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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第81話 【最強】との邂逅
しおりを挟むリザードマンの国を通り過ぎ、どこの国にも属さない地域。
「結界までもう少しか……」
そこから少々進むと、ある一線を境に、木々が変化していた。
ファンタジーの魔女の館に生えてそうなくねくねした木。色も黒っぽく変化している。
そこからは地面に降り立ち、境目まで歩く。
「なるほど。ここから壁か」
フレイに跨り、そのまま真っ直ぐ上に飛んだ。
「ああ……、こりゃ果てしなく上まで伸びてるな」
叩いても殴っても、力が逃げている気がする。……いや、吸収されてるのか…………?
「だめだ。破れそうにないな」
中に入ることはもう諦めた。
中の魔物はこちら側とは異なる変化を遂げているらしいから、いい修行になると思ったんだが……。
仮面の『千里眼』を発動する。
「『千里眼』は通すのか……。なら……『晶弾』!」
――バシン!
『晶弾』は弾かれ、粉々に砕け散った。
オレとの魔力の繋がりも絶たれた。反魔法が付与されているのか。
手で触れてみる。
触ることはできる。触り心地は……ペタペタしてる。つるつる。
「この中に入ることができれば…………魔王に迫れると思ったんだがな」
――!!
魔物連合の盟主が魔王である可能性はないか?
だが、あのぼろぼろマントは「生まれた」と言った。生誕したのか、復活したのか……。
「魔物連合の盟主、魔王、そしてこの結界……」
まあ、いいや。とりあえずこれまでの考察とかを『不可知の書』に書き込んでおこう。
そう思い、『不可知の書』を開く。
「……聖遺物のそば…それ……らけ」
誰だ!?
耳元で声が聞こえた。
途切れ途切れでよくわからなかったが、聖遺物のそばでそれを開け、だろう。……聖遺物?
あたりを見渡しても、誰もいない。
なにより、ここは上空。『千里眼』と魔力探知を発動させ、周辺を注意深く見渡す。
人どころか、魔物の影すらない。結界の中にも何も見えない。
「耳元というより、頭の中に直接響いた感じか? テレパシーってやつか?」
まあいい。聖遺物……もしかして、教会のあれか?
とりあえず、行ってみようか。違ってたら違ってただ。
4日かけ、へラリア王都に戻った。
そのままの足で教会に入る。フレイは王都内の預かり場に預けてある。
「おや、【水晶使い】様」
「『名無しの部屋』を見に来た」
「あの部屋、ですか……? かしこまりました」
「ああ、1人で大丈夫だ」
誰も付いて来ていないのを確認し、急いで『名無し部屋』に入る。
「ここか……か……?」
7本の柱の中心まで進み、『不可知の書』を開く。
――すると、『不可知の書』と柱の1本が光り輝きだした。
「な!?」
次の瞬間、オレは真っ暗な空間にいた。
転生前の神とやらがいた部屋、冒険者学校入学のとき。
その空間には、神がいた。
その空間には、謎の人魂がいた。
そして、今回は全身黒ずくめの存在がいた。
「ようやく来たか」
その姿はまるで伝承の……
「……【最強】」
そいつの背後には円卓と椅子があった。
「ライン・ルルクス…………いや、澄川蓮。器の所持者」
「お前は?」
「俺は寺島駿。こっちではシドー・ハンダイラン」
寺島駿、だと……?
オレの元クラスメートだ。
趣味が合うので話すこともそこそこあった。
駿のそばにはあいつの幼馴染がいたため、2人でつるむことは少なかったが。
「久しぶりだな。あいつはどうした? お前の幼馴染は」
「あいつはわからない。だが、ライン、お前ならわかる……知ることができる。【知】の器の所持者」
「【知】の器?」
「それだ」
そう言って駿が指差したのは『不可知の書』だった。
いやいや、これは人の目には見えないはずだ。
うん、きっと偶然だろう。
移動させてみる。それに合わせ、指も向きを変えている。
「それは、器の所持者は見ることができる。ラインにも、この杖が見えるだろ?」
ローブの中から、1本の短杖が出現する。それはふよふよ漂っている。
「俺の短杖と、ラインのその本は……器」
「なんの?」
「神の器……そう、神器。だが、見た感じまだ不完全だな。どうせここに来たんだ。完全にしてもらうぞ」
「あまり時間がかかるのはちょっと……」
そう。今は魔物連合の襲撃が活発化している時期だ。
どこまでいっても人手不足だ。
特にオレは、自分で言うのもなんだが、各国から重宝されている。
「大丈夫だ。ここは世界とは異なる場所。今生きている、魔法の世界の番外編に当たる場所。故に、同じ時が流れているわけではない」
「ああ、竜宮城、精神と●の部屋か」
「いや、ちょっと違うな……こっちでどれだけ過ごしても、老いることはない。向こうに戻ると、こちらに来た時間から再スタートするって寸法だ」
なるほどな。たしかに、番外だなここは。
ここにいたら、半永久的に生きれるのか。
「なるほど、【最強】行方不明の理由は、ここにいたからか。なあ、向こうの世界には帰らないのか?」
「言ったはずだ。戻ったら、元の時間に戻ると。すでに歴史が動いている。戻るには遅すぎる。ただ、ラインが器の保持者として覚醒すれば、この時から抜け出せる」
ああ、そうか。駿はまだあっちの世界の時に縛られてるんだ……。
「で、覚醒するにはどうすればいい?」
「ここでただ過ごすだけでいい」
「それだけ……?」
「それだけ」
厳しい修行でもやるのかと思った……。
「ここは神器の故郷みたいなものらしくてな。俺はあの聖遺物に触れたら覚醒したんだが、ラインの場合はちょっと変わってくる」
「へ、へぇ~~。まあいいや。向こうで何が起きてるか、わかるか?」
「ああ、すべて知っている。だからこそ、だ。覚醒するまで、修行だ」
ああ、やっぱりこうなるのね……。
「覚醒すればそれに合わせて強くなるから、やるなら、動きとかの確認だ」
「へい」
これから、オレは覚醒するまでの3年間、ひたすらここで過ごすこととなった。
向こうの時は進んでいない。
こっちで100年も過ごせば向こうの時は進み始めるらしいけど。
3年後。
こちらでは腹は減らないし、眠くもならない。疲れはするけど。
いつも通り、駿と談笑していたときだった。
突然、『不可知の書』が光り輝きだした。
やがてその光は落ち着きを取り戻した。
「終わったな」
「これでオレは強くなったのか?」
「あんまり変わらないと思う」
え、いや、強くなるって言ったのはあんたでしょうが!
「【知】は戦闘向きじゃないらしい。それでも、加護持ちと十分タメ張れ……もともと張ってたか」
加護、か。別名、神器の欠片。
神器の保有する様々な能力のうち1つがランダムで宿ったこと。
「加護持ち? 誰だ?」
「副騎士団長に、ターバだ。ラインの周りしか見てないから他はわからん」
「そうか…………ターバが……。ちなみに、加護は?」
「さあ? 少なくとも、俺のではないな」
駿は【魔】の柱。
能力は、世界の魔力の管理、無限の魔力、緻密な魔力操作、無詠唱化、全属性理解…………。
オレは【知】の柱。
現在判明している能力は、全知、感覚強化、思考加速、理解、無詠唱…………。
ただし、全知は利用不可能だ。
駿のように、向こうの時から脱するしかない。でも、理解の効果である程度補えそうだ。
「で、強くなるという根拠はまさか、自分が無限の魔力を獲得したから、じゃないだろうな?」
「はっはっは! まあ、行ってみればわかる! それらの能力も意外と役に立ちそうだし、こっちでの修行で格段にパワーアップしたのは事実だ」
「ああ、そうだな」
【最強】の修行は本当に有意義だった。
魔法も身体能力もまるで敵わなかった。【最強】は本来、火の属性特化だったため、火の扱いは群を抜いていた。
水晶が簡単に溶かされたときは焦った。
「それじゃ、また気が向いたら戻ってこい。とは言え、覚醒した今、あちらで一生を遂げることはない」
三賢者の時代、【最強】に何があったのかは全部聞いた。
それゆえに、なぜ戻らなかったのかが気になっていた。
戻らなかったのではない。戻れなかったのだ。
「ああ、行ってくる」
「……死んだら全部なくなるからな、気を付けろ」
返事を返そうと思ったが、そのときにはすでに教会に戻っていた。
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