戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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番外編  【最強】の過去

番外編  【最強】の過去10

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 シドーの放った漆黒の炎が神を包み込んだ。
 そして次第に炎は収まったが、神の体にはところどころに黒い痣が生まれていた。それも少しずつ消えているが、痣が広すぎ、消えるスピードも微々たるものだった。

「――『ソウル――』 これは……魔法が……!」

 神は魔法が使えなくなっていた。

(魔法を封じたのに浮かんだまま? なぜ……)

 神は動揺してはいるが、尚も宙に浮いていた。魔法を封じたはずなのに、宙に浮かび続ける神に、シドーは疑問を抱いていた。

「な……ぁ……」

 しかしそのすぐあと、神は真っ直ぐに地面へ向かって落ちて行った。

(なるほど……時間制で体内完結での魔法だったか)

 生物の体内に浸透するのに時間がかかったのだろう、という結論に至った。
 黒い炎は、『封』の闇と炎を組み合わせた魔法だ。『封』によって、相手は魔法を封じられる。
 チート級の魔法のため、持続時間が短いのが欠点だが、相手は発動し直す必要があった。

 シドーは神を追いかけ、飛行魔法でスピードを上げて落ちて行った。
 防御魔法をかけることを忘れない。




「――がはっ」

 神を受け止める木々はすべてシドーが焼き尽くしていたため、神はそのまま地面に激突した。

 そのすぐそばにシドーが落ちてきた。その足元に転がっていた水土風の精霊は、その衝撃で粉砕された。

「回復を……! いつの間に……」

 神はオーブに手を伸ばすが、オーブはまったく輝かなかった。

「魂が尽きたか?」
「そんなところですね。…………………………今回は見逃して――」

 命乞いをしようとする神の右足に炎の槍が刺さり、神の体を内からも外からも焼く。

「が……あ゛あぁぁああ゛ああ」
「これまで長い間、ふざけたことやって来たんだ。信者の魂を蓄え、バラバラにして!」
「う゛ぅうぅ……」
「挙句の果てには俺たちの世界まで……俺たちのクラスまで巻き込んでよぉ! 自分で呼んでおいて……邪魔だから殺す? 実の師匠まで手にかけ? 何がしたいんだ!!」

 シドーが今までの不満をぶちまけるが、神は痛みに苦痛の悲鳴を上げるばかりで、聞いていなさそうだった。
 シドーは意識してはいなかったが、そこには魔王の意志があった。怒りの大半は魔王の意志からだった。

「もういい……長い因縁、ここで断つ!」

 シドーは爪を剣に変え、神の右胸・・に刺した。

「がはっ!」

 神が吐血する。

『シドー、最期にいいか?』
「ああ。……魔王が変わりたいって言うから、変わるぞ」

 シドーが目を瞑ると、神が白くなって伸び、肌も浅黒くなった。

「ま……おう……」
『久しぶりだな、アル。今は神、だったか?』 
「貴方を……越えたかっ」
『――嘘を吐くな。お前がしたかったのは“世界征服”。自分を捨てた者たちへの復讐はもう済んでいるのに、変わらず活動を続ける理由は、いつかお前が話したそれしかない』

 魔王はそう吐き捨てると、右手を上げた。
 それに合わせ、無数の剣や槍などの武器が生成された。

「ま……まて……」
『これで、457年にわたる因縁も終わりだ。――『反逆者』』

 無数の武器は、神に一撃を当てる度に消えて行った。しかし、それらは【無限の魔力】によって生み出され続ける。

「が……ぁ……やめ゛!」

 神は斬られ、殴られ…………。



 攻撃が終わると、神の体は見るも無残に潰れていた。もはや、形を成していなかった。神ではなく、肉塊となっていた。

「――『終焉ノ天柱』」

 天空の雲が一部開け、そこから神に向かって光が落ちてくる。
 その光が神を包み込むと、

 ――ドジュゥゥゥゥゥ

 と音がし、光は中が見えないほど濃くなった。

 光が収まると、そこには大穴が開いていた。穴を覗き込むが、底が見えなかった。

 この魔法は、高熱の塊。
 その高熱の中では、如何なる物質も存在することはできない。シドーが最初に派生させた熱属性。
 光は、熱の温度によって生み出されたものだった。
 天からの太陽のエネルギーを吸収し、ベースを築いた。

 それを見届けると、シドーの体から光の球が飛び出し、穴の上で人の形をとった。
 それと同時にシドーの体は元通りになった。

 この光の球は、魔王の魂ではない。魔王の“意志”だ。念という呼び方が一般的なあれだ。

『神の肉体は消滅した。ありがとう。しかし、よかったのかい?』
「何が?」
『神権を使って、世界の魔力レベルを上げただろう? きっと世界は今頃大混乱しているだろうし、生態系も狂い始めているかもしれない』
「問題ない。このことを想定していたやつが……やつらがいるからな」

 シドーは自信をもって、そう言い切った。
 対する魔王は首をかしげると、

『そうか? まあ、君がそう言うならそうなのだろうな』
「大丈夫だ」
『しかし、神権にはあのような権利もあったんだな。これからどうするつもりだ? 人々でも導くか?』
「いや、どうせ死ねないんだ。それより、器の持ち主だけが行ける場所に行きたい」

 シドーは、死なないことの辛さを知らない。しかし、前世で読んだ漫画で、いいことはないことを知っている。
 
『この世界から外れるつもりか?』
「その通りだ」
『この世界に戻ってこれなくなるぞ?』
「器の本当の場所はあそこだろ? そもそもこの世界に器の所持者が居続けていいのか、疑問だ」
『なるほど……それはそうかもな』

 辺りに、シドーと魔王の笑い声が静かに広がる。
 
 シドーは神と魔王から、器の所持者……器の本来の居場所は、ある空間にあると考えた。

『なるほど……たしかに、器の力はこの世界には過ぎた代物かもな』
「現に、今すぐにでもこことは違う場所に転送させられそうだ」
『そうか。ああ……。私も、この世界から消えるときがきたようだ』

 魔王の体は、末端から少しずつ消えかかっていた。

「ここも修復しておいた方がいいかな」
『あーー……それは【魔】の仕事じゃないからな。そうだな。私の力をここに少しばかり撒こう。それで、再生も早くなるだろう』
「いいのか?」
『構わない。元器の所持者として、予備の力は持っているんだ。神の能力が能力だからな。意志にすら魔力を備蓄することぐらいできてなきゃあな』

 魔王はこれでも、数百年も神から逃げ続けた。

 魔王は、その気になれば神と直接戦闘に入ることができた。
 しかし、元とはいえ、弟子だった神を殺しに行くことはできなかった。

『それじゃ、私はもう行く。世話になったな。……とどめを刺させてくれてありがとうな』
「こっちこそ、いろいろ教えてくれてありがとな」

 魔王は、光を散らしながら天へ昇って行った。
 辺りに、濃密な魔力が満ち溢れる。大穴が気がかりだが、そこまで大きな穴ではなかったため大丈夫だろうと判断した。

 それを見届け、シドーもその場から消え去った。



 シドーが目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。
 しかし、ちゃんと足は着いているし、奥には円卓と7つの椅子が置かれていた。
 
「ここが……」

 シドーは適当な椅子に座った。
 すると、円卓がどこかの景色を映し出した。

「これは……ああ、あの世界か」

 シドーが意識すると、映像は思うままに動いた。
 その先で街を見つけ、それがシドーが拠点にしていた王都だとわかった。
 人の動きから、魔物の動きまで自由自在に見ることができた。
 上空からも、横からも、下からのアングルも自由自在だった。

 それこそ、一軒一軒の中まで見ることができた。さすがに、人の中までは見れなかったが。 
 あくまでシドーが見れる範囲内だ。






 これが、駿の半生……【最強】の秘められた物語か……。

「さあ、器を持つ者よ! 我のために……死んでくれ!!」


 
 

 
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