戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

文字の大きさ
14 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜

第13話  別れの早朝

しおりを挟む

「ちゃんと荷物は全部持った? 忘れ物はない?」
「大丈夫だって、母さん」
「念の為、もう一度確認したほうがいいんじゃないか?」
「まったく、心配性だな」

 家の親は、2人揃って心配性だった。

「どの口が言ってるんだか。荷物の確認を3日前からしてたくせに」
「いや~、ハハ」

 3日前から、農作業の前、修行の前、寝る前……に確認をしてきた。
 してないと落ち着かなかったんだから、しょうがないじゃないか。

「まぁ、ほら。念の為に、もう一度、な。みんなで確認すれば、安心だろ?」
「へいへい。じゃ、出すよ」

 え~と……寝巻き、4日分の服と下着、財布、櫛、タオル5枚、歯ブラシ、歯磨き粉、体を洗うための洗剤、着た服を入れるための袋。

「全部あるな」
「そうね」
「うん」

 3人の確認も取れた。
 この世界では、頭、顔、体全て同じ洗剤で洗っている。
 確か、植物から作られているそうだけど、生憎、この村では作られていない。

 この村は、この領の冒険者学校の給食に使われる食材を生産するための村だ。
 この村と同じような村が他にも1つあって、各領に2つあることになる。
 ちなみに肉は、ある程度自給自足するらしい。

「迎えが来るまで、あと何分だ?」
「あと3時間ね。あ! お弁当作らないと」
「パンかむすびが3つあれば十分だよ。馬車の中なんだし」

 あと3時間……。普通、残り10分とかでしょうよ。一家揃って心配性か。
 死んだじいちゃん、ばあちゃんも心配性だったのかな。



 オレが生まれる数年ほど前、この村に流行り病が訪れたらしい。
 高齢者が特に重症になりやすく、ほとんどの高齢者が死んだ。
 オレの祖父母も、その例に漏れなかった。故に、この村の最高齢が村長なのだ。



 ……することがない。
 体を動かしたいけど、馬車に乗るからな。「汗臭い」とか思われたくないし。
 武器は持ち込み禁止だから村に返したし。
 図鑑に載っている薬草は全部『不可知の書』に写したし。
 村の学校で習ったことは前世の小学校でやったことばっかりだったし。
 荷物は確認したし。

 暇だな~。
 礼儀作法は、前世で高校受験の対策でやったから、ラーファーさんから簡単にオーケーをもらえたし。
 しかも、まだ朝の5時なんだよな。
 あ、動きやすい服に着替えておかないと。着いたらそのまま試験だからな。
 実技試験だから、過去問とかないしな。

 その時、玄関の向こうから、

「──おいライン、起きてるか?」

 と声がした。リーダーさんだな。こんな早朝に……。

「はいはい、起きてますよ~。」

 そう言って玄関の、横移動式の扉を開けた。

「お! やっぱり起きてたか。炊事の煙が見えたから、もしかして、と思ってな」
「で、なんの用? まだ朝の5時だけど」
「ああ。数ヶ月前に、私たちとラーファーとで勝負するって約束しただろ? あれを今からやろうと思ってな。他のみんなは、もう行ってる。ラインに見せてやろうと思ってな。合格したら、そのまま卒業するまで戻ってこれないからな。いや、長期休暇には戻れたな」

 …………。
 そんな話聞いてねぇ。戻ってこられないのかよ。
 長期休暇って、夏休み、冬休み、春休みだろ。

 そこにさらに追い打ちがかかった。

「でもな、金がいるから、休み中はバイトって奴ばっかりで、家に帰るのは貴族連中とか、裕福な人ばかりだったな。仕事は、学校側が斡旋してくれるけど」

 ……帰れないな。
 バイトするしかないな。

「まぁ、いいや。みんなを待たせるわけにはいかないし、行こう」
「よし、少し急ぐか」

 いってきます、と言ってから、リーダーさんと家を出た。

 駆け足で向かいながら、少し雑談をした。

「ライン、学校に入っても私の名はあまり出さないでくれ」
「ああ、なんかあったんだっけ?」

 少し悩んだ顔をしたが、すぐに口を開いた。

「……一応、解決はしてるんだ。昔、同期の奴とくだらないことで喧嘩になってな。冒険者になりたての頃だった。現場にいた近衛騎士に仲裁されたが、それ以来口を利いていない。元から仲はよくなかったんだが」

 前世にもいたな、めっちゃ仲悪いやつ。
 この世界は前世と違って、力……それも、物理的な力がある。

「おまけに、町中だったんだよ。攻撃魔法は互いに使えなかった。だから、肉体での戦いだったんだが、周りが見えてなくて、いろんなものを壊してしまった。だから、評判が悪い」
「それなのに、パーティーで白金までいけたんだ?」
「はは、まあな。ちなみに、私とオーカーは王都出身だ。喧嘩の後、私はここに左遷された。そこにオーカーが頼み込んで来てくれたんだ。ここに来て、フォーレンとアミリスに出会った」

 成り上がりの展開みたいだな。
 オーカーさんが女だったら魅力的な、王道展開なんだけどな~。

「当時、フォーレンはソロで、アミリスはパーティー募集中だったな。少し話すと、すぐに打ち解けられたよ」

 馬があったんだろうな。理想的な流れだ。
 なんか、一つの物語のようだ。ちなみにリーダーの名前はカグナだ。





「と、着いたな」
「お、やっと来たか」

 もう全員着いていた。

「じゃ、早速始めるか」
「そうだな。ライン、頼めるか?」
「大丈夫。オレのことは気にせずに、存分に戦ってよ。それじゃ、開始!」

 その合図を同時に、全員とも身体強化を発動させた。
 やはり、近衛騎士であるラーファーさんは別格だな。魔力が濃い。
 そして、フォーレンさん、アミリスさんの後衛2人は、魔法をすぐに放てるように、手に魔力を集中させているのが見えた。
 ラーファーさん、リーダーさんは剣を、オーカーさんは槍を構えた。
 ラーファーさんは大上段に構え、リーダーさんは正眼の構え。
 先に動き出したのは、ラーファーさんだった。

「ぜりゃああ!」

 剣を大上段に構えたまま走りだし、そのまま振り下ろした。
 それをリーダーさんが受け止めるが、力に押され、吹き飛ばされてしまう。

 その隙に、左斜め後ろからオーカーさんが突きを、正面からフォーレンさんが『火球ファイアーボール』を放つが、避けられてしまう。

「たしかに、チームワークは悪くない」
「覚醒者様に勝てるほどじゃないってか」
「俺は単騎での戦いを得意としているからな。なんとも言えない」

 たしかに、相手に攻撃をさせる暇を与えないように動いているし、攻撃のタイミングも合わせられている。
 やっぱり問題は、個人の力不足……かな。

 個人でのランクはきっと、白金もないだろう。
 リーダーさんとオーカーさんは金。
 フォーレンさんは、中級クラスの『火球ファイアーボール』を放てるが、習得魔法数が少ないため、銀。
 アミリスさんは回復術士であるため、ランクはない。

 それに対して、ラーファーさんはおそらくオリハルコン級。チームでのランクですら、ラーファーには及ばない。

 そこからは、金属と金属がぶつかり合う音、火が燃える音、魔法の詠唱だけが聞こえた。

「フッ!」
「ハ!」
「オォ!!」

 2人の正面からの攻撃を一撃で弾き返した。
 だが、2人の間から突如現れた『火球ファイアーボール』をもろに受け、吹き飛ばされてしまった。

「ガハッ!」
「よし! ナイス、フォーレン!」

 ようやく攻撃が入ったか。
 なるほど、『火球ファイアーボール』を圧縮したのか。
 それで一回り小さく、爆発の威力を高くした。
 多分その代償として、射程距離が短くなるんだろう。少し前に出て撃っていたし。

「──ホァ!」





「──勝負あり! ラーファーさんの勝ち!!」
「ちぇーっ。ほんの少ししか攻撃当たんなかったぞ」
「正確には、3つだな。かすったのも含めたら10は行くか」
「さすが、近衛騎士ね」
「回復役がいなければ、もう少し速く終わっていた」

 回復術士、治癒術士、回復魔術師、回復役。
 いろんな呼び名があるんだな。それはさておき、リーダーさんは清々しい顔をしている。
 オーカーさんは悔しそうな顔、フォーレンさんは疲れて息切れしている。
 ラーファーさんは流石に何も変わっておらず、アミリスさんは少し呼吸が乱れている。

「おつかれさん。ほら、オルオの実採ってきたよ」
「お! ありがとな、ライン」

 みんなありがとうと言ってから、オルオの実を食べ始めた。
 オレもそこに入って食べる。

「ん~、おいしい。そういえば、こんなに回復魔法使ったの久しぶりね」
「フォーレンも回復魔法覚えたら?」

 それとなく話を振ってみた。

「回復魔法は消費魔力が多いからな。それに、適性がないと覚えられないし、他の魔法を覚える余裕はないしな。私には無理だ」

 う~む。覚えれるかと思ったが、無理そうだな。諦めよう。





「ラインがいなくなると寂しくなるな」
「帰って来れるときは、帰って来てね?」
「わかってるよ。父さん、母さん」

 もうすぐ、迎えの馬車が来る。

「ライン、強くなって帰ってこいよ」
「わかってるよ、兄さん」

 家族との別れの言葉は済ませた。流石に寂しいな。 

 前世の家族は、元気にしてるだろうか。
 ただ、不思議と未練は何もない。一度死んだせいだろうか。

「馬車が来たぞ!」

 その一声で、考えるのをやめた。
 多分、答えは出ないだろう。出ても、納得できないかもしれない。

 なら、今を生きればいい。

「──いってきます!」

 そしてオレは、馬車に乗り込んだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...