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番外編 【最強】の過去
番外編 【最強】の過去9
しおりを挟む「ああああああああああああああ!!!」
神は半狂乱になり、手当たり次第に魂のエネルギーを若干込めた魔法を放った。
魂が込められている証拠に、シドーはその魔法に干渉できなかった。
「ああああああああああああああ!!!」
しかし、神の攻撃はシドーにはまったく当たらなかった。
(はぁ……終わったな)
半狂乱となった神を見放し、シドーは決着の一手を決めるため、魔力を極限の練度で練り始めた。
その間も神の攻撃は続くが、当たる気配はない。
「――『地獄ノ――」
そのとき、神が微笑を浮かべたことに、シドーは気づかなかった。
必殺の魔法を放とうとしたシドーの背中に、攻撃が当たる。間髪入れず、2発目がシドーの背中に命中し、防御膜が破られ、それでも受けきれずに攻撃を食らう。
魔法の詠唱がキャンセルされた。
「油断しましたね? ふふふ……!」
「体が!?」
シドーは避けようとしたが、体が硬直して動かなかった。魔法の詠唱も――【無詠唱化】があるとはいえ――乱れ、発動に時間が掛かっていた。
発動の前に攻撃が当たることで、魔法がキャンセルされ、またやり直しというループを繰り返していた。
そのせめぎ合いも遂に終わり、そのときはすでにシドーの体はボロボロだった。
「がふっ!」
シドーは吐血し、口を拭った。
「ふふふ! 油断大敵ですね! 貴方が必殺の一撃を放とうとしていたのと同じように、私も必殺の一撃を放っていたのです。厳密には、“一”ではないですがね」
いつの間にか、神の傷が塞がっていた。
「――『魂付与』。魂の欠片を魔法に付与し、『魂限界突破』で高エネルギーを抽出したのです。魂――精神への攻撃も副次効果として付いているので、それによって混乱を引き起こしました」
「へぇ、えらく解説してくれるんだな」
「対策はないでしょう? それに、これで終わりではないですよ? ――『配下召喚』」
神の呼応に応じ、神の周りに輝く球が複数現れた。
「『我が前に揃え集え。我は汝らを使役する者。力と仮初の力を与える』」
神の周りの珠が輝きを増し、徐々に形を得始めた。
その形は様々で、人型、獣型、不定形。
そして形が定まると、一層強く輝き、
『『うおおおおおおおお!!』』
咆哮を上げた。
『神よ! 感謝します!』
『これが私の新たな力!! 新たな体!!』
『ガアアア!!』
しかし、四精霊とは圧が違い、明確な意思があった。
形だけは整えられているが、その形は様々な種族のものだった。
人間が最も多いが、人型の魔物、獣型の魔物、鬼、エルフ、ケモミミ、リザードマン等々……。
「さあ、我が信者たちよ! その力で敵を打ち砕きなさい!」
シドーはすでに傷だらけだった。
光の塊たちが、シドー目掛け突進する。
シドーは風の魔法で縦横無尽に避ける。
そのとき、神の背後に他とは違う――緑色の光の塊がいた。それが神を癒しているようだった。
そして、高速で上空に逃げる。
雲を突き抜け、止まる。
魔力探知で見ると、神の配下も追いかけてきているようだった。
生命体ではないため、酸素を必要としないのだろう。
シドーは酸素を必要とするが、長時間ここにいる必要がないため、問題なかった。
そして、魔力で酸素のみを操り、配下が通ってくるであろう道の途中に、酸素だらけの空間を作り出していた。
無臭、無色の酸素だ。魔力探知でも使わないとばれない。
そして配下の一団がその空域に辿り着くと
「――『爆炎域』」
小さな炎の塊を放った。
『そのようなもの! 我らが主に授かったこの力と体があれば――』
――ドズンッッッ!!
一瞬、赤黒い炎が大きく広がり、周囲の空間を焼き尽くした。
その空間内にいた神の配下たちは、跡形もなく消し去っていた。
しかし、その代わりに輝く球が複数個漂っていた。
それらは神の元に集まり、大きな球となった。それに合わせ、輝きも大きく増していた。
神はその球を纏い始めた。
「彷徨える子らよ……最後の力を振り絞り、我が力の一部となれ。――『魂鎧』」
神の一段と体が輝くと、神の体の輪郭が崩れだした。
「――『爆発領域』」
シドーが魔法を発動させると神を中心として、爆発の嵐が吹き荒れる。
そのとき、シドー目掛けて魂から抽出されたエネルギーを織り交ぜた光線が伸びてきた。
防御膜で光線を逸らしつつ、半身で避けた。
しかしそれだけで終わることはなく、すぐに2発目3発目が伸びてきた。
見た感じのその光線の質量はかなりのものだった。
「――魂から抽出されたエネルギー砲です。下手な魔法では太刀打ちできませんよ」
そのとき、神を中心に闇が展開され、シドーも包み込んだ。
(敵意は……殺意もない。攻撃用ではないのか?)
そのとき、神を中心として光が展開された。
漆黒の闇と相反し、純白の光はシドーの目をくらませるのに十分だった。
「ぐっ……! ――『ホルスの瞳』」
シドーは魔法で代わりの視力を生成した。
遠視や魔力探知、透視が自動で発動している状態。しかし、シドーの無限の魔力の前には魔力消費というデメリットはない。
精々、酔いやすくなるだけだ。
「ふふふ……」
神の輪郭が安定し、そこには光を纏った神が立っていた。覗いているのは顔だけだったが、それもすぐに隠れた。
言うなれば、光の全身鎧だった。
シドーはその鎧に、これまで見たことのないほどの濃度の魔力を探知した
「素晴らしいでしょう? 魂から抽出されたエネルギーを魔力に変換した代物ですよ。いくら貴方とは言え、これを前には……ねぇ?」
神の言いたいことは、【魔】の器でもこれほどの密度の魔法は生み出せないでしょう? ……だ。
「光の魔法で防御を固め、闇の魔法は……なんだ?」
「それをお教えするわけにはいかないので……まあ、可哀そうな貴方のために、死に際にお教えしてあげましょう」
「そうか……死に際に、な。『神権発動』 ――『魔力の目覚め』」
そのとき、シドーを中心に、世界が震えた。
「な!? なに……をぉおおおお!!? お゛ぉお゛……」
神の纏う鎧が膨れ上がり、神の顔が苦痛に歪む。
「――『浄火』」
シドーの手の中に小さな純白の炎が生まれた。
手を、苦しむ神に向けると、純白の炎が残影を残しながら神の方へ向かって行った。
そして、神を中心に爆発を引き起こした。
その余波で、シドーも後退した。
「が……あ゛ぁ……その! ……技は……?」
炎の中から現れたのは、傷だらけの神だった。
純白の鎧も消え去っていた。
「『浄火』。対象の魔法を排除する。そして――魂にすら干渉する」
「魂……なぜ、なぜ魂に!? なぜ【魔】の器のお前が魂に――!?」
「魔王の意志なのかね……いや、“死に際”に教えてやるよ。そして――『地獄炎』」
シドーも右手の中に漆黒の炎が生まれた。
左手の中には先ほどの純白の炎も生まれていた。
「光と闇を……今まで使っていなかったとでも言うのですか!?」
光。そして闇。
この2つは神器に内包された究極の力。
「魔王の意志なのか記憶なのか……ともかく、この2つを手に入れてからの使い道は決まっていたさ。『解』と『封』」
「解術師と封印師の力を手に入れたとでも? ならば!! ――『目覚めよ』 ……な!?」
神は封印を解く力を持っていた。それを自身に掛けたが、発動する気配は微塵もなかった。
一瞬の揺らぎも、そこには生まれなかった。
「――『地獄炎』」
シドーの手から神目掛け、赤黒い炎が伸びる。
避けようとした神だったが、消えかけていた純白の炎が燃え盛り、
「ぐっ!」
神の行動を規制する。
そして――
「――ぐああああああああっっっ!!」
神は漆黒の炎に焼かれ、身悶えした。
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