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最終章 悪役令嬢は・・・
22(リリー目線)
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私は指輪に魔力を注いだ。
―――何かあったら俺を呼べ
そう言って渡してくれたこの指輪の内側には『ヘンルーカ』の文字が刻まれていた。
私はこれを貰った瞬間に理解していた。「何か」とはアリアナに何かあった時なのだと。
今、アリアナの身体はエンリルに支配されている。ううん、エンリルの精神の容れ物になってしまっている。
(助けなくては・・・アリアナを。絶対に!)
そして指輪がひときわ大きく輝いた時、晩餐会場の空間が奇妙に歪んだ。
「イーサン!」
一番大きな窓を背にして、イーサンは空中に浮かんでいた。彼は私をチラッと見ると、アリアナの姿のエンリルに視線を移した。
アリアナの顔をしたエンリルが奇声を上げた。
「あああ!ライナス、来てくれたのね!」
エンリルは喜色を浮かべて、イーサンを見上げて両手を広げた。
「待ってたわ!どう?この身体なら、貴方もお気に召すんじゃ無くて?」
そう言ってくるりと回ってみせると、スカートがふわりと舞った。彼女は可愛らしい笑みを浮かべて、こてんと首を傾げた。
「ね?ライナス、早く下りて来て。ヘンルーカの身体よ。そして今は私の身体になったの。素敵でしょ?」
そう言って笑ったエンリルの顔が凍り付いた。
一瞬の間にイーサンは音も無くエンリルの背後に転移していた。そして一言もエンリルの呼びかけに答える事無く、彼女の頭を挟む様に両手を広げた。
その途端、部屋の中に濃密な魔力の波動が満ち始めた。
「ライナス!!何を!」
「終わりだと言ったはずだ」
イーサンの声からは、感情の欠片すら感じられない。
エンリルの身体が恐怖に震えた。
彼女の頭のすぐ横に添える様にしているイーサンの五本の指から光が走り、アリアナの身体からエンリルの精神を絡め取っていく。
「い、いやあああ!ライナス~!!」
獣の咆哮のようなエンリルの叫び。だけどその声が次第に細くなっていく。
「ライナス・・・あ・・・ああ・・・」
アリアナの身体が糸の切れた人形の様に力を失う。倒れかけたところをディーンが素早く駆け寄り、腕の中に受け止めた。
そしてイーサンの両手の中には、ぬらぬらとした血の様に赤黒い何かが閉じ込められていた。
(あれは・・・エンリルの精神!?)
そう呼ぶにはあまりにも醜悪で惨めなその姿に、私は目を逸らしそうになる。
そしてずっと何の感情も見せ無かったイーサンが、祈る様に目を瞑った。
(イーサン・・・?)
だけど次の瞬間、彼は両手に渾身の魔力を込めて、そのままエンリルの精神を握りつぶした。その途端、大音響と共に部屋中の窓ガラスが全て吹き飛ぶ様に割れた。
「うっ!」
「うわぁ!」
殿下とグローシアの声。ディーンがアリアナを庇う様に覆いかぶさる。
そしてヒィ~・・・・と言う細い女の悲鳴の様な音が、たなびく様に部屋にこだましていく。
しがみ付く様に長く響いていたその音は、どこかに吸い込まれるように少しずつ小さくなり、やがて静寂に飲まれて聞こえなくなった。
(消えた・・・エンリルが・・・)
私はハッとしてアリアナを見る。ぐったりとして動かない彼女を見て、背筋がゾッと寒くなった。ディーンが真っ青な顔でアリアナを抱きしめている。
「イーサン!アリアナは?アリアナはどうなったの!?」
私の問いには答えず、彼は両腕を広げ始めた。両手の指と指の間に、今度は青白いモヤのような光が浮かぶ。
(これは・・・・!?)
何が起きているのかは分からなかったけど、先程の魔術とは違っていた。
モヤはイーサンの手に操られる様に回転しながら少しずつは大きな輪となり、ゆっくりと宙に浮いて行った。しかし急に何かに吸い込まれたように消えてしまう。
(え!?)
だけどその消えた空間から突然、3つの光の球が現れた。
一つは柔らかく金色に輝く一番大きな光。一つは小さいけど砂金の様にキラキラ光っている。そしてもう一つはルビーの様に赤く輝く大きめの光だ。
イーサンはそれを見て一瞬だけ眉をひそめた。だけど直ぐに元の様子に戻り、誘う様に手をと降ろした。
すると3つの光はふわりとディーンに腕の中にいるアリアナの集まると、くるくると回りながら静かに彼女の身体の中へと消えていった。
「・・・アリアナ」
ディーンが彼女の髪を撫でる。アリアナの頬には先ほどまで見られなかった赤みが差していた。
「頼む・・・目を覚ましてくれ」
哀願する様なディーンの声。そしてそれに応える様に、アリアナの瞼が動いた。
「アリアナ・・・!」
彼女はゆっくりと目を開いて、不思議そうに瞬きをする。
ディーンの瞳から涙がぽたぽたと零れ落ち、アリアナの頬を濡らした。彼女はしばらくぼんやりと見上げていたけど、突然火を吹いたかのように顔を真っ赤にさせた。
「うあ!・・・イケメンの涙・・・」
なにやら呟くと、耳まで真っ赤にして両手で顔を覆った。
(間違いない。アリアナだわ!良かった・・・本当に良かった・・・)
「尊い・・」「刺激が」と良く分からない事を言い続けているアリアナを見て、私は安堵でその場に座り込んでしまった。
イーサンはしばらく黙ったままディーンとアリアナを見ていた。そして無表情のまま彼らに背を向けた。
―――何かあったら俺を呼べ
そう言って渡してくれたこの指輪の内側には『ヘンルーカ』の文字が刻まれていた。
私はこれを貰った瞬間に理解していた。「何か」とはアリアナに何かあった時なのだと。
今、アリアナの身体はエンリルに支配されている。ううん、エンリルの精神の容れ物になってしまっている。
(助けなくては・・・アリアナを。絶対に!)
そして指輪がひときわ大きく輝いた時、晩餐会場の空間が奇妙に歪んだ。
「イーサン!」
一番大きな窓を背にして、イーサンは空中に浮かんでいた。彼は私をチラッと見ると、アリアナの姿のエンリルに視線を移した。
アリアナの顔をしたエンリルが奇声を上げた。
「あああ!ライナス、来てくれたのね!」
エンリルは喜色を浮かべて、イーサンを見上げて両手を広げた。
「待ってたわ!どう?この身体なら、貴方もお気に召すんじゃ無くて?」
そう言ってくるりと回ってみせると、スカートがふわりと舞った。彼女は可愛らしい笑みを浮かべて、こてんと首を傾げた。
「ね?ライナス、早く下りて来て。ヘンルーカの身体よ。そして今は私の身体になったの。素敵でしょ?」
そう言って笑ったエンリルの顔が凍り付いた。
一瞬の間にイーサンは音も無くエンリルの背後に転移していた。そして一言もエンリルの呼びかけに答える事無く、彼女の頭を挟む様に両手を広げた。
その途端、部屋の中に濃密な魔力の波動が満ち始めた。
「ライナス!!何を!」
「終わりだと言ったはずだ」
イーサンの声からは、感情の欠片すら感じられない。
エンリルの身体が恐怖に震えた。
彼女の頭のすぐ横に添える様にしているイーサンの五本の指から光が走り、アリアナの身体からエンリルの精神を絡め取っていく。
「い、いやあああ!ライナス~!!」
獣の咆哮のようなエンリルの叫び。だけどその声が次第に細くなっていく。
「ライナス・・・あ・・・ああ・・・」
アリアナの身体が糸の切れた人形の様に力を失う。倒れかけたところをディーンが素早く駆け寄り、腕の中に受け止めた。
そしてイーサンの両手の中には、ぬらぬらとした血の様に赤黒い何かが閉じ込められていた。
(あれは・・・エンリルの精神!?)
そう呼ぶにはあまりにも醜悪で惨めなその姿に、私は目を逸らしそうになる。
そしてずっと何の感情も見せ無かったイーサンが、祈る様に目を瞑った。
(イーサン・・・?)
だけど次の瞬間、彼は両手に渾身の魔力を込めて、そのままエンリルの精神を握りつぶした。その途端、大音響と共に部屋中の窓ガラスが全て吹き飛ぶ様に割れた。
「うっ!」
「うわぁ!」
殿下とグローシアの声。ディーンがアリアナを庇う様に覆いかぶさる。
そしてヒィ~・・・・と言う細い女の悲鳴の様な音が、たなびく様に部屋にこだましていく。
しがみ付く様に長く響いていたその音は、どこかに吸い込まれるように少しずつ小さくなり、やがて静寂に飲まれて聞こえなくなった。
(消えた・・・エンリルが・・・)
私はハッとしてアリアナを見る。ぐったりとして動かない彼女を見て、背筋がゾッと寒くなった。ディーンが真っ青な顔でアリアナを抱きしめている。
「イーサン!アリアナは?アリアナはどうなったの!?」
私の問いには答えず、彼は両腕を広げ始めた。両手の指と指の間に、今度は青白いモヤのような光が浮かぶ。
(これは・・・・!?)
何が起きているのかは分からなかったけど、先程の魔術とは違っていた。
モヤはイーサンの手に操られる様に回転しながら少しずつは大きな輪となり、ゆっくりと宙に浮いて行った。しかし急に何かに吸い込まれたように消えてしまう。
(え!?)
だけどその消えた空間から突然、3つの光の球が現れた。
一つは柔らかく金色に輝く一番大きな光。一つは小さいけど砂金の様にキラキラ光っている。そしてもう一つはルビーの様に赤く輝く大きめの光だ。
イーサンはそれを見て一瞬だけ眉をひそめた。だけど直ぐに元の様子に戻り、誘う様に手をと降ろした。
すると3つの光はふわりとディーンに腕の中にいるアリアナの集まると、くるくると回りながら静かに彼女の身体の中へと消えていった。
「・・・アリアナ」
ディーンが彼女の髪を撫でる。アリアナの頬には先ほどまで見られなかった赤みが差していた。
「頼む・・・目を覚ましてくれ」
哀願する様なディーンの声。そしてそれに応える様に、アリアナの瞼が動いた。
「アリアナ・・・!」
彼女はゆっくりと目を開いて、不思議そうに瞬きをする。
ディーンの瞳から涙がぽたぽたと零れ落ち、アリアナの頬を濡らした。彼女はしばらくぼんやりと見上げていたけど、突然火を吹いたかのように顔を真っ赤にさせた。
「うあ!・・・イケメンの涙・・・」
なにやら呟くと、耳まで真っ赤にして両手で顔を覆った。
(間違いない。アリアナだわ!良かった・・・本当に良かった・・・)
「尊い・・」「刺激が」と良く分からない事を言い続けているアリアナを見て、私は安堵でその場に座り込んでしまった。
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