66 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜
第65話 準備
しおりを挟むどこだ…………。
時刻は午前9時半。
店々が開店の準備を始め、店員同士で談笑の声が聞こえる。
そんな通りを、1人の青年が彷徨っていた。
言うまでもない。ラインだ。
「教会……どこやねん」
教会のものらしきシンボルが全然見当たらない。
かれこれ、1時間ほど歩いている。王都の地理を頭に入れようと思って早めに出たのが、不幸中の幸いだった。
そもそも、教会のシンボルってなに?
領都に教会なんてものはなかったし、そもそも信仰の2文字が日常生活にない。
精々が三賢者を称えるぐらいだ。お祈りとかしたことないしな。
「――ライン」
突如、背後から声をかけられた。この聞き覚えのある声は……
「副騎士団長様、おはようございます」
「ああ、おはよう。その様子だと、やはり迷っていたようだな」
「え、いや、あ、はい、ちょっとだけ」
「ふふ、正直でよい。さぁ、ついてこい」
思わぬ助け舟!
初日から遅刻とか、シャレにならないからな。
ま、待ち合わせ相手がこの人なんだけど。
数分ほど歩き、1つの大きな建物に到着した。
たしかに、教会だ……。ただ、シンボルがないから、他の建物に埋もれている。
遠くからじゃ見つけられないわけだ。
「ここが教会だ」
白い外壁、カラフルなステンドグラス。空いている門。
神聖……と言うより、静謐な雰囲気が漂っていた。
「さて、入ろうか」
副騎士団長に連れられ、中に入る。
入ると、そこは広間だった。祈りの間というらしい。
元の世界で、教会と聞けば想像する場所—―奥に聖典を置く台があり、その前に長椅子が並べられている。チャペルだ。
奥の壁には、ステンドグラスが嵌められていた。三賢者を模したもののようだ。
「人がまったくいませんね」
「普段からこんなものだ。そもそも、ここは休憩場として使われる。まだ朝なのに、ここを使う者はいない。まあ、雰囲気的に使う者は少ないのだが」
「──そうですね。ただ、気持ちを安らげるために利用される方は多いですよ? 特に、長旅の直後の方々が」
後ろには、真っ白な服に身を包んだ青年が立っていた。
ま、足音――通りの談笑がうるさくて聴覚強化は切っていたため、単純に知覚した――がしていたから、誰かがいたのはわかっていたんだけど。
「これは失敬」
「いえ、お気になさらず。それより、本日はどういったご用向きで?」
「魔鉱をもらいにきた」
「かしこまりました。副騎士団長様ですね。お話はすでに伺っておりましたので、このまま案内させていただきます」
ああ、すでに聞いていたのね。
「よろしく頼む、修道士殿」
「よろしくお願いします」
「では早速、参りましょうか」
「ああ」
オレたちは修道士に連れられ、そのまま右手に進んだ。
そこは、左手は――一枚一枚の間隔が広い――扉、右手はガラス張りの通路だった。
ガラスの向こうは、緑の生い茂る中庭だった。
そして、通路の行き止まりが見えてきた。
行き止まりの壁のすぐ横には、一枚の扉があった。
「こちらです」
扉を開けるとそこは人が10数人ほど入るかな、というぐらい狭い部屋だった。
そして真ん中には太い柱。
他にはなにもない。
だがそのまま2人は突き進んで行く。もちろん、柱は迂回して。
柱の裏が階段になっていた。けっこう急だ。
階段の両脇と天井には、一定の間隔で明かりが灯っている。光源は魔法具だ。
感覚だが、2階分ほど下ったかな?
先を行く修道士の足が止まった。
――ガチャリ
という音と共に、目の前が一段と明るくなった。扉があったのか。
「こちらになります。どうぞ、お進みください」
副騎士団長のあとをついて行く。
そこは、とてつもなく大きな部屋だった。
高さは建物2階分ほど。白地に金の装飾の壁、天井。床はつるつる。大理石のようだ。
そして、部屋の奥。
そこは、水色一色の山だった。それも、ただの水色じゃない。淡く光っている。
「これが魔鉱――オリハルコンだ」
「オリハルコン……これが…………」
魔鉱石は、大きく2つに別れる。
1つは、ミスリル。もう1つはオリハルコン。
この2つの違いは、魔力親和性の高さだ。
冒険者のランクにもなっているように、オリハルコンの方が高い。
だが、ミスリルにもいい点がある。
それは、魔力を使用しなくとも加工ができるという点だ。
オリハルコンは、器具に魔力を注がないと加工ができない。
だが、ミスリルはそんなことはしなくてもいい。
これらの理由から、日用魔法具に使われる魔鉱は、ほとんどがミスリルだ。
「ミスリルはまた別の部屋に保管されていますよ。ミスリルは、このオリハルコンの中だと、相性がよくないのか、分離して外にはじき出されてしまうのです」
いや、そのことは別にどうでもいい。
問題は、なぜオレがここに連れて来られたのか、だ。
「副騎士団長様、オレがここに連れて来られた理由は……?」
「ああ、近衛騎士となったお前に、近衛騎士の証としてオリハルコンの武器を作ろうと思ってな」
え、まじ? めっちゃ嬉しいんですけど!!
「喜んでくれて嬉しいよ」
「では、早速行いますか?」
「ああ、そうだな。ライン。あのオリハルコンの壁の前にある円陣の前に立ってくれ」
「あ、はい。わかりました」
壁の前の円陣…………これか。
魔法陣を期待したんだが、本当にただの円だった。
「そうしたら、手を前に突き出して、オリハルコンに意識を向けろ」
手を前に突き出し、意識をオリハルコンに…………。
――!?
その瞬間、オレの中の魔力とオリハルコンの一部がリンクした。
その感覚はまだ広がり続けている。
少しして、ようやく止まった。
あまり時間は経っていないのだろうが、体感時間はかなり長く感じた。
とりあえず終わったので後ろを振り返った。
そこには、驚いた顔の修道士と、かろうじて真顔を保っている副騎士団長がいた。
「えーーっと、終わりました……」
「あ、ああ」
「…………」
なんとも言えない微妙な空気が流れている。
あれ、これってもしかしなくてもオレのせい?
「すさまじいな。まさかこれほどのオリハルコンとつながるとは……」
その言葉を聞き、再びオリハルコンの山に向き直った。
…………心なしか、山との間隔が広くなったような…………いや、絶対に広くなった。山の形も変わってるし。
「副騎士団長様、オリハルコンとつながったというのは?」
「言葉通りの意味だ。我々近衛騎士は、自身の魔力とオリハルコンをつなげることで、自分だけの武器を手に入れる。その際、こうしてオリハルコンとつなげるわけだが…………」
オレの心は、「自分だけの武器」という言葉に支配されていた。
オレだけの武器……つまり、オリジナル!
数多開発されたMMO-RPGでも見かけなかった。それを再現できる可能性が、今ここに……!!
「あれ、オレとつながったオリハルコンは?」
「お前の魔力の中だ。まあ、それはあとだ。一体どれほど?」
「歴史に残るんじゃないですか? 騎士団長様よりも多いんじゃないですか? 僕が立ち会ったわけではありませんが、これほどの量は聞いたことがありませんよ」
「だよな。私もだ。ライン……とんでもない逸材だ」
2人の呟きは、オリジナル武器という単語に支配されているラインの耳には入らなかった。
「では、さっそく工房へ?」
「ああ、そうだな。そうしよう」
「もしかして、オリハルコンを加工するのですか?」
「その通りだ」
ひゃっほーーい!! やったった♪ オレだけのオリジナル武器が! ついに!
再び修道士のあとを歩く。
元来た道を進み、入った扉の隣にあった扉を開ける。
そこは部屋ではなく、通路だった。
だが、この廊下みたいに明るくない。そしてなにより…………
「長いなぁ…………」
長かった。行き止まりも、曲がり角も見えなかった。
暫し進み、ようやく目的地に到着した。
行き止まりの先には一枚の観音開きの扉。そこも開けるのだろうと思っていたが、
――コンコン
ノックだった。すると中から男の声で、
「なんの御用で?」
「オリハルコンの武器を作ってもらいに来た」
「わかりました。では、中へどうぞ」
中に入ると、そこはあらゆる感覚でそこがどんな場所かを訴えてきた。
――鍛冶場だ。
甲高い音。熱気。むさ苦しいおっさんども。
「おう! オリハルコンの加工だな。俺んとこへ来い! 手が空いてる!」
奥から太い、イケボが呼んでいる。
「では…………」
その一言で、目を合わせて頷き合う2人。
「――この先はライン、1人で行くんだ」
「あの声は……右奥の方だな」
「ああ、俺が案内したろ。坊主、ついてこい」
「あ、ありがとうございます」
「ライン、私は最初の広場にいるから、ゆっくりしてくるといい」
「わかりました」
近くにいたおっさんに案内してもらい、先ほどの声の主のもとに辿り着いた。
そこにいたのは、無精ひげを生やしたおっさん一歩手前ぐらい(30手前ぐらい?)の男だった。
声の通り、イケオジとか言う見ためだ。
0
あなたにおすすめの小説
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる