戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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番外編  【最強】の過去

番外編  【最強】の過去6

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「はぁ……はぁ……がふっ!」

 魔王が吐血する。

 前日の妄信的狂信者シューゲルの猛攻、今わの際に残した回復遅延の呪い。
 それを抉るかのような熱を中心とした攻撃。

(神め…………信者の寿命を代償に超強化した配下の次は【神兵】か……ちっ! まあでも、これで…………)

 魔王は長生きに疲れていた。
 器の所持者はこの世界にあってないところに行ける。が、神にいつ寝首をかかれるともわからない状況で行けるわけがない。
 神の器は厄介極まりない。

「ん……なんだ? ああ……そうか……おい」
「なんだ?」

 魔王は何か考えるように内側に意識を向け、戻るとシドーに話しかける。

「次の【魔】の器の所持者はお前だそうだ」
「は?」
「ふぅ…………まさか、こんな数十年も生きておらん若造にやられるとは……この世も捨てたものではなかったようだな。神に追われるづける数百年だったが、この一時は楽しかったぞ……それじゃあな」

 そう言い残すと、魔王は静かに息を引き取った。

 次の瞬間、魔王の体から光の球がシドーに向かって飛び、シドーの体内に入った。

「何が……!? …………これは?」

 シドーの視界の隅には、1本の杖が浮かんでいた。

『それが【魔】の器……神器だ』

 シドーの脳内に、魔王の声が響いた。

『これが、か? 大して強くなった気はしないが』
『ああ、少し待っていろ。…………いいぞ』

 杖が光り輝き、光が収まると

「これは……!」

 シドーの体に衝撃が走った。
 無限に思える魔力に、なんでもできそうな気分だった。これを表現するなら――高揚感。

『私の権限ですべて解放した』
『そんなことができるのか?』
『いや、この世に誕生する全生命の中で最もふさわしいと判断したのが私なのでな。少しばかり融通をきかせてもらっただけだ』

 器を所持できるのは…………代替わりすることはない。シドーが異常イレギュラーだった。

『…………すまない、神に感知された。これから先、再び刺客が向けられることとなるだろう。どうか、油断せずに頑張ってくれ…………』

 そう言い残すと、魔王の反応が消失した。

(これほどの力があれば、一蹴できそうな気はするが……油断大敵か。とりあえずの目標は、力になれることだな)

 シドーは現在、力を持て余している。
 急に手に入った強力無比な力。すぐに順応できるはずがなかった。

「とりあえず、あの属性表を思い出して、使える属性を増やそうか」

 シドーは、転生前に見た、元素人の属性表を思い出していた。

 最初に火、水、土、風、草の5つがあった。
 シドーは火をとったが、その次はもうなかった。

 しかし、そもそも草があることがおかしい・・・・
 普通の人なら火、水、土、風の四大元素を想像する。が、シドー……駿は五行思想だった。

(でも、本当の五行思想は草じゃなく、木だったはず……なのに、たしかに草と書かれていた)

 ここからシドーが導き出した答えは一つ。
 この世界の魔法属性は、想像の範囲内で自由。

「得意な火から派生させようか……」

 




 シドーは得意な火属性から派生できるだけさせた。
 実験を開始したのがおおよそ昼前。昼飯は近くに寄ってきた動物を焼き、食べていた。
 派生に成功した属性はこれだ。

 熱。

 これだけだった。
 光も、火から分離できそうだったが、謎の力で分離できなかった。

「まあ、熱がかなり有能だったし、いいとしようか」

 神器の加護の【全属性理解】と【緻密な魔力操作】で細かい操作が可能となった。 
 それに加え、【無限の魔力】で無限に実験可能だった。

 熱は、水と組み合わせて水蒸気と氷に。土と組み合わせて溶岩に。風と組み合わせて空気の膨張ができた。

「氷と水蒸気が特に使えるな。あとは、他の属性から更に派生させれば……」

 









 数年後。
 シドーは武器を剣から爪に変え、戦闘スタイルを近接中心へ変えた。
 魔法に頼る機会がなかったせいだ。

 神からの刺客は何度も向けられたが、シューゲル級と思われる刺客は現れなかった。
 ほとんどの敵は魔法を使うまでもなく撃退に成功した。
 
 中には、裏家業のヤクザや教会もいた。だから、シドーは組織ごと潰した。
 そして気づくと、シドーは【最強】と呼ばれていた。

 
 【三賢者てんせいなかま】と出会ってから、彼らの世界的改革に手を貸した。
 オリハルコンの存在も公表させた。
 
 神からの刺客も、シドーが魔王を超える実力を手にしたと察知したのか、雑兵の刺客を送ってくることはなくなった。



 そしてシドーは数年掛け、神器の力を完全に自分のものとした。

 新たに2つの属性を手にしたとき、【三賢者】の1人、【鍛冶の賢者】ユーキラ・へインが神の刺客に殺された。
 逃走した刺客を追いかけ、殺した。

 逃げ足が速く、追いかけるにの時間が掛かったが、追いつくと同時に始末した。

(ユーキラを殺したわりには、取るに足らない雑兵だったな……暗殺型か。直接戦闘に持ち込めて助かった)

 そのとき、

「――ふふ……久しぶりですね、【神兵】。貴方には期待していたのですが……残念です」

 女の声がしたと思ったら、辺りに光が満ち、光が収まると――神がいた。
 しかもそれだけではなく、周囲に手下と思われる影が複数あった。木の陰でよく見えないが、最低でも20はいると思われた。

「そいつらは?」
「魔王の神器が貴方に移るとは思ってもみませんでした。殺すと、殺した相手に移るのでしょう……」

 神はシドーに問いを無視して喋っている。これはダメだと判断したシドーは話の流れを変えた。

「…………用件はなんだ? はっきり言え」
「……貴方の神器を貰いに来ました。大人しく横になって殺されてください」
「断る」

 あまりのいいように、シドーは即座に戦闘態勢に入った。
 それに合わせ、神の配下も戦闘態勢に入った。

 その配下は、半分は『人』、もう半分は魔物だった。しかも、人型が大半。
 共通して言えることは、その体に赤い痣があることだ。

 一体一体、シューゲル級の実力ではなさそうだが、【三賢者】級の実力は有しているだろうと思われた。
 【三賢者】は、3人ともこの世界では稀有な覚醒者で、加護によるステータス補正(のようなもの)もあり、世界屈指の実力だった。
 それでも、一体一体がそのレベルの実力。一国を攻め落とすこともできそうな戦力だった。

 しかも、総大将は伝説上の存在で、永遠に近い時を生きてきた、信仰対象にもなっている――信者数は土着信仰なみに少ないとはいえ、一応――神だ。
 その実力は折り紙付き。しかも、魔王曰く、その器は【魂】。
 【魔】とは異なり、戦闘向きではないが、油断はできない。

「……殺りなさい。貴方たちに授けたその力があれば、例え魔王の後継でも取るに足りません。前魔王を追い詰めたのは、私の配下ですよ」
「「うぉおおおおおおおお!!」」

 配下は全員、オリハルコンの武器防具を身に纏っている。
 
(どんだけ在庫があったのやら……これを機に、強奪するのもありだな)

 シドーは勝利後の未来を見据えていた。
 シドーの目に「敗北の未来」は見えなかった。…………いや、見ないようにしていた。 

「魔王の意志を継ぐ元【神兵】よ……」
「これを機に、お前との因縁に決着をつける!」

 この世界に転生させた張本人。
 罪のない魔王の討伐を命令してきた依頼主。
 自分の命を狙い、刺客を送ってきた存在。
 そして、自分の前に立っている、敵軍の総大将。

「それも、魔王の意志ですか……」
「……数割は入っているだろうな」

 神とシドーの会話は続くが、配下はなおもシドーに向かって徐々に距離を詰めている。
 警戒心半分、敬愛なる主人の会話を遮るのは不敬という思いが半分。
 
「では尚更です。最初から全力で行かせてもらいましょう。皆さん、準備はいいですか?」
「「はい!!」」
「いい覚悟ですね」

 そのとき、神の手の中に一つのオーブが現れ、淡く輝きだした。

「さぁ! 解放のときです! 今こそ聖なる戦いの時です! 我が配下に力を! ――『魂強化アッドスプリット』!」 
 
 

 

 
  
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