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第二章 〜水晶使いの成長〜
第51話 最強決定祭
しおりを挟むこれが……――!
時は少し遡り、10月上旬。
涼しくなり、半袖では肌寒さを感じる。
長期休暇明け特有の生活リズムの乱れはとっくの昔に置き去りにされている。
夏休みが明けてから起きたニュースは、いくつかある。
まず、冒険者部門の廃止。オレの知る【冒険者】に一歩近づいたな。
あとは、紹介するまでもない小さなニュースばかりだった。平和の証だな。
そして……
「――へラリア冒険者学校最強決定戦?」
朝会の後、オレとターバに先生から渡された紙の見出しには、そう書いてあった。
「年に一度開催される、この国の冒険者学校の生徒で、各学年の最強を決める戦いです。各学校から、上位2名を選出します。他国との戦いは……まあ、大人の事情で行われません」
国家間の戦力の偏りの問題か? くだらね。
国ごとで分業ができてるこの世界で、そんなこと考えんのか。
「来月、2人には王都に行ってもらいます」
「俺ら2人だけで、ですか?」
「いえ、先生が数人ついて行きます」
この国って、領はいくつあったっけ?
「先生」
「なんですか、ラインくん?」
「領はいくつありましたっけ?」
「ここを含め、16です。もちろん、王都も含んで」
16か……。一日では終わりそうもないな。
行って、終わらせて、戻ってくる。王都までどれくらいかかるんだ?
「必要なものはすべてこちらで用意するので、2人は何も持たなくて大丈夫ですよ」
手ぶらで? 王都まで? 長期?
……旅行じゃ……ないか…………。行動に制限があるし。
どちらかと言えば、遠征? まんまだな。
「それと、試合方式は1対1です。少しでも強くなるために、2人は今日より別メニューです」
今日!? いくらなんでも急過ぎるぜ……。マジかよ……。
「今のところ、君たちと同い年で覚醒したという情報は入ってないのですが……戦いの最中に覚醒、なんてよくある展開……大抵の覚醒者は、戦いの最中に覚醒していますからね」
訓練ではあまり覚醒しない、と。
2年、3年に実戦形式の授業が多く、1年で守りの術を覚えさせる理由が判明したな。
覚醒はやっぱり、火事場の馬鹿力に近いものなのかな。
脳のリミッターの一部解除か。
「さて! では早速、着替えてからグラウンドに行ってください」
「「わかりました」」
早速か……。どんな授業になるのかねぇ。どーせ1対1の繰り返しだろ。
「さて、みなさん。今日から特別メニューです」
そう言って迎えてくれたのは……うん、先生だ。
えーー……と。誰だっけ……? こんな先生いたっけ?
授業は全部クーラ先生がやってくれるからなぁ。
この場にいるのは、先生が4人、先輩(多分)が4人。そして、オレとターバの2人。計、10人だ。
「とりあえず、全員揃ったことだし、自己紹介でもしましょうか」
ん? 自己紹介か……。まさか、自己紹介じゃないよな……?
「では、年上から」
「私は生徒会長のデミラス・ビュー」
「俺は副生徒会長のリュース・ペイム」
どちらも男だ。
副会長は……あ! あの声の大きい、体育祭で魔法も、魔法具すら使わなかった変人だ。
会長は……優男って感じだな。でも、油断ならない感じだな……。強そうだ。
「2年代表の、エイリュース・ネンです」
「同じく、ピュウ・アイラーンです」
1人目は男、2人目は女だ。魔術師……ではないな。魔術師は男の方だ。
よっし、次はオレたちだな。
「1年代表の、ライン・ルルクスです」
「同じく、ターバ・カイシです」
「では、私たち教師陣も紹介しておきましょうか」
ここでクーラ先生がいてくれたら、大分気が楽だったのになぁ。ま、仕方ねぇかぁ。
「教頭のグイル・テンです」
「ディザイ・クェイサーだ」
「フュー・ヒミリスです。回復術師です」
「ジェイ・キルサーです」
女、男、女、男。
テン先生、ディザイ先生は初老あたり……村長と同じくらいの年かな。
ジェイ先生は若いな。クーラ先生と同じくらいか?
フュー先生は30あたりかな?
回復術師がいるって……嫌な予感しかしないぜ……。
「フュー先生の本業は冒険者のため、本番の日に同行するのみとなります」
ああ……。そっか。
ただでさえ貴重な回復術師に、余りなんてないか。
……余りがあったら、それこそ問題か。
学校に来るゲストも「先生」と付けるのは、なんでだろうな。
ゲストティーチャーだからか?
でも、別の場で会えば、「先生」なんて付けないよな。よくわからん!
「よって、特別メニューの監督は、私たち3人で行います。それと、貴方たちは単純な強さで選ばれました」
3年はどちらも前衛。攻撃魔法は使えない。
2年は男の方が魔術師。
オレたちは、前衛が2人。オレは怪しいけど、戦い方は前衛型だ。
どうやって訓練しようか……。
「ではまず、大会のルールを説明します」
武器の所持は2つまで。
ちなみにターバの双剣は、2個で1セットなので、1とカウントされる。
闘技場は一辺が30メートルの正方形。
失格の条件は、場外、降参宣言、続行不可能状態の3つだ。
続行不可能状態は主に、失神、戦闘意欲の喪失、戦闘の続行が命に関わると、審判が判断した場合だ。
武器は、なんと、刃があるとのこと。
ただ、覚醒した回復術師が数人待機しているため、腕の1本ぐらい、すぐに元通りにしてくれるらしい。
斬られたくはないがな。
「――ちなみに、絶対治るという保証はないです」
……気を付けよう。うん。
オレも、なるべく切り落とさないようにしよう。
ちゃんとした防具を貸し出してくれるらしいから、そんなに大きい怪我を負うことはないと思う……。思いたい。
そして、時間制限はなし。
「――以上です。3年生の2人は去年も出たので知っていると思いますが、国中の偉い方々が身に来られます。恥ずかしい、後悔の残るような戦いは避けるように。――さて、早速始めましょうか」
内容はシンプル。
まず、本番で使用する武器を選択。オレは棍と刀。魔法の短杖も武器としたカウントされる。魔法はどれも初級だけどな。
そして、両腕、足に重りを付ける。1つ5キロだ。
身体強化、覚醒は発動させる。
そして――
「――訓練相手は自分の相棒です」
ターバとかよ。
訓練相手が自分のペアってことは、3年の代表は覚醒しているだろう。
2年代表は、2人とも覚醒しているか、2人とも覚醒していないか。
「――今日はここまでにしましょうか」
や、やっと終わった……。
20分動いて、20分休憩。これの繰り返しだ。
楽しいっちゃ楽しい。でも、それ以上に――
「「疲れた……」」
満場一致で疲れた宣言。
2年、3年の戦いは凄かった。
4人とも覚醒者なんだもんな。目で追えたけど、ほんと、身体能力が桁違いだ。
早く覚醒したいぜ……。
そんな日々が何度も繰り返され、ようやくその日がやってきた。
「これ……か?」
そこにあったのは、よく見る馬車よりも小さい馬車だった。
そして、アヌースは4匹。内2匹は、人が乗るように鞍が着けられている。
「王都までは、この馬車だと一週間はかかるがな。途中にある村や町で休めるから、安心してくれ。かなり退屈になるが、どうにかなるもんだ」
「はあ……」
副生徒会長の喋り方はなんというか……モフールさんと似ているな。兄貴っぽい。モフールさんはあんなに声は大きくないけどな。
代表生徒6人、教師3人。そして、4人で構成された冒険者チームが1つ。
馬車には、オレたち生徒と教師、回復術師が1人、魔術師が1人乗り込んだ。
チームのリーダーであろう男と、戦士風の女は、それぞれアヌースに乗った。
「さて、出発だ!」
こうして、オレたちは王都に向けて出発したのだった。
馬車生活2日目の昼前。
馬車の中でラインは思わず、思ったことを口に出した。
「あ゛~~。暇だ……」
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