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第二章 〜水晶使いの成長〜
第46話 体育祭⑤
しおりを挟むまだだ。
まだ。
だが、そろそろ体力が……っ。
ターバも同じか。
このまま長期戦になれば、根気での戦いとなる。それは、戦いとは少し違うと、オレは思う。
ターバとの間に、3メートルほどの隙間ができれば……勝てるかもしれない。
吹き飛ばすか、吹き飛ばされるか。
選ぶのは前者だ。
だが、ターバの息もつかせぬ連撃が、それを許してくれない。
どこかで……そうだ! 水晶を忘れてたぜ。
ターバの腕は2本しかないんだ。
どうする。
どれを選ぶ。
いつやる。
それに、生成物によっては時間がかかる。
体と思考を分離させろ。
まず、生成時間。
実は、あまり大したことはないんだ。コンマ数秒にも満たない差しかない。だが、コンマ数秒でも変わることが、勝率を左右する。
そして、何を選ぶか。
『晶拳』、『晶鎖』、『晶盾・大』のどれか。
『晶弾』。その中でも、機関銃タイプ、散弾銃タイプ……『晶弾・機関』、『晶弾・散弾』だな。
『晶弾・乱』もあるが。『晶弾』にいろいろなタイプを考えたからな。
ここは『晶鎖』でいこう。
生成時間はプログラミングを使って短縮できる。プログラミング前は『晶弾』を上から下――『晶弾・雨』で。
いや、数がバカにならない。……よし!
「そろそろ決着と行こうか!」
あら? ターバからのお誘い。乗るっきゃねぇ。
「おう! お前も、体力が限界に近いんだろ?」
「お前もな」
心臓の鼓動が、息がうるさい。
「「ふーーーーーーーっ」」
呼吸を静める。冷静さを少しでも取り戻す。クールダウンだ。
「「おぉ!!!」」
再びぶつかり合う。
死の間際で発動する突然のパワーアップ。火事場の馬鹿力。これが発動している。
発動してしまうような脳の状態だったということだ。脳のリミッターの一部解除だ。
先ほどとは武器のぶつかり合う音が変わっている。
今なら覚醒者相手でも少しは戦えるかもな、なんて。
『晶弾・乱』でターバを撹乱……いや、足止めさせる。
殺傷能力はなくしていたが、今回はギリギリの鋭さにしてみた。
ターバもそれに気づいた。
だから、足を止めて防いでいる。だが、全弾防ぐことはできていない。
1割2割は通っている。
その隙に『晶鎖』をこっそりとターバの左右の地面に2本ずつスタンバイしておく。
気づかれたら終わりだ。
『晶弾』を止め、2本の『晶鎖』で腕を1本ずつ固定する。
「な!? くそっ」
足元に落ちた、ターバが砕いた水晶の欠片を操って生成時間を短縮した。
プログラミングができなかったせいで、余計魔力を消費してしまったが、まだ余裕がある。
ジャラジャラと『晶鎖』が音を立てるが、拘束は解けない。
「これで、攻撃はできまい。ふっふっふ……。あとは嬲り倒すだけだなぁ」
「ふんっ! ――ッ!!」
ターバか鎖を引き千切った。
な、なんだとぉ!? ……なんてな。
オレが簡単に破壊できるようなものを生成するとでも?
あえて、だ。剣を隙間に刺してしまえば梃子の原理で『晶鎖』は破壊できる。
それに、あまり固くつくらなかったしな。
つまり、そのタイミングで跳び膝蹴りを食らわせればいい。
そして、棍を足と足の間に通し、回して転ばせる。梃子の原理、本日2回目だ。
「ぉわっ!」
そのまま棍をターバの首元に押し付け、『晶弾』を10発、すぐに発射できるようにセットする。
『晶弓』をターバに当たらないよう地面に突き立てる。
身動き? 不可。
「さて、どうする、ターバ?」
これは降参しかないだろ。
「ふっふっふ……」
――ヒュヒュッ
だ~か~ら~~。オレが、気づかないとでも思ったか。
音の正体……ターバが投げたのは2本の剣だ。棍で薙いで遠くへ飛ばす。
ここで、空になった腕を、待機させておいた『晶鎖』で地面に固定する。
あれだ。ホラー映画でゾンビをベッドに固定するのに使う黒いベルト。
あれと同じことをやってる。
「さて、終わりかな?」
「ああ、使えるのは足だけ。だが、少しでも怪しい動きをしようものなら『晶弾』の雨が降り注ぎ、首には棍が突き刺さる、か。うん、俺の負けだ」
『ここでターバ・カイシが降参! たしかにこれはどうしようもない! よって、勝者は1組、ライン・ルルクス!!』
ちゃんと「どうしようもない」って言ったか。
八百長でないことの、客観的な判断か?
いいことだ。八百長試合が過去にあったのかな?
にしても、さすがに疲れた……。
オレもターバも息が絶え絶えだ。
傷も所々にあるし。選手控えテントがあったので、そこに行った。
「回復しましょうか? 救護係、3年の回復術師です」
「ええ、お願いします……」
「俺も、お願いします」
「この程度なら体力を消費することもなさそう……さて、では──『回復』」
何か呟いていたが、身体強化と一緒に魔力探知、聴覚強化も切ってしまったからわからなかった。
でも、何も問題はなかったんだろう。
瞬く間に傷が癒えていく。
打撲も癒してくれるってんだからいいもんだ。
疲労は治しちゃくれない。傷から来る疲労は消えるらしいけど。
さて、休もう。
だが、邪魔された。
「すまない、ライン……だったか。今、少し話せるか? 副騎士団長様がお呼びだ」
「……はい、わかりました」
先生を遣わすって、どんだけ副騎士団長様は偉いんだよ。
まあ、貴族位を持ってるんだから、当たり前か。
「疲れているところ、呼び出してすまないね」
女だったのか……。男かと思った。ってか、兜で顔がよく見えなかったんだよ。
「いえ、お気になさらず」
「とりあえず、ここは公の場ではない。さぁ、席にかけてくれ。対等に話をしよう」
ふむ……。
ここで席にかけるべきか否か。一度は断って、二度目で従おう。
「いえ、このままで結構です」
「それじゃ、ターバと言ったか? 呼んで来てくれないか?」
「かしこまりました。すぐに戻ります」
一礼して、選手テントに戻る。
「ターバ、来てくれ」
「え、なんで」
「副騎士団長様が呼んでんだ。相手は貴族様だぞ」
貴族であることを告げるとついてきた。
貴族ってすごいんだな。爵位は世襲の場合もあれば、一代限りの場合もあるんだったか。
「副騎士団長様、ただいま戻りました」
「疲れているのにすまない。さて、では話に入ろう。そんなに難しいことじゃない。これらの模擬戦が終わったら、私と勝負してくれないか?」
「2対1で、ですか?」
2対1でも勝てるかわからないぞ。
「まず、言っておこう。ラインと私が1対1で戦うなら、互いに身体強化、覚醒はなしとしよう。そして、ライン、ターバ対私の2対1なら、身体強化、覚醒はありとしよう」
「では、俺はお断りさせてもらいます。2対1とはいえ、相手が覚醒者で、しかも近衛騎士の副騎士団長となると……。それに、どんな試合になるのか見たいですしね」
「なるほど。ではライン、よろしく頼むよ。それと、勝てると思わないほうがいい。鍛えてきた期間も、潜ってきた場数でも大きな……到底、覆せない差がある」
「承知しております。少しでも良い試合にできたらな、と思っているでだけです」
経験値量が圧倒的に違う。
これは本当にどうしようもないし、致命的だ。つまり、
――勝てない。
だが、ただではやられない。
骨の1本は折ってやりたいな。『晶装』で手甲を作れば、ワンチャンいける。
ターバのときにそうしなかった理由?
まず1つ。友達にそんなことするのに抵抗があったから。
この世界の住人はそんなことは考えない──回復魔法のせい──らしいが、オレは前世の感覚があるからな。
2つ。オレの武器が、棍という中距離武器だったから。近距離で棍は振りにくい。
水晶をフル活用していこう。
オレの魔力量は既に、冒険者の平均以上あるらしいからな。
「さあ、話は終わりだ。ライン・ルルクス……どこかで……。あ!」
「どうしました?」
「アーグ・リリス。この名前に聞き覚えは?」
「えーと、確か最強の魔術師──【魔導師】でしたか。面識はありませんが」
最強の魔術師。冒険者だったか。
数々の場数を踏み、才能が開花した人だったか? 大器晩成だったんだろうな。
「いや、君は面識があるはずだ。面接試験でな」
「鼻まで髪が伸びた優男風の男……ですか?」
「そうだ。あいつは試験官を担当するが、ほとんど受験生を相手することはない。少し前、会ってな。君の名前を嬉しげに話していたよ」
あれが、ねぇ。確かに、強者の圧はあったけど。
「あいつは覚醒していたか?」
「はい。鼻から顎にかけて線がありましたし、圧も感じました」
「そうか。ならいい。彼の目に狂いはないのだろう」
「それはどういう……?」
「さ、話は終わりだ。また後でな、ライン。ターバも、また会おう……いや、会うことになるだろう」
会おう、ではなく、会うことになる?
つまり、ターバが覚醒すると確信しているということ……か? ターバも同じ結論に至ったようだ。
「「では、失礼します」」
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