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番外編 【最強】の過去
番外編 【最強】の過去7
しおりを挟む「――『魂強化』!!」
神がそう言うと、神の持つ珠が淡く輝きだした。
それに呼応するように、配下の体も淡く輝きだした。
そして、配下は体を抱え、うずくまった。
苦しんでいるような素振りだったが、その顔は興奮に彩られていた。
そして苦しみが治まった
「力が……漲る……!」
配下は一回り、体が大きくなったようだ。痣も濃くなっている。
しかし1体の魔物が…………
「ぎっ!」
――ボンッ!
体が大きく膨らみ、破裂した。
辺りに内蔵やらが飛び散り、赤く染まる。隣の人間にも掛かったが、気にも留めない……というより、見えていないようだ。
「さぁ、行きなさい。そして、貴方が新たな魔王となるのです!」
「「おぉおおおおおおお!!」」
神の声に応え、配下が雄叫びを上げながら迫ってくる。
その顔にあるのは恐怖でもなく、興奮。先ほどまでシドーに向けていた感情は微塵もなかった。
神の「貴方」という単数形の指示代名詞に、自分だと思ったのだろう。
360度全方位から迫ってくる配下と、その魔法。
処理できなくはないが、神の存在を考えると、時間はかけられない。
そう判断すると、シドーは決心を決めた。
――最大の力で以て、因縁を断ち切る、と。
シドーの手の中に、一振りの短杖が現れた。
「それは……! 退避!!」
「――『獄炎』」
神が退避命令に配下が一瞬迷ったその瞬間――豪炎が吹き荒れた。
黒い炎が、配下を一瞬で消し炭にした。シドーの周りのみ、炎はなく、神のいた場所も燃えていた。しかし、配下は燃えていなかった。
「……17か……配下だけか」
シドーは、【緻密な魔力操作】で燃やす対象を選別し、炎に包まれた物体を把握したが、神の立っていた場所にその姿はなかった。
「――『魂破裂』」
神の声が聞こえたと思ったら、炎の中の神の配下が――爆発した。
「――『魂砲』」
そして、その配下の立っていた場所から、エネルギー砲がシドー目掛け、迫る。
依然として炎が辺りを包んで――選別せずにすべて燃やすようにした――いるが、エネルギーを削ることは叶わなかった。
「――『上昇気流』」
寸での所で上空へ飛び、
「――『飛行』」
で姿勢を整えた。すぐ下では、大爆発が起き、炎が消し飛ばされていた。
辺りを見渡すと、ちょうど真後ろに神の姿があった。神のすぐ横には、先ほどの珠が漂っていた。
爆発から吹き飛んできたエネルギーを、珠が吸収し、微かに輝きを得ていた。
「ふむ……やはり魔王の意志を感じますね。しかしその魂はもうない……なるほど、神器の強制解放に自身の魂を代償にしたのですか」
「魂の状態では、あんたには勝てないらしいからな。まあ、その礼としてあんたには一撃入れるつもりだったが……俺も巻き込まれる運命だったようだな」
「運命ですか……貴方をこちらの世界へ呼んだのも、運命。貴方と敵対するのも運命ですか……。運命の器はないというのに……おかしな話ですね」
そういう神の表情には、一切感情を確認できなかった。
辺りに漂う魔力から、周囲の状況を確認する。
(ここは……リザードマン連合の領土か……もう国だっけ?)
少し離れた場所に結界を確認した。
ユーキラを殺した刺客を追いかけているうちに、気付かないうちにリザードマンが住んでいる領土の端っこにまで入り込んでいたようだった。
【三賢者】の活躍で、戦争が終結し、連合が国として成立している最中。リザードマンの連合は現在、国としての地盤固めに動いていた。
つまり、まだ国ではない。国ではあるが、国と宣言していない。それゆえ、シドーは、困惑した。
「さて……配下が全滅しましたし、次の【魔】の所持者は誰になるんでしょうね?」
「【魂】の器だろ。代替わりぐらい経験しときな」
「戯言を……。――『精霊魂』」
シドーの推測では、『精霊魂』は四大元素の魔法の強化、使用。
【魔】の器の持つ能力での分析結果のため、ほぼ間違いない。
(だが、所詮魔法か……魔法に器の力を加えた魔法といったところか。【魔】対策か)
【魔】の力でもってすれば、相手の魔法に干渉することができる。
しかし、器の力を加えられたら、完全に消すことができなくなるかもしれない。それどころか、干渉すらできないかもしれない。
「――『炎巨人ノ拳』」
すると、神の右腕が炎を纏い、巨大化した。火だが、実態はあるようだ。
神の栗色の神が炎に触れているが、少しも燃える気配がない。
もともと服を着ている上からの炎の腕だ。自分の魔法で自分がダメージを受けるなど、愚の骨頂だ。
(当たって砕けろだ!)
シドーはだらしなく垂らしている神の右腕に
「――『魔法干渉』」
【緻密な魔力操作】で相手の魔法に干渉する。そして――
「――『排除』」
魔法を排除…………できなかった。
一瞬、腕が大きくぶれたが、消えなかった。
「相手の魔法に干渉する力ですか……【魂】の器の力と魔法を組み合わせることで対策できるのですよ」
「そんなべらべら喋っていいのか?」
「問題ありませんよ? 知ったところでどうしようもないでしょう?」
「…………」
図星を突かれ、シドーは黙る。現時点で、シドーは解決策を有していない。
「その反応は図星ですね。この世界にとって、【魔】の力は信仰の対象となりやすいのでね……邪魔なのですよ」
「……それだけか? ――くだらない」
「……そうですか……では、私の目的達成のため、死んでくれますか?」
「ノー、だ」
その言葉を口切りに、戦闘が再開された。
神は炎の手をシドーに向け、シドーは杖の先を神に向けた。
「――『炎巨人ノ小指』」
「――『水龍』」
神の炎の手の小指部分が伸び、シドーに迫る。
シドーの杖先から、水龍の形の水が噴射された。
水龍は神の炎の小指に巻き付き、神に向かって水の塊を発射した。小指の火力は水龍の水の体に当てられ、弱まっていた。
当時、まだ英語詠唱が流通したてだった。【三賢者】の尽力で、あとは時間の問題だった。
余談だが、この数十年後、英語詠唱が一般化する。
「ふふ……そう言えば、この頃魔法詠唱が変わっているようですね」
「それがどうした?」
「民衆の愚かさを知ったでしょう? 尊敬する、功績の持ち主が言うことはなんの疑問も持たずに受け入れる。所詮、上の言うことには逆らえない、弱い民衆…………」
神が何か語りだした。
シドーは黙って聞く。
「どうです? 利用しがいがあるでしょう?」
「お前の目的は…………」
「そうです。国を興し! 国民全員が忠実な兵士となる! どうですか? 誰も戦争を仕掛けようとしない、戦争のない平和な世界の実現です!」
神の言いたいことはこうだ。
国民全員が自分を崇拝し、自分の言うことを忠実に――妄信的に受け入れる。
そこに老若男女なぞ関係ない。
「で、そう思った理由は?」
「理由ですか? そんなもの、決まっているじゃあ、ありませんか。私が――“神”だからです」
「……神? それは神器に選ばれたせいだろ?」
「ええ。私は選ばれし者です! そういった権利はあって当然でしょう?」
遥か昔。
神は自分が神器に選ばれたことで慢心していた。
幼い頃から、周りの大人より強く、鼻は高くなるばかりだった。
それに加え、神器に選ばれていたことの判明。
おまけに【魂】を司る神器。異世界にも干渉できた。
神は名を捨てた。
――そのとき、自分の出生を知るすべての人間を殺して……。
神の立てた筋書きはこうだ。
神器の力をある人のもとで向上させ、力を完全に自分のものにした。この期間、およそ数世紀。
その後、力をフル活用し、信仰を集める。
「そのある人ってまさか……」
シドーはその人物が誰か、察することができた。神の、今までの態度から。
「ええ、そうです……貴方の中にある意志がそう言っているのでしょうか? そのある人物とは……」
――前・魔王です。
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