戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第二章 〜水晶使いの成長〜

第53話  最強決定祭③

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『さて、ここにへラリア冒険者学校最強決定戦の開会を、宣言する!!』 

 ようやく開会か。
 一体どれだけ強い奴がいるんだろうな……。
 ワクワク……? しないな。微塵も。

『まずは1年生から。記念すべき第1戦は……』

 嫌な予感……。

『ハーマル冒険者学校、ライン・ルルクス。対するは、シヴィル冒険者学校、アライバル・シェイム。規律を重視するハーマルと、強さを重視するシヴィル。序盤から目が離せません!』

 へーー。規律重視だったんだ、うち。校則、そんな厳しかったっけか?

 闘技場はここ……だよな……。まんまコロッセオだ。

『さて、両選手は闘技場の中央まで。他の選手は、選手控室まで移動してください』

 ここ、中心だよな。じゃ、このまま動かなくていいな。

「へぇ~~。昨日の生意気坊主じゃねえか」

 坊主って……。年は同じだろ? 面倒くさいなぁ。サクッとやっちゃいますかぁ。

 握手?
 んなもん、誰がするかよ……って言いたいが、評判……体裁は大事だ。
 握手をしようとする姿勢だけは見せよう。

「あ? 何してんだ? 格上の俺と格下のお前。握手できると思ってんのか?」
「いやいや。礼儀作法は大事だぞ? その程度もわからないのか? 馬鹿なのか?」
「…………その言葉、よ~く覚えておくんだな」

 「悔いの残らないように」。
 この1ヵ月、先生が言い聞かせてきた言葉。
 この教えに従い、「悔いの残らないように」、完膚なきまでに叩きのめす。

 武器は棍だけ。
 水晶は使用する。
 そして……一瞬で終わらせてやる!

 相手の武器は大剣。全長2メートルはありそうだ。
 ただ、構えが大上段じゃない。剣先を右足のすぐ横の地面に着けている。斬り上げ。
 攻守併用の構えになる。

 ――関係ない。

『それでは……。――開始!!』





『――勝者、ハーマル領、ライン・ルルクス!!』

 大歓声だ。
 何人かスタンディングオベーションしている。

 底辺の学校の生徒が頂点の学校の生徒に勝ったんだ。
 時間をほとんどかけず、しかも、無傷で。

 足の骨を折られたアライバルは、痛みと悔しさのあまり、静かに涙を流していた。
 変形するほどではないが、脛を思いっきり突いたからな。青黒く変色して腫れている。



 その頃、選手控室。

「――アライバルが……負けた……?」

 シヴィルの5人は唖然としていた。
 アライバルは、1年生のトップだ。それが、ものの数秒で最弱の学校にやられたというのだから。

 ハーマルの選手は、総じて弱い。
 昨年の1年に、1人、マシな人材はいたが、準決勝に進むことはできなかった。
 「マシ」という言葉の前に、ハーマルにしては・・・・・・・・・という形容詞句が入るからだ。

 だが、そんな学校の生徒にやられた。

 アライバルが攻撃することを許された回数はわずか4回。あまりにも一方的な戦いだった。





「――ライン・ルルクス、見事勝利を掴み取ってきました!」

 そう言って、みんなの元に戻った。

「ライン……」
「「よくやった!!」」
「まさか、シヴィル相手にあそこまで一方的な戦いをするとはな」
「ライン、ほんと、強すぎ!」
「覚醒の日は近い……」

 みんな褒めてくれた。
 他の学校の連中との温度差よ。ここだけ高気圧。あとは低気圧。
 シヴィル領は台風。

 にしても、覚醒か……。
 たしかに、そろそろ覚醒しないかな~~。

「──お前がうちの可愛いアライバルを負かせた、ラインとやらか」

 お、向こうの親玉参戦。

「えぇ、そうですが」
「あまり頭に乗らないことだな。お前より強いやつは有り余るほどいる。この程度で増長しないことだな」

 は! 負け犬の遠吠えか。

「百も承知です」
「……生意気な野郎だ。いつか必ず目に物見せてくれる」

 ここで、扉が大きな音を立てて開かれた。
 言うまでもない。アライバルだ。

「はーっ! はーっ! はーっ……。ライン・ルルクス……もう一度だ。もう一度勝負をしろ!」

 骨も治ってないだろうに。馬鹿だな。

「──断る」
「──アライバル、いい加減にしろ」

 おや、先程とは別の人だ。
 この人は、強い……! この人がシヴィルのトップなのだろう。

「……っ! す、すみません……」

 それだけ。

 それだけだった。
 そしてまた、自分たちの仲間で固まって喋りだした。それから二度と、シヴィルの連中が何かしてくることはなかった。

「シヴィルに目を付けられたな、ライン」
「あんな性格で、あの領は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。あれも一種の伝統だからな。冒険者になったときや近衛騎士育成所に通っているうちに、真人間に戻る・・のさ」

 なんだ、思春期か。
 自己顕示欲の一時的な暴走か。

「ただ、それまでは面倒だからな……。幸い、向こうにも真人間は存在しているようだ」
「さっき、いい加減にしろと言った人ですね」
「ああ。しかも、めちゃ強い」

 言えない……。
 先輩が弱いだけかもしれない、なんて、口が裂けても言えない。
 覚醒している時点で、強いんだが、その中で弱いんじゃないか、と。





「――じゃ、行ってくる」
「おう! 叩きのめしてこい!」
「ハーマルの1年は凄いんだってことを証明してこい!」
「いや、先輩も凄いところを見せてくださいよ」

 その後先輩たちは、1戦目、2戦目で敗退したのは、余談である。

 ターバの相手は、またしてもシヴィル領。仕組まれてんのかと疑いたくなる。





 ようやく俺、ターバの試合だ。
 握手をする気はなし、と。さっきラインに仲間がやられたってのに、全然態度変えないな。

「アライバルは……俺より強かった。なのに、あっけなく負けた。だが、お前はあいつより弱い。……だろ?」

 思いっきり俺のことを馬鹿にしてやがる。
 雑魚の分際で。

「2番手同士の戦い。だが、ここで勝たせてもらう」
「残念。俺とラインが同学年にいる限り、シヴィルが花を持つことは……ない!」
「ほざけ!」

 ほらな。頭に血が上るのが速い。
 だが、冷静さは失われていない……。案外、馬鹿にできないのかな。

『開始!!』

 相手の武器は棍棒。両手に一つずつ持っている。
 素材は鉄だろう。突起はなし。長さはおよそ50センチ。攻めの構え。

「お゛ぉ!!」

 走ってきたが……遅い。
 とは言え、油断は禁物。隠し武器を持っていない保証はない。

 両手に持った棍棒を同時に振りかぶり、前に向かって振り下ろすことで、俺の目前で加速した。
 ――だが、なんの効果もなさない。

 避ければいい話じゃん。





 2つの棍棒が大きな音を立てるコンマ数秒前、ヒョイと軽やかに避ける影。ターバだ。

 そして、相手の顔目掛け――





『勝者、ハーマル領、ターバ・カイシ!! なんということでしょう! 優勝候補のシヴィル領、両者とも初戦敗退!! そして、2人を打ち破ったのは、去年まで弱小と言われていた、ハーマル領の2人だ!!』

 おーー。司会者、オレとターバをめちゃめちゃ持ち上げるじゃん。 



「ライン、ターバ!! 大躍進だ! 帰ったら飯奢ってやる!」
「「あざっす!!」」
「私のおすすめの店だ」 
「あー、あそこな。いつもの・・・・食べ放題じゃないところか」

 いつもの……? つまり、毎年打ち上げはある、と。

「そうだ。あそこは隠れ名店だ。それも、一見さんお断りの、な」

 ほう……。それは、最高のご褒美だな!
 優勝目指して頑張るとしようか! 俄然やる気が湧いてきたぜ!

『これにて、1年生の部、初戦が終了しました。会場の整備があるため、20分後に第2戦を始めます』

 16校あって、1校2人参加だから、残り16人か。

 そのとき、審査員みたいな人が3人、控室に入ってきた。
 1人は大きな紙を抱えている。
 そして、その紙を壁に貼り付けた。4隅を画鋲で止めただけだが。

「こちらは、トーナメント表になります。初戦が終了しましたので、公開させて頂きます。また、今後、試合前の握手は省略することとしますので、握手をしたい方は試合前に済ませておくようにお願いします」

 ……出て行かないのかよ。
 トーナメント表の前で突っ立ってやがる。騒ぎを起こさせないための監視要員なのかな。



 そして間もなく、

『会場の準備が終了しました。さて、では第2戦を始めましょう!! ハーマル領、ライン・ルルクス!! 対するは、シクレス領、エド・ステイホウ!!』



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