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番外編 【最強】の過去
番外編 【最強】の過去5
しおりを挟む「今日の討伐成果だ。報酬を頼む」
そう、受付に切り取られた魔物の一部を渡した。
全身を黒ずくめの服で覆い、仮面を着けた不気味な人だ。
不気味だが、その強さは桁違いだった。
この都市にやって来たのはほんの数年前だが、見た目のせいで誰も話しかけたがらなかった。
「どうぞ、半銀貨5枚ですね」
「……」
枚数を確認し、その男――シドー・ハンダイランは冒険者組合を出た。
シドー、18歳。世間に認知されつつある。
その翌日、シドーは朝早くから森の中にいた。
その原因は、昨日のニュースだ。
『傭兵、シューゲル・ターレイ死す』
傭兵シューゲルは、人族の……いや、世界屈指の実力者だった。にも関わらず、それが殺された。
そう、殺されたのだ。
発見されたときは、すでに今際の際だったそうで、何も言わず息を引き取ったらしい。
その体は、物理的外傷ではなく、魔法による傷が明らかに多かったらしい。
国や都市が行動を規制してくる前に、シドーは確かめておきたかった。
(魔法……シューゲルを倒す実力……魔王の可能性大か……)
魔力探知を発動させながら森の中を進む。
シューゲルがどこで発見されたのかは明かされていない。
しかし、魔王は人目を忍んでいる。そのためシドーは、森の奥へ奥へと進んでいった。
森を歩くこと数時間、シドーはようやく魔王と思しき存在を発見した。
「はぁ……はぁ……。ちっ! あいつの手先がこんなときに……面倒な」
「その言いよう……あんたが魔王でいいんだな?」
魔王は全身傷だらけだった。
左手は失われ、太刀筋が刻まれていた。
(シューゲル、結構いいところまで行ったんだな)
その傷が真新しいことから、傷をつけたのはシューゲルだろうと推測した。
「ああ、この傷か? 昨日の刺客が、命と引き換えに付けてきた傷だ。呪いの効果も含まれているせいか、回復魔法の効果が薄い」
「そんなに情報を流してもいいのか?」
「勝てるからな」
シドーは改めて魔王を観察する。
黒髪で長髪。目は深紅。程よく焼けた、褐色の皮膚。
(人間か……? 神もそうだったが、所詮は”人”か? でも……)
シドーの目――魔力探知に何も映らない。
「魔力探知か? まあいい。お前を撃退することぐらいはできるだろうよ」
「…………ふっ!」
シドーは覚醒し、オリハルコンを防具と剣に変えた。
それに合わせ、魔王も覚醒する。だが、オリハルコンはない。神の専売特許か?
「――『水球』」
初級魔法であるはずの『水球』だが、その推測される質量は中級魔法の『水砲』を優に超える。
「――『火球』」
だが、それはシドーも同じだった。
火と水の魔法が両者の中間でぶつかり、水蒸気が発生する。
しかし、両者には大きな違いがあった。
シドーは火属性の魔法のみ、魔王級……いや、それ以上の実力だった。差は絶妙だが。
――が、魔王はすべての属性でそのレベルの実力だった。
「――『炎斬』」
シドーは大きく横に跳躍し、避けた。
背後の木に魔法が命中し、大爆発を起こした。
(斬るって言ったよな、こいつ。スラッシュって! なんで爆発してんだよ)
だが、改めて観察すると、斬る、という表現で正しいことがわかった。
周りの木も含めて、大体直線状に抉れていた。
剣に炎を纏わせ、全身にも纏う。
魔王は手負いの身で、特に下半身の傷が深い。素早い移動は困難に思われた。
シドーは腰を落とし、クラウチングスタートの構えを取った。
体に纏う炎の火力を上げ、炎の塊となった。
「――『水龍槍』」
槍《ジャベリン》というには大きすぎる槍がシドーに迫る。
が、シドーに当たる直前にシドーは地面をめくりあげ、その場から消えていた。
シドーは地面に足を着けることなく、低空で跳び続ける。
そして地面に足を着け、大きく上に跳躍する。
シドーの周りの炎から無数の炎の剣や槍が生まれ、魔王に迫る。
あまりの速さに、剣も槍も火の直線にしか見えない。
「魔力干渉『排除』」
「――『爆発』」
名称から、魔法を打ち消す魔法であると判断したシドーは、魔法をすべて爆発させた。
「「はぁ……はぁ……」」
互いに肩で息をしている。
シドーの炎も先ほどに比べ、火力が落ちている。
魔王の息切れの原因は…………
――出血だ。
「なぜ……」
魔王の問いに、シドーは答えない。
先ほどの爆発は、見た目こそ派手ではあったが、それによる魔王の受けたダメージはほぼ0だ。
つまり、爆発は囮で、何かしらの技術で傷口を広げた? そう、魔王は推測した。
しかし、それは間違いだ。シドーは爆発以外、何もしていない。
種はこうだ。
爆発で生じるエネルギーのほとんどを熱エネルギーに変換したのだ。
傷口を洗うとき、その水は冷たい。だからこそ、血管が収縮し、血が止まる。
仮に温かい水で洗った場合、出血が増えるだけとなる。
そう、シドーは熱で魔王の傷を悪化させたのだ。
現に、悪化したのはどれも、魔王が先日、妄信的狂信者《シューゲル》から受けた傷ばかりだ。
加えて、その傷は治癒遅延の効果がかかっている。
回復はできず、悪化する傷。状況は最悪。が…………
(ハンデとしては十分か。本気で相手をして、神が来る前に逃げよう)
魔王からすれば、神の加護とやらを受けていない存在は雑魚という認識だった。
シドーは今の自分に劣る。そう断言できた。
「――『炎人形』」
シドーは人型の炎を作り出した。高さ3メートル。
「行け」
そう言うと、『炎人形』は魔王に向かっていった。
『炎人形』は右腕を振り上げ、魔王に殴りかかった。
――ガキンッ
魔王が無詠唱で生み出した水の盾が『炎人形』の攻撃を受け止める。
『炎人形』の熱量が水を蒸発させるが、微々たるものでしかない。
しかしそのとき、すでに『炎人形』は左腕を振り上げていた。
その一撃は水の盾を上回り、届かないと思われたがそこで手の形を失い、魔王を包み込む。
「ふっ!」
魔王は何も動かさず、火を吹き飛ばした。
「…………どこに――がふっ」
「終わりだ」
魔王の後ろに回り込んだシドーが、剣で魔王の心臓を背中から一突きにしていた。
「ぐ……死なば諸共!」
その瞬間シドーは魔王の背中から剣を抜き、魔王の右目を斬った。
その過程で魔王は頭を大きく抉られた。
シドーも高威力のカウンターをくらい、満身創痍だ。
「ぐあぁあああああ!! 貴様っ! は……ぁ…………」
右手をシドーに向け、高密度の魔力を集中させていた魔王は膝から崩れ落ちた。
「なぜ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、シドーは魔王を見下ろす。
(魔力が練れない……なぜ……【魔】の器を持つ私が)
(大量出血か。シューゲルの活躍が大きかったな。とはいえ、街に帰るまでに命があるか……足は動くが、左腕が動かない。切り落とすことになりませんように)
その頃、神はこの光景を遠くから見ていた。
「ふふふ……やはり、異世界者を取り込んだのは大きかったですね。シューゲルもよくやってくれたようですし、私の役に立ってもらいましょう」
神は笑いを堪えきれないでいた。
(魔王が死ねば、魔王を殺した【神兵】の……ひいてはその主人たる私の評価が上がる! この光景を公開すれば…………)
魔王は神に追われる前は、この世界で多大な影響力を持っており、神と同じように信仰する者も少なくなかった。
今も根強く残っている。
だが神は知らなかった。
神は、器の所持者が死んだ場合、新たな所持者を待つと思っていた。
しかし、事実は異なる。
器の所持者が死ぬという前例がなかったため、これが初めてだった。
事実はこうだ。
――器の所持者が死んだ場合、器は自身の意志で以て次の所持者を選別する。判断基準は器によって異なる。
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