戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

文字の大きさ
84 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第78話  魔物連合第三隊

しおりを挟む
 オレがエルフの国――アグカル国の宿に戻ったのは一週間後のことだった。

 声を殺して泣いた。
 人前では泣かないように耐えた。だから、王都の宿に戻って泣いていた。
 気持ちが落ち着くまで4日かかった。



 近衛騎士、冒険者は…………とりわけ、低級の冒険者がどれだけ死の近くに立っているかは理解していた。なのに…………

「なんで」

 覚悟が足りなかった?
 違う。今回の犯人は魔物連合でまず間違いない。なら、

「お前ら…………オレの友達に手ぇ出して、無事には済まさん!! オレが!!」

 ――必ずぶち壊してやる!!!





 そして、あの日を境に魔物連合の動きが活発化しだした。

「あの日、何があったんだ? 聞かせてくれよ……」

 その質問に対する答えは返ってこない。
 聞く者はいない。なぜならここは、アグカル国王都上空。

 ちょうど向かっている最中に、支援要請が入った。
 
「直で戦場へ向かえ、という話だったな。王都の北東方向…………あれか!」

 北東の方角に目をやると、ちょうど炎の柱が上がった。その炎の柱は、魔物を巻き込んでいた。

 戦っているのは近衛騎士と冒険者。ただし、冒険者は雑魚どもの相手。隊か?

 なにはともあれ、急いで向かおう。



 戦場に到着した。

 均衡状態だった。こちら側も2人、死者を出していた。
 敵はオーガの集団。赤い2本の痣がある。魔物連合だ。
 ただ、白金級のオーガに、なぜ近衛騎士が苦戦を? エルフと人間の間に差はないはずだ。

「要請に従い、参上した!」
「「おお!」」

 騎士の顔に、勝利を確信した表情が浮かんだ。



 騎士たちは援軍だから、ではなく、覚醒アヌースの所持、仮面、服装など、事前に聞きていた特徴と、目の前の存在の特徴の一致。
 よって、特殊任務下の凄腕だと判断した。

「オーガ相手に、なぜ苦戦している?」
「は! 実は――」
「――いや、すまない。オレの失言だった。進化型か、こいつら全員!!」

 魔力を抑えられていて、普通のオーガにしか見えなかった。
 だが、ところどころ、魔力が漏れている。

「お前ら、どこの隊だ……?」
「う゛うぅ…………」
「喋れないのか、喋らないのか…………」
「喋れない可能性が高いかと。私どもも先ほどから声をかけているのですが、先ほどのような、普通のオーガと同じような唸り声をあげるのみでして……」

 ふむ…………となると、どの隊にも属さない?
 いや、属してはいるが、指揮官不在か? 魔術師であれば、傍らで指示を出す存在がいれば役に立つ。それとも……

「命じられて、冒険者を殺しに来たか、か」
「と、言うより『人』の殲滅が目的のようです。こいつらが連れて来ていた雑兵を冒険者に任せ、私たちが相手をしているのですが、目標を私たちに、即座に変えてきました」
「なるほど。しかし、こうして喋っている間に攻撃をしてこないとは…………」

 ? …………!? まさか!!

「まて、ここら一帯は綺麗すぎる! まさか、戦闘は行っていないのか!?」
「軽い撃ち合いが……」
「ちっ! 冒険者どもと即座に撤退し――」
『――もう遅いわ』

 その、謎の声と共に、轟音が響き渡る。

「「――!?」」

 現れたの――空から降って来たのは、異形の魔物だった。

 灰色の肌、漆黒の角が眉間から2本、金色の色彩。
 腹部に赤色の2本の痣。

 そして、その容貌。
 それは、オレの知る知識の中で一番近いもので、ナーガ。
 だが、ナーガとは下半身が蛇、上半身が人間。

 しかし目の前の存在は、下半身は蛇のものだが、上半身は人間とは言えもするが、言えもしない。
 なぜなら、下半身と同じく濃い緑色の鱗が生えており、また腕が6本もある。

「お前は、一体なんだ…………?」

 正直、見た覚えもない魔物だ。似た魔物にも心当たりがない。

「あの姿に心当たりのある者は…………?」
「いえ、まったく……」

 エルフたちも知らないか。
 エルフは人間より長寿だが、知識は共有されているはず。
 しかも、魔物図鑑の内容はそのまま――多少わかりやすくまとめたが――『不可知の書』に写してある。

 だが、そんなオレが知らない。『不可知の書』で確認したが、ページが開くことはなかった。
 似た魔物でも、と念じたのだが、一向に開くことはなかった。つまり……

「未確認、か」
「これは厄介ですね……」

 進化型オーガが5体、そしてこの異形蛇が1匹。

「雑魚どもの討伐はどうなっている?」
「あとゴブリンが数匹残っている程度で、2分もあれば倒せるそうです」
「そうか、なら……冒険者どもは撤退させろ。お前たちから2人付いていけ。ただし、戻ってくるな。残るのは近接型」

 エルフは、他の種族よりも持久力において優れている。
 魔法持久力も、筋持久力も、全身持久力も、だ。

 とは言え、人間や鬼の中にも、エルフより優れた持久力を持つ者もいるが。
 そんなことを言い出したらキリがないな。

 言うなら、エルフは持久力に補正がかかっているようなものだ。経験値ボーナスがな。

『ふむ…………お主が特殊任務下にある近衛騎士じゃな? そして、その容貌……【水晶使い】か』
「そこまで知っているとはな。なあ……お前たちはどこから情報を入手しているんだ?」
『それを喋ると思うか……?』

 しわがれた声だ。だが、なるほどな……。フッ……。

 ここで二つわかった。「喋るわけがない」。つまり、こちら側に内通者がいる、もしくは潜入能力に長けている存在がいる。

 そして、もう一つは、未だ完全に目標を達成しているわけでもない。
 もしくは、達成してはいるが脱出ができていない、もしくはしない。

「そうだったな……。我らは敵対中だったな」
『ああ、そうじゃ』
「敵対する道しかないのか?」
『我らの目的はただ一つ。『人』の滅亡。そして、魔物だけの世界を作る!』
「ふん、くだらん! なにが楽園か! 我らと共存すれば……」
『言語道断! 我らの仲間を何体葬ってきたと――』
「――こっちだって、何人もお前ら魔物に殺されてる。だが、理解した。敵対の道しかないようだな」

 理解した、ああ、理解したさ…………。

 共存はない、ありえない。
 魔物にとって『人』は餌なんだ。もちろん、カクトツなどに代表される、『人』が餌とする魔物も食う。

「食うために戦う、か。餌であり、敵対してくる存在である『人』を排除するのは当然の理、か」
『ああ、そうだ』

 あまり知力もないな。
 感覚では理解しているが、言葉にできないのだろう。オレが簡単に言葉にできたが。 

『ほう……ゴブリンどもが殺されたか! よくも我が部下を殺してくれたな! エルフどもよ!』

 ありゃりゃ……お怒りだよ。
 捨て駒扱いだと思ってたんだが、本当に「仲間」と認識してたんだな……。
 とは言え、この状態は少しまずい……。

「お前ら、早く逃げろ」

 2人の魔術師がアヌースに乗り、去っていく。
 冒険者どもの足はどうするのか、と気にはなったが、オレはそこまで面倒を見ることはできない。

『逃がすはずがなかろう! ──『炎球ブレイズボール!』
「逃してやれって……『晶壁しょうへき』」

 中級魔法、『炎球ブレイズボール』。『火球ファイアーボール』の上位互換だ。

 ──ドンッ

 勝つのは、もちろん『晶壁』だ。火と土じゃ、こちらに分がある。

「お前らは後方から『飛撃』などの遠距離攻撃でオーガを狙え! オレの援護だ! 決してあれは狙うな!」
「「了解!」」
『では、あの世への土産をくれてやろう。魔物連合第三隊隊長、ナーラージャ。お主も名乗るがよいぞ』
「【水晶使い】ライン・ルルクス」
「アグカル国この──」
『──雑魚どもの名前なぞ、覚える必要はない。黙って最期を噛み締めておけ』

 確かに、こいつはあの隊長人狼よりも強い。
 だが、あの時と比べてオレは、身を包むものが違う。あらゆる補正がかかっている状態だ。
 あの時よりも格段に強くなっている。

 だがそれでも、勝てるかどうか……。





 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...