戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

文字の大きさ
85 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第79話  魔物連合第三隊②

しおりを挟む
 刀を構え、睨み合う。

 相手をよく観察してみる。

 身に纏う魔力量はかなりの物だ。オレよりも多いかもしれない。
 だが、何かが引っかかる。鱗も、なぜか脆く見える。

 それに、指揮官――幹部がのこのこと敵地に出てきて大丈夫なのか? 
 前回の人狼は、威力偵察。
 オレたち『人』の頂きを見るため。

 だが、今回は?

 わからない。

 最初に動いたのは、敵のオーガだった。



 魔法を習得した魔物は、言語を喋る、理解することができない場合、無詠唱を習得する。
 だが、どうしても無詠唱は費用対効果が悪い。だが、そこは持ち前の魔力量でカバーしている。



 無詠唱化された『石砲ロックカノン』が5つ、迫る。

「お前ら、できるな?」

 その答えは、行動を以て返って来た。

「「――『飛撃』!!」」

 こちらに残った近衛騎士はちょうど5人。
 5つの『飛撃』が『石砲ロックカノン』とぶつかり、相殺される。

 そして、『飛撃』から霧が生まれる。
 ここで、オレのターン。

 刀を棍に変え、放つ。

「――『音魔砲ショックキャノン』!!」

 前回使った『音砲ショックキャノン』とは違い、今回の『音魔砲ショックキャノン』は、魔力ダメージを与える。
 それは、魔力に波を起こすからだ。

 とりあえず、いい名前が思い浮かばなかったから、こんな名前。
 もし、オレの予想が合っていたら名前は変わる。──『魔法排除リジェクトマジック』と。

 これの効果で霧が晴れ――『飛撃』は魔力から生み出される。そこから発生する霧もまた然り――、そこには大ダメージを受けた異形蛇がいた。血だらけだ。

 おかしな感じだ。
 まるで、魔力しか入っていない・・・・・・・・・・ような…………。いや、まさかな。うん、この世界で……なぁ?

 ――これが本体じゃなく、人形なんて…………。

 いや、ありえる!!

 構成成分に魔鉱を使っていたとしたら?
 そう、何も自我を持たせる必要はない。プログラミング、もしくは遠隔操作さえできれば…………。

 まあいい。とにかく、こいつを倒すことは決定事項だ。

『やってくれるではないか、人間が!』
「人間でもここまでできるんだ。思い知ったか?」
『――『炎弾ブレイズボール』!』

 右上の手をかざし、詠唱をする。そこから放たれたのは『炎弾ブレイズボール』。

「――『晶拳しょうけん』」

 そういや、最近無意識に詠唱することが増えたな、オレ。なんでだ?

 なんて考えてたら、2つの魔法がぶつかった。

 さっきと結果は同じ、勝つのは水晶。
 そのまま『晶拳』が異形蛇に迫る。もちろん、迎撃される。

『――『風砲ウィンドカノン』! ──『風砲ウィンドカノン』! ──『風砲ウィンドカノン』!!』

 今度は左下の手か。手ごとに属性が違うのか?
 三連続か。うん、耐えられないだろう。
 だが、そこも想定内だ。

 プログラミングの効果により、『晶拳』が爆散する。『風砲ウィンドカノン』を放っていた異形蛇は助かったが、茫然と観戦していたオーガどもに、水晶の破片が容赦なく突き刺さる。

「「――『飛撃』!!」」

 すかさず、オーガに追撃! 『飛撃』だけではない。全員、駆け出している。……ってバカか!!

「戻れ!」
『――『爆炎ボム!!』

 オーガと異形蛇が爆炎魔法を使う。広範囲魔法だ。
 オーガどもが間隔を空けて立っていたのはこういうことだったのか! してやられた!

「お前ら!」
「無事です!」

 そんなに脆くなかったか。
 爆発の衝撃で、こちらまで戻って来た。爆発に合わせ、後ろに身を引いたのか。

 ――ズズン…………

 オーガが一体残らず、糸が切れたマリオネットのように、地面に倒れた。

『な、何が起こった? 何をした! 小僧!』
「何も特別なことはしちゃいない。そいつらの頭をよく見てみろ」

 さっき『爆炎ボム』が使われたとき、魔力を余分に消費して推進力を高めた『晶弾』を発射させていた。
 爆炎で死角になるルートを通して、な。『晶弾』自身に含まれる魔力は少なく、感知されにくい。

 あとは簡単。眉間を撃ち抜くだけ。

『また、仲間を…………』

 お怒り中だが、遠慮なしに距離を詰める。
 そして――抜刀!

「――『飛撃』」

 そのまま足を止めることなく、走る。

『――『爆炎ボム』!』

 視界が遮られる。霧散した『飛撃』と、『爆炎ボム』の副次効果である、黒煙。
 この黒煙が出るということは、魔力返還効率が悪い証拠だ。意図的に出すこともできるらしいが。

 だが、オレにはこの仮面のおかげで意味を成さない! 仮面の常時発動バッシブ効果、空間認知能力。

「――『晶弾・龍』!」

 黒煙と霧に紛れ、木々の背後に隠れようとしていたが、オレにとってそこは(仮面の)能力の範囲内。

 よって、そこは死角ではない。

 木ごと、異形蛇を『晶弾』が貫く。1発だけではない。何発も何発も…………。

 だが、悲鳴は上がらない。隊長人狼だって苦悶の悲鳴を上げたのに。

「ほら、オレは目の前だぞ? 近接型を懐に潜り込ませるとは、魔術師失格だぞ? ん?」
『くっ。──『ミスト』』

 辺りを霧が覆う。効果は視界悪化。

「だから、意味はないと…………『晶壁』!」

 後ろに残したエルフたちと異形蛇の間に『晶壁』を展開する。

『ちっ』
「――『晶棘』!」

 位置はバレバレだからな。そこに、地面から『晶棘』を生やした。
 それも、1つではなく、3つ。

 ――勝負は着いた。勝った。

 『晶棘』は3本とも、異形蛇の体を貫いていた。胸、腹、しっぽの真ん中。

 すると、異形蛇は血を吐くでもなく、何も、そう、ただその場でじっとしていた。

『負けたか。そうか、かすり傷も負わせられなかった。【魔導士】と同じ環境にあるわけだ。こうなったら私自ら…………』

 そう言い残すと、塵になって霧散した。

「勝ちましたか!?」
「ああ。だが、急いで撤退するぞ。おそらく、こいつは本物じゃない」
「わかりました!」

 エルフの亡骸を抱え、エルフの王都まで撤退する。



 そしてオレは、居合わせたエルフ1人と一緒に王城に来ていた。
 そして、ここは謁見室。エルフの国王が座っている。

 国王とは何度か話をしたが、賢者って感じのエルフだった。
 見た目とは裏腹に、どっしりしている感じがする。実際に殴ったら、ポッキリ折れそうなほど弱そうだ。

「報告します! 今回遭遇した敵は魔物連合第三隊隊長、ナーラージャと名乗っておりました。そして、こちらの者が討伐いたしました」
「ほう…………久しいな」
「は! 陛下もお変わりないようで何より……」

 漫画、読んでてよかった……。正解かは知らんが。

「うむ、では本題に入ろう。詳しく聞かせてくれ」
「は! 実は、今回遭遇した敵は隊長であり、隊長でない可能性があります」
「その理由は?」

 理解が速くて助かるぜ。一国を治めるだけあるな。

「前回遭遇した人狼と比べ、魔力量は多く感じましたがただそれだけでした。たしかに、一般近衛騎士ほどの強さは持ち合わせておりました。そして何より、死亡の際……消滅・・しました」

 そう、魔物とは言え、実体はある。
 消滅なんて、ありえない。おまけに、攻撃は致命傷だった。

「消滅、とな?」
「はい、塵となり、霧散したのです」

 



 その後は、オレとエルフ騎士で戦闘の経過を詳しく報告した。

「なるほど、たしかにおかしいな。まず、話を聞く限り、魔物かどうかすら怪しい、か……。なるほど、お主の言った言葉の意味も理解できる」





 その後も、同様の報告エルフ国内で上がった。
 そして、本物と思われる異形蛇は出現しなかった。

 そして、やつは魔術に弱いことが判明した。
 近接攻撃は効きが悪かったが、魔法攻撃だとダメージが大きかったらしい。
 実際、『音魔砲ショックキャノン』は効きがよかったしな。

 らしい、というのは、ここ3日間、王都に縛り付けられてたせいで外に出られなかったからだ。
 近衛騎士たちに稽古をつけてやってくれ、という国王の勅命のせいだ。しゃーない。

 やはり、『音魔砲ショックキャノン』は魔法を打ち消す効果があった。
 相手によっては、威力を弱める効果があった。
 これからは『魔法排除リジェクトマジック』だな。

 騎士共に教えてくれって頼まれたけど、誰も一歩目からできなかった。



 オレがエルフの国を去るときにはすでに異形蛇の攻略法が確立されていた。

 必ず魔術師を連れて歩くことを義務化された。オレには関係ない。



 仮面を被り、旅立つ。
 次の行き先はリザードマンの国。また呼ばれた。


 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...