3 / 47
第一章 動き出した予言
動き出した予言(1)
しおりを挟む「どういうことだ」
革張りのワーキングチェアに座る輝明に、飛竜は執務机に両手を着き詰め寄る。大柄な飛竜が怒り心頭で睨んでくる姿は、成人男性でもたじろぐ迫力だ。
けれど輝明は平静な様子で飛竜を見返している。普段はかけているサングラスを外した顔は、醜い傷跡が右目を潰し顎まで到達している。壮絶な相貌だった。
今にも殴り飛ばされそうな威圧を放つ飛竜を、残った左目だけで見やっている。その眼は飛竜の威圧以上に肝のすわった眼差しで、巨石のように重い。
家柄などの作られた階級ではなく純粋な力関係は、明らかに輝明が上だった。
ここは霊能術家・御乙神一族の宗家、御乙神家の屋敷にある執務室だ。和風家屋の屋敷に馴染むレトロモダンの洋室に、ウォールナット製の広い執務机が鎮座している。
使い込まれて良い艶の出た机を挟んで、分家の代表である分家頭・飛竜家当主の飛竜健信と御乙神一族の宗主・御乙神輝明は、斬り合うような眼で睨み合っていた。
「何でまだ『アレ』を生かしているんだ。これだけの被害が出ているんだぞ、どれだけ分家や他流派に迷惑をかけたと思っているんだ。謝罪の意思を示す一番の行動は、さっさと殺して何なら生首でも晒すべきだろうが!」
また失敗を繰り返す気か!と、声を荒げ焦げ茶色の天板を叩く。
机の上にあったデスクトップパソコンが一瞬空に浮き、着地して、その動きに何ら関心を向けず、輝明はひじ掛けに手を置いたままようやく口を開いた。
「明は殺さない。あの子は今回の襲撃に何ら関与していない。むしろ千早と共に反閇を舞い、我々を助けてくれた。神刀の間に立て籠もっていた使用人達も魔物から守ってくれた。今回の事件に、明は何の関係もない」
「関係が無い訳ないだろう!魔物の首魁の息子だぞ!しかも御乙神一族を滅ぼすと予言された『滅亡の子』だ!今に本性を見せて父親と共に我々を殺しにかかるに決まっている!
何度騙されれば気が済むんだ!また裏切られるぞ、十三年前と同じようにな!」
十八年前、御乙神一族の占術師達は一斉に、一族が滅亡する未来を視た。
そしてあろうことか一族を滅亡させる『滅亡の子』は、宗主の実弟であり神刀・建速の使い手である、御乙神織哉を父として生まれてきた。
織哉の本心を見抜けなかった輝明は、一族中の不信を買い、宗家の威信は失墜した。
信頼を取り戻すべく輝明は行方をくらました弟を探し出し、激戦の末、両親もろとも滅亡の子を抹殺した。
けれど輝明は大怪我を負い体に障害が残った上、宗家の威信はさほど戻る事はなかった。
代わりに、滅亡の子を産むと予言された女性の抹殺を声高に主張していた飛竜健信が、一族内の信を集め政治の舵取りをするようになった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる