・そろそろ戻ろう。風が冷たくなってきた」

ディーンが自分の上着を私にかける。私が「ありがとう」と笑いかけると、彼の頬が少し赤くなった。

「あのさ・・・一つだけ聞いて良い？」

「何でしょう？」

ディーンは言いにくそうにもごもごしつつ、

「どうして・・・リガーレ公爵が嫌なんだい？」

「は・・・？」

「彼は私よりもずっと大人だし、権力も経済力も上だ。周りの評判だって良い。なのにどうしてそんなに嫌っているのかと思って・・・」

心底不思議そうに聞いてくる。

（この世界にはロリコンと言う概念は無いのだろうか・・・？）

そう思いながら、私は溜息をつきつつ説明した。

「ディーンは両親が亡くなった10歳の少女を、色ボケた邪な気持ちで引き取ろうとする血の繋がらない叔父がいたらどう思います？」

「え？」

「終始、気持ち悪い目で見られたらどんな気持ちになりますか？」

「リナ・・・！？」

私は危ないところで、祖父の元へ逃げる事が出来た。だけど、それ以来ロリコンだけはこの世の中で一番の敵なのだ！

「リガーレ公爵は顔もそっくりなんです！」

ディーンは最初、呆気に取られた顔をしていたけど、そのうちホッとしたような顔で笑い始めた。

「どうして笑うんです？」

「幸運だったなと思って。私がリガーレ公爵より有利なのは、君と年が近いという事だけだから」

「え、まさか！何を言ってるんです？ディーンの方がずっとカッコいいじゃないです・・・か・・・」

言いながら急に恥ずかしくなってきた。

借りてる上着を頭からかぶって顔を埋めると、その上からふわりと抱きしめられた。

（う・・・！？）

「お休み、リナ・・・」

ディーンの去って行く足音を聞きながら、私は口から半分魂が抜けだした気分になっていた。