58 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜
第57話 最強決定祭⑦
しおりを挟む「「――うおおぉぉぉおおおおお!!!」」
雄叫びを上げ、ぶつかる。
そして聞こえてくるのは、武器と武器がぶつかることで発生する、甲高く、硬質な音のみ。
瞬き1回する間にも、幾つもの攻防が繰り広げられている。
突き、薙ぎ、斬り、防ぎ、水晶が現れ、消え…………――――
――『晶弾』を2発発射するも、一閃のもとに斬り伏せられる。
返す刃でカウンターが放たれるが、『晶盾』で防ぐ。
「ライン、そろそろその盾も耐久度が落ちてきたんじゃないか?」
「その常識が通じるのは、一般魔術師だけだ。 オレにその常識は通用しないんだよ!!」
攻撃を受ける度、『晶盾』の魔力量が減少するため、魔力を注ぎ、耐久度を回復している。
「通りで……」
「そして、オレの切り札を見せてやろうか?」
「ぜひとも」
ここでの切り札は、『晶棘』を指す。
別に、必殺技というわけではないんだが。……あれ、体育祭で使ったっけ……? ま、いっか。
ターバのカウンターを防ぎ、『晶棘』を足元から生成する。
「ちっ! これか!」
「そうだ」
宙に浮いている状態のターバ。これは受けるしかないよなぁ?
……いや、間に合わないか。
「うっっ!!」
そして、そのまま吹っ飛んでった。だが、受け身は取っている。
だが、先ほどと同じく畳みかける。
先ほどと同じく、両者の中間地点で刃が交わる。テレパシーでもあるのかと疑いたくなる。
だが、先ほどと違うことが起きる。
異変は、少し後に起こる――
ターバにこれまでと同じように、畳みかけようとし、走り出した。
ターバも同時に走り出した。
どうせ、これまでと同じように、「どちらかが飛ばされ、またぶつかる」のだろうと思っていた。そして……
――自分が最終的に勝利する、と。
――だが、今回は別の結末を、別のシナリオを辿って迎えることとなる。
2人がぶつかったその瞬間、ラインが闘技場の壁まで吹き飛んだ。
闘技場は、上から見ると、半径30メートルの円形だ。
中央を座標(0,0)とし、2人のぶつかった位置を、(20,-10)とするなら、ラインの激突した壁は、(-20,10)。
つまり、ラインは60メートルも吹っ飛んだのだ。
「……おい、何が起きた?」
「飛んでったの…………ライン・ルルクスだよな? 水晶の……」
「生きてるのか?」
観客は騒然としていた。
『観客の皆さん、落ち着いてください! ライン選手は生きております。魔力探知で確認されています』
――何が起きた……??
確か、ターバが棍の攻撃範囲に入ったから、攻撃しようとして…………そうだ。
悪寒を感じて、咄嗟に『晶装』で全身鎧を生成したんだ……。
……『晶盾』がない。繋がりも消えている。破壊されたか……。
この鎧も、耐久度ぎりぎりだな……。
――ゾクッ!!!
おい…………嘘……だろ? この反応……。
信じたくなかった。あまりにも絶望的で、最悪のタイミングだった。
それがもたらすのは、「敗北宣言」。そう……ターバ・カイシ。彼は、
「――覚醒……!!」
覚醒したのだ。
ラインと、今にも再び攻防が再び始まろうとしたとき、体の奥底からナニカが溢れ出した。
でも、それはとても体に馴染んだ。瞬時に、こう理解した。
――制限が解除されたんだ、と。
自分でも気味が悪いと思う。
突如溢れ出した力の塊に、まるで怯えることがないんだから。
むしろ、「普通」と感じている。
だが、俺も馬鹿じゃない。自分が覚醒したってことぐらい……わかる。
ターバの顔には、右額から右頬にかけ、痣が出現していた。
右額でぐるっと回り、緩やかな曲線を描きながら落ちている。
誰の目にも明らかだった。ターバが覚醒したという事実は。
「ライン!」
「安心しろ。生きてる。水晶の硬さなめんな」
「よかった……。さて、どうする?」
「答えは言わなくてもわかんだろ?」
「結果も、言わなくてもわかる」
って思うじゃん?
ま、実際そうなんだけど。ただ、降参するのは格好悪いからしない。
それだけだ。
オレにできるのは、生き残ること。
「よし、続きといこうかぁあ!」
『おおっとぉ! ライン選手、まだ立ち上がるようです! よく見ると、なんと! 無傷!! ですが、相手は覚醒者! どこまで戦えるのでしょう!?』
「いいのか?」
「――ああ」
その一言で、ターバが迫って来た。瞬きする時間だけで、目の前に迫っていた。だが……
──知っている。
だから、防御の構えをしていたんだ。狙うのは、カウンター。
せめて、一矢報いたかった。それだけで、十分だった。
「――じゃあな」
プログラミングは、何も変形だけじゃない。
決められた時間、決められた場所で生成させることができる。
──言わば、時限発動式魔力操作だ。
無数の『晶弾』がターバの背後に生成され、一斉に発射される。
殺傷能力はある。
こうでもしないとダメージが入らない。
それに、覚醒者はゴキブリ並みにしぶといらしい。大丈夫だろう。
ただでさえ丈夫なターバだ。しぶとさはゴキブリ以上だろう。
「くっ!」
ちっ! 気付かれたか。
ターバは足を止め、後方に体を傾け、地面すれすれの高さで後ろ向きに跳んだ。
もちろん、『晶弾』はこちらを向いている。
――だが、想定の範囲内だ。
『晶弾』の指導権を獲得し、方向転換させる。
この中を無傷で突破することはほぼ不可能だ。
確かに、一つ一つは簡単に破壊できる。
だからこそ、数の暴力を利用している。
なんだ? 剣に魔力を集めている……?
突然の不可解な行動。漫画じゃ、こういうのにやられるんだ。
もちろん、やられるのは悪役。……オレ?
「おお!!」
そして、ターバが剣を振るった。その軌跡に『晶弾』があるわけではない。一体何を……?
『……者、ターバ・カ…シせ……!! ライ………手は、回……術師が手………行っておりま…。命の心配は……………。繰り………ます、命の心…………りません』
朧げなオレの脳内に、そんな音が流れていた。
目の前は、薄っすらとしか見えない。視界が……薄黒く塗られているようだ。
夢……?
違う、現実だ。何が起きた?
なぜこうなった?
そうだ……――――
「――!!!」
目が覚めた。
え~~っと……そうだそうだ。あの時――
「おお!!」
ターバが剣を振り下ろす――正確には、双剣を斜めに振り下ろした――と、クロスされた剣筋が飛んできた。
『飛ぶ斬撃』だ。
前世の男子で憧れない人はいない、あれ。
まさかここでお目にかかれるとは………なんて言ってる場合じゃない。
速い。やべ──
――ドオォォオオン!!!!
そして、オレは意識を失った。
「あ、目が覚めましたか」
ベッドの脇には、チョビ髭の30手前ぐらいの人が丸椅子に座っていた。で、白衣を着ている。
誰だってわかる。医者だ。
回復術師か、薬学師かは知らんが。
「オレは、どれくらい眠って? 体は? 最後はどうなって?」
「眠っていた時間は1時間弱。無傷。君の防御魔法は間に合ったが、勢いは消せず、闘技場の壁にぶつかり、意識を失う。以上」
……終了。
普通そこは、「落ち着いて」じゃないの? 全部返された……。
「あれを受けて、無傷、か……」
「水晶の全身鎧を身に着けていたよ。意識を失ったせいで、すぐに消えてたけど」
「間に合ってなかったら、死んでたんですかね?」
「いや、生きてたよ」
あれ、意外としょぼい攻撃だったってことか?
「気付いていないのかい?」
「? 何にです?」
「君も──」
その後、この人の口から発せられた言葉は、耳を疑うようなものだった。
あのときのターバは、力加減が完璧ではなかった。
あの攻撃は、オレの魔法が水晶だったこと、反射で防御できたことといった条件が組み合わさることで防げた。
つまり、常人なら死んでもおかしくなかった。
にも関わらず、オレは無傷。
気絶の原因は、打ち所が悪かったから。
つまり、導きたされる結論は──
「──覚醒したんだよ」
「覚醒……オレも…………」
まじかよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる