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第一章  動き出した予言

動き出した予言(1)

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「どういうことだ」

 革張かわばりのワーキングチェアに座る輝明てるあきに、飛竜ひりゅう執務机しつむつくえに両手を着きめ寄る。大柄おおがらな飛竜が怒り心頭しんとうにらんでくる姿は、成人男性でもたじろぐ迫力はくりょくだ。

 けれど輝明てるあき平静へいせいな様子で飛竜ひりゅうを見返している。普段はかけているサングラスを外した顔は、みにく傷跡きずあとが右目をつぶあごまで到達とうたつしている。壮絶そうぜつ相貌ようぼうだった。

 今にもなぐり飛ばされそうな威圧いあつはなつ飛竜を、残った左目だけで見やっている。その飛竜ひりゅうの威圧以上にきものすわった眼差まなざしで、巨石きょせきのように重い。

 家柄いえがらなどの作られた階級かいきゅうではなく純粋じゅんすい力関係ちからかんけいは、明らかに輝明が上だった。


 ここは霊能術家れいのうじゅか御乙神みこがみ一族の宗家そうけ御乙神みこがみ家の屋敷にある執務室しつむしつだ。和風家屋わふうかおくの屋敷に馴染なじむレトロモダンの洋室に、ウォールナット製の広い執務机が鎮座ちんざしている。

 使い込まれて良いつやの出た机をはさんで、分家の代表である分家頭ぶんけがしら飛竜ひりゅう家当主の飛竜健信けんしんと御乙神一族の宗主そうしゅ・御乙神輝明てるあきは、り合うようなにらみ合っていた。

「何でまだ『アレ』を生かしているんだ。これだけの被害が出ているんだぞ、どれだけ分家ぶんけ他流派たりゅうはに迷惑をかけたと思っているんだ。謝罪しゃざいの意思を示す一番の行動は、さっさと殺して何なら生首なまくびでもさらすべきだろうが!」

 また失敗をり返す気か!と、声を荒げげ茶色の天板てんばんたたく。

 机の上にあったデスクトップパソコンが一瞬いっしゅんくうに浮き、着地ちゃくちして、その動きになんら関心を向けず、輝明てるあきはひじけに手を置いたままようやく口を開いた。

あきらは殺さない。あの子は今回の襲撃しゅうげきに何ら関与かんよしていない。むしろ千早ちはやと共に反閇へんばいを舞い、我々を助けてくれた。神刀しんとうの間に立てもっていた使用人達も魔物まものから守ってくれた。今回の事件に、明は何の関係もない」

「関係が無い訳ないだろう!魔物の首魁しゅかいの息子だぞ!しかも御乙神みこがみ一族をほろぼすと予言された『滅亡めつぼうの子』だ!今に本性ほんしょうを見せて父親と共に我々われわれを殺しにかかるに決まっている!
 何度だまされれば気がむんだ!また裏切うらぎられるぞ、十三年前と同じようにな!」

 
 十八年前、御乙神一族の占術師せんじゅつし達は一斉いっせいに、一族が滅亡する未来をた。

 そしてあろうことか一族を滅亡させる『滅亡の子』は、宗主の実弟じっていであり神刀しんとう建速たけはやの使い手である、御乙神織哉おりやを父として生まれてきた。
 
 織哉おりやの本心を見抜みぬけなかった輝明てるあきは、一族中の不信ふしんを買い、宗家そうけ威信いしん失墜しっついした。

 信頼を取り戻すべく輝明は行方ゆくえをくらました弟を探し出し、激戦げきせんの末、両親もろとも滅亡の子を抹殺まっさつした。
 
 けれど輝明てるあき大怪我おおけがを負い体に障害しょうがいが残った上、宗家そうけ威信いしんはさほど戻る事はなかった。

 わりに、滅亡めつぼうの子を産むと予言された女性の抹殺まっさつ声高こわだか主張しゅちょうしていた飛竜健信ひりゅうけんしんが、一族内のしんを集め政治の舵取かじとりをするようになった。

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