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第二章 〜水晶使いの成長〜

第55話  最強決定祭⑤

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 ザイン目掛け、無数の水晶の弾が飛ぶ。
 殺傷能力はないが、当たれば痛い。

「いっ ――ガッ! ――グフ!!」

 痛みが動きを制限する。

 これこそ、『晶弾・機関』。
 弾が水晶製の機関銃だ。銃というものが存在しないこの世界で、最も銃に近いものとなった。
 
 今のうちに体勢を整えておこうか。
 これだと、手数は多いけど、決め手に欠けるんだよなぁ。
 殺傷能力アリにしたら……即死かな。ハチの巣になって。

 ……3……2……1……0!!

 発射を止め、一気に距離を詰める。
 未だ痛みで反応が鈍っているっぽいな。素肌が、見える範囲でも青痣だらけだ。

 腕に『晶装』で手甲ガントレットを纏い、走り出す。
 そしてそのまま、ザインの顔面を殴った。
 我ながらきれいに入ったと思う。

「――!!」

 声が出なかったらしい。  
 そのまま、腰の辺りを中心として、90度後ろ向きに回転し、地面に背を向けて倒れた。
 ピクリとも動かない。……鼻血が出てる。オレが殴ったせいだけど。

 そして、上から・・・落ちてきた・・・・・二本の短剣・・・・・を『晶盾しょうじゅん』で防ぎ、試合終了。

『ザイン・ハーバー、戦闘不能! ライン・ルルクスの勝利!! なんということでしょう! 巷で【貴公子】と呼ばれる男が敗れました!』

 貴公子……?
 奇行種じゃなく?

 たしかに、男のオレから見てもイケメンだし、そんな雰囲気してるわー。
 白馬にでも乗ってなヨ。

 まあでも、戦闘センスはあるっぽい。

 オレに殴られる直前、短剣を真上に投げていた。それも、剣を持っていた右腕をオレの後ろまで伸ばしてからだ。
 そこは、オレの――人間の死角だ。

 一般の人間にとって、瞬時にあれほどの判断をすることは難しい。
 それができた、ということは、才能がある、センスがいいということ。

 ――オレは見破ったけどな? 
 
 逆の立場だとどうするか。
 オレは、『晶盾』を間に作り、身を守る。やっぱり、防御することを考えてしまうと思う。
 実際オレにとって・・・・・・、それは正しい。



『さて、早速次の試合を始めましょう! ディース領、リーリエ・ユウ! 対するは、ハーマル領、ターバ・カイシ!!』

 観客席の一部から黄色い声援……。人気だなぁ。
 どっちに向けた声援だ?





 さて、次も俺、ターバの試合だ。
 相手はリーリエ・ユウ。魔術師だな。夏休みにラインに教わった魔力探知でわかる。

 一つ、問題がある。
 武器を所持しているのか、いないのか。
 所持していた場合、何を、どれだけ持っているのか。

 既に身体強化を発動させているから、短杖ワンドの魔力反応が隠れて見えない。
 魔力のこもっていない武器は魔力探知では確認できない。

 身体強化を発動させていることを考えると、短杖ワンドを隠し持っていると推測できるが……。

 こちらは慎重にならざるをえない。
 相手が短杖ワンドを所持しておらず、威力の高い――一撃必殺級の切り札を有している場合、負ける。

 そう思わせておいて、短剣、短刀ナイフを忍ばせているかもしれない。
 あれ、短刀ナイフは短剣に含まれるんだっけ? 

 ここは慎重になるべきか、ならないべきか……。

 剣に魔力を流し込めば、威力、切れ味が増加するだけでなく、魔法すら斬る・・ことができる。

 ただ欠点として、武器の劣化を促進させてしまう。
 何より、これは支給品。
 今までいろんな人に使われてきたであろう物だ。途中で使い物にならなくなりました、じゃ最悪だ。

 魔鉱石製の武器なら、魔力との親和性が高いから云々……。持ったことがないからわからん。

 俺の魔力量は、生まれつきそこそこ多いらしい。
 魔術師の才能を持ってる人よりは少ないらしいがな。
 そして、今に至るまで鍛錬を積み、魔力量はかなり増大した。弱い魔術師ぐらいはあるらしい。

 とにかく、油断は禁物。
 慎重になりすぎるのも悪手。難しいなぁ。
 とにかく、身体強化を発動しておこう。

『では……開始!!』

 相手の手札を一枚一枚めくっていく。
 現在の情報は、相手が魔術師であること。

 属性特化かもしれない。
 一般魔術師かもしれない。

 ただ、魔術師であるなら、距離を詰めないとな。
 だが、そう簡単に近寄らせてくれないのが魔術師なんだよな。厄介な。

 ──だけどぉッ!

「魔術師との戦いは嫌というほどやってきたんだよ!」

 ラインがそうだ。
 スゥもそうだ。

 魔術師との戦いは――経験は嫌というほどやってきたんだ。
 特に、ラインはいい練習相手だった。全然距離を詰めさせてくれなかった。

 だが、学んだ。

 ――答えは単純だ、と。

 魔力を込めた武器で、魔法を消しながら進めばいいだけ。
 接近できれば、こっちのもんだ!

「──『水球アクアボール』」

 拳大の水の塊が3つ飛んできた。
 ……『水球アクアボール』。初級攻撃魔法だ。
 だが、杖を構えて魔法を発射している。


 
 短杖ワンドには、魔法に補正をかけるものも存在する。

 補正効果はさまざまだ。
 消費魔力量の軽減、威力の向上、緻密な魔法操作、推進力の向上などなど。

 ただ、そのような短杖ワンドは、素材から魔力を帯びているため、後付けで魔力を付与された一般的な短杖ワンドとは違い、魔力量が多い。

 その違いを見破ることができるか、できないか。   
 隠し通せるか、通せないか。

 それだけで、勝敗を左右することもある。



 剣に魔力は通さない。
 この剣の耐久度がどれほど残っているのかわからないからな。

 それに、相手の魔法は弾道がバラバラで、間が大きい。
 同時発射されたものでもない。なら、わざわざ打ち消す必要はない。

 1発目。滑って避ける。
 2発目。顔を少し傾けてなんとか避ける。
 3発目。跳んで避ける。

 そして、相手はすぐ下にいる。
 女とはいえ、手加減はしない。でもやっぱり、無力化するだけに……。

「くっ……──『水盾ウォーターシールド』!」

 ――ガキン!

「硬っ!」

 後ろに跳び、再び地を駆ける。
 そしてまた、『水盾ウォーターシールド』と武器がぶつける。

 やっぱり、魔力を込めてなんとか、か。
 だが、一撃ぶつける度に水が散り、盾の耐久度が落ちている。
 つまり、一定以上のダメージは無効化できない。一定が、どれぐらいなのかはわからないが。

 十数度目の攻撃でようやく破壊できた。

「くっ!」
「終わりだ――」

 ――その瞬間、俺は完全に油断していた。

 あとは仕留めるだけ。そう思っていた。

 目の前の相手も、俺と同様、冒険者学校の上位を担う存在であることを――

「──『水槍アクアジャベリン』!!」



 攻撃魔法の基礎魔法には、属性が異なっていても、型がある。『~~弾』や、『~~槍』などだ。

 『~~弾』は、一直線に駆ける小さな球。
 威力は低いが、出が速く、魔力消費量も少ない。

 『~~槍』は、一点集中型だ。
 そして、それにふさわしい威力を持つ。
 だが、当たらなければ怖くなく、また、一直線に飛来するため、確実にとどめを刺すときに使用される。

 そして現在、ターバは、攻撃を外し・・・・・そうにない・・・・・ほどの距離まで接近していた。

「うお――!!!」

 脳裏に、クラス内戦闘でスゥの放った『火槍フレイムジャベリン』がよぎった。
 あの・・ラインの『晶壁しょうへき』を溶かした技。
 あれと同じ型の魔法が、至近距離で放たれた。

 脊髄反射で、剣を交差させて構えた。
 そして、脳からの指示により、剣に魔力を込めた。
 その時、武器の耐久のことなんか頭になかった。

「うぉぉおおお!!」

 くそ、凄まじい威力だな。全然押し返せない! 

「その程度? 案外すぐに決着付きそうだね」

 クスっと小馬鹿にしたような微笑を浮かべた。
 そのとき、俺の中で、バブチンッと、何かが切れた音がした。

「安心して。回復までに死ななければ――」

 ドスンッ!

「――!?」
「調子に乗るなよ?」

 先ほどの音は、俺が『水槍アクアジャベリン』を打ち破り、地面に双剣を打ち付けた音だ。

「へえ、驚いた。『水槍アクアジャベリン』を打ち破――」
「その手には乗らねえ……よ!!」

 時間稼ぎをするつもりだったんだろうな。
 また『水槍アクアジャベリン』を打たれたら面倒だ。……いや、当たったら厄介、か。

 あの感覚は何度も経験した。ラインの突きと同じだ。
 つまり――

「次、『水槍アクアジャベリン』は効かない」
「へえ。なら、正確な事実を得るためにも、実験を行わないと。──『水槍アクアジャベリン』!!」

 今度は2本か。どちらも俺を捉えている。
 だが、もう大丈夫。

 ──流せる!

 俺の得意技は――受け流しだ! 


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