戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第二章 〜水晶使いの成長〜

第48話  夏休みも休まず

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 体育祭を終え、そのまま平凡な日々が過ぎていた。
 そして、7月も末。

「明日から夏休みです。ほとんどの人がバイトに追われるでしょうけど、熱中症には特に気を付けてくださいね。では、よい夏休みを」

 その通り、バイトバイトです!
 その分、労働時間が増えて給料も上がるんだけど。

 より遠くの村にも行けるようになるし、領都以外の町にも行けるようになるだろうな。楽しみだ。

 体育祭から今日に至るまでに変わったこと。
 ・ターバが魔力探知と聴覚強化を習得
 ・トゥータッチジャンプができるようになった

 ……これだけ。
 わずか3か月半で習得できただけいいと思いたい。
 オレに関しても、ターバに関しても。

 夏休み中、8月の半ばに1週間ほど休みがある。
 まぁ、その前後は当然の如く忙しくなるわけだが。

 ちなみに、お盆休みはない。そんな文化がない。
 ただの休暇だ。時期は完全にお盆だけどな。

 そこをどう過ごすか……。
 帰ってこいとは言われているが。……帰るか。帰りたくないわけではない。ただ、この生活も嫌いじゃない。
 むしろ、快適なんだ。ま、帰るほうがよさそうな。

「ターバ、8月の長期休暇どうするよ?」
「実家に帰る予定だな」
「実家はどこら辺?」
「北の方向に、馬車で3時間ほどにある農村だ」

 馬車で3時間ってことは、距離はオレん家と同じか、それより少し遠いぐらいか。

「そういうラインはどうする?」
「帰ろうかな、と。悩んでるけど」
「たまの休みぐらい、帰った方がいいんじゃね?」
「そうするかな」





 8月上旬。森の近くを走る馬車が1つ。
 御者が1人。幌付き荷台の中には、護衛が3人。ラインたち一行である。

「……で、この感覚をつかめたら魔力探知が使えるようになる。これは、身体強化が使えれば誰でも使えるからな。……それでも、全員が使えるわけではないんだけどな」
「ふ~~ん。言いたいことはわかった。……でも、その感覚っていうのがいまいち……」
「まぁ、やるだけやってみな」

 感覚が主となるからな。
 習うより慣れよ。百聞は一見に如かず。

 感覚が100だからな。
 感覚が掴めれば習得はできるが、感覚を掴めなければ、習得はできない。
 これを知らずに習得したオレを、誰か褒めてほしい(誰かコメントで褒めてあげて。by作者)。

「さて、ターバ。異常は?」
「魔物がいるのは魔力探知で見えるが、こちらに出てくる気配はないな」

 ゴブリンなど、害となる魔物は魔力探知に引っ掛かる。

「魔物の種類は?」
「大きさからして、ゴブリンだろうな。他の魔物は未確認だ」
「出て来たら、頼むぞ?」

 モフールさんが(見た目に合わず)不安げなセリフを吐き捨てた。
 
「大丈夫っす」
「任せてください」
「ワハハ、頼もしい限りだぜ。あの戦いを見せられたから、一層頼もしいな」

 あの戦い、とは、体育祭での選抜模擬戦の話だ。

 これまで、魔物や盗賊に襲われることはなかった。そもそも、そんなに襲われることはないらしいんだが。
 襲われても困るんだけど。

「で、スゥ。どうだ?」
「掴めそうで掴めない感覚……。指が引っかかる所を探しているような……」
「当分、練習だな。言わば、身体強化の部分的発動だからな。でも、たぶんその感覚は近いところまで行けている証拠だと思うから、もう少し頑張ってみな」
「そうそう。見張りは俺とラインに任せとけ。敵が来たら、ちゃんと戦ってもらうけどな」

 



 異常はなし。平和な光景が続いている。
 もう、かれこれ2時間と半分は馬車に乗っている。

「モフールさん、目的地はまだですか?」

 さすがに気になったので、訪ねた。

 今日は少し早め――朝7時半に領都を出発した。
 つまり、今は10時頃ということだ。暇だから、体感時間はもっと長い。

「昼過ぎには到着する予定だな。これから行くのは、領都の――俺たちの会社の管轄範囲の一番端っこにある村だからな。もう少し我慢してくれや」

 領都以外の町には行ったことないからなぁ。
 …………端っこまでおおよそ5時間だとする。
 範囲は同じだとすると……町まで10時間!?

 日帰りでは無理だな。
 卒業後、暇ができてから行こうか。

「……にしても、この妙に重たい箱はなんですか?」
「じゃらじゃらと音もする」
「もー……なんて言ったか忘れたが、とにかく、武器だ。今から行く村にいる冒険者の一人が、武器を壊してしまったらしくてな」

 モーニングスターか。
 使いにくそうなイメージしかないけどな。



 そのすぐ後、事件は起こった。

「ライン、見てくれ!」

 ん? ターバが……慌ててる?

 言われた通り、ターバの見張っている方向を見てみた。
 そこには、信じたくない光景があった。

「――魔物の群れ……? いや、大きさがバラバラ……連合?」

 連合という単語が真っ先に思い浮かぶ。
 肉眼では捉えられなかったが、魔力探知に多くの魔物の影が引っかかった。

「小さいのはゴブリンか。大きいのは……もしかしてオーガか? スライムらしき影もあるが……特殊個体も多そうだな。ビッグスライムは判別できるが、その他の進化型の個体はわからない」

 補足を加えておこう。
 特殊ユニークは、生まれつきの場合もあれば、進化してなる場合もある。

「敵意がないなら見逃すって手もあるが……」
「敵意しかなさそうだ」

 ほとんどの影が正面を向いていた。
 つまり、こちらを見ているか、背を向けているか。

 だが、影は移動していない。
 この状況で背を向けているってのは……可能性が低い。

「モフールさんは、いつでも逃げられるようにしていてください。この馬車を捨てて逃げる可能性もあることを考慮しておいてください」

 馬車を止めているわけではないが、襲い掛かられたら……追いつかれるかもしれない。

「あぁ、いざとなればそうする」

 襲われないことにこしたことはないが、あれを放置することはできない。
 あれだけたくさんの、しかも違う種が集まっているとなると……。

「覚醒者でないと厳しいほどの特殊ユニークが生まれたか?」
「いや、覚醒者でないと無理って魔物はそれなりに存在している。だから……」
「かなりまずい状況の可能性もあるってことね」

 ここでスゥさん参上。
 念の為、反対方向を見張っていたはずだが、問題はなかったんだろう。



 その後すぐ、魔物連合に動きがあった。

「退いていく……」
「後ろにいた奴らから動きがあった。何かしらが頂点に存在しているのは間違いなさそうだな」
「オレとターバはもう少し見張っているから、キーランさんに一報を入れておいてくれ。留守でも、言葉は残せたよな?」
「うん、わかった」

 キーランさんほどになると、伝言を残せる魔法具を所有しているらしい。
 完全に固定電話だな。

「完全に退いたと見てよさそうだな」
「そう……だな」

 馬車の揺れる音だけが響く。
 ガタゴトガタゴトと。

 声を発する者は誰もいなかった。
 原因はターバとオレだった。真剣な顔で黙り込んでしまい、声を発することができる空気を妨げてしまっていた。

 オレたちが考えていることは、表現方法に違いはあれど、同じことだ。
 
 今回の魔物連合は明らかに『人』に対して敵意を持っていた。
 早急に対処をする必要がある。

 幸い、近くに村はないが、この森は大きい。
 森に潜みながら遠くに移動することもできる。
 だが、あの数相手はオレたち3人でも厳しい……いや、犠牲が出るは確実だった。

 どれだけ考えても納得のいく答えは出すことはできなかった。

「どうだ、考え事は終わったか?」
「……いや、終わりはしましたが、終わってません」
「そうか。だが、お前らが気負うことじゃない。肩の力を抜けよ。とりあえず、何の損害もなしに情報を入手できたんだ」
「「──!!」」

 ターバもそこに思い至ったか! あ、スゥも。

「ターバ、スゥ。その顔をしたってことは、考えていることは一緒か」
「うん。あの、2人が見たという様々な種族の群れは……」
「大きな殺し合いに発展するだろうな。『人』対魔物の……!」
「おいおい、さ、さすがに考えすぎじゃねぇか……?」

 モフールさんの考えは正しい。あくまで、可能性の1つだ。

「あくまで可能性の1つです。ですが、やつらは武器を携帯していました。投石具を構えた影も確認しました」
「1体だけではないです」

 魔力探知で見えるのはあくまで輪郭、影だが、どんな格好をしているのかはわかる。

 



 その後は何事もなく、無事に荷物を届け、無事に帰宅した。

 魔物連合に関しては、キーランさんが冒険者組合と領主に話を通し、その結果後日、魔鉱クラスの冒険者と近衛騎士が数名ずつ派遣された。 

 だが、捜査は空振り。
 魔物連合は発見されなかった。

 木を隠すなら森の中。だが、もともとそこにあった木は見つけようがない。

 そして、正式に魔物連合と名付けられた。



 それでも、何もない日々が過ぎていく。

 

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