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第一章 動き出した予言
動き出した予言(2)
しおりを挟む机に叩き付けた手を下げ、身を起こした飛竜は低い声で呟いた。
「お前……俺をうまいこと使っていたんだな?あの小僧を育てる時間を確保するため、一族の連中の目を逸らすため、一族の信頼を得た俺を矢面に立たせて間接的に一族の統制を取っていたんだな?
何なら織哉が魔物に堕ちたことも知っていたんだろう?」
今の輝明の、まるで神刀の様な威圧のある眼は、飛竜は久しぶりに見た。
十三年前、身内びいきと揶揄されるほど重用していた弟・織哉を手に掛け、輝明は眼から光が消えたように見えた。
事件以前は縁を結ぶ神刀・火雷のごとく炎の様な気性だったが、不正を見ても声を荒げることもなくなり、輝明の変わりように、一族の規律も緩んでいった。
飛竜自身も気概を失った輝明を甘く見ていた。自分が一族を支えていると、自分が実質一族の長だと思い込んでいた。
けれど違った。野心を見透かされ逆手に取られ、便利に使われ隠れ蓑にされていただけだった。
その間輝明は、着々と自分の目的を果たしていたのだ。
怒り心頭の飛竜を、輝明は平素と変わらぬ感情の読めない顔でいなす。
「思う存分当主の立場を味わえただろう。長年の夢が叶ったな」
煽られて、正に爆発した羞恥と憤怒を、飛竜は両手を握りしめて何とかこらえた。
そして一見巌の様に落ち着いた、しかし眼は瞬時に斬られそうな殺気の溢れる輝明へと言う。
「お前は織哉と正反対の性格だと思っていたが、やはり兄弟だな。腹の黒さが瓜二つだ」
やっとそれだけを切り返し、飛竜はきびすを返し、執務室の扉へと向かった。
「次の魔物の襲撃は、九日後、十三夜の月の夜だ。一族の総力を挙げて迎え討つ」
背中に掛けられた言葉に、飛竜が足を止め、振り向く。
「……先視か。どうせ肝心な所はお前達神刀の使い手にしか視えないのだろう。今までもあの小僧を火雷で我々の先視から隠し、皆を欺きやりたい放題だな。
御乙神一族はお前達神刀の使い手達の玩具ではないんだぞ」
半身を振り返り睨み付け、精一杯の苦言を投げつける。
輝明は、それでも感情の読めない顔で返した。
「その前に明日、輝を柱として上位の術師達にもう一度占わせる。お前は分家達に九日後の事を伝え、準備をさせろ。ただし無理強いはするな。命の保証は全く無いからな」
今までのやり取りは無かったかのように淡々と伝えてくる輝明に、飛竜は肩を揺らし荒く嗤った。
「神刀を取り戻したら急に偉くなったな。結局は神刀の力が無いと物も言えんのだな」
「何とでも言え。お前がいくら息巻こうと、僕が宗主でお前が分家である事は変わらない」
睨んでくる目は、理性が見えるくせに獰猛で、昔から、子供の頃から、健信はこの輝明の目が本当に苦手だった。
「お前は僕の配下だ。さっさと言われた仕事をしろ」
気圧されて、言葉が出ないまま飛竜は執務室を出て行った。
執務室は広大な宗家屋敷のほぼ中央、屋敷の深奥に位置し、生活音などの雑多な物音は届かない。
しんと静まった執務室で、輝明はワーキングチェアに腰掛けたまま微動だにしない。
飛竜と入れ替わるように軽い足音が近づいてきて、扉をノックする。輝明の返答を聞いて入ってきたのは、お茶の盆を持った家政婦の折小野三奈だった。
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