戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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最終章 ~最強の更に先へ~

第130話  裏切る者、意志ある物

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 満身創痍なヤマルの胸目掛け、鎌鼬かまいたちの狂爪が振り下ろされようとしていた。
 
 ヤマルの体にポツリ、ポツリと雫が落ち、やがて大雨が降り出した。

『では、さらばだ。異教徒よ』

 鎌鼬かまいたち――シューゲルは爪を振り下ろす。

 ――ガキィィイン

『ほう……なぜ貴方がここにいるのですか? 持ち場はすでに終わらせたとみていいですかね? ――餓者髑髏がしゃどくろ

 シューゲルの爪を防いだのは、餓者髑髏がしゃどくろの剣だった。

『その様子だと、余裕の勝利とまではいかなかったようだな……』

 餓者髑髏がしゃどくろの体は傷だらけだった。骨も何本か折れている。

『それより、ここに来た理由、そして私に歯向かう理由をお聞かせ願いたいのだが……』
『聖物の意志だ。お前を解放してやる!』
『お前…………痣が――!!』

 餓者髑髏がしゃどくろが叫ぶと、それに合わせて聖物が強く輝きだした。
 そして、餓者髑髏がしゃどくろの体の赤い痣は完全に消え去った。

『何やら、嫌な予感がするな……聖物の意志と言ったな? どういう意味だ?』
『言葉の通りだ。その予感も当たっている。そして……鎌鼬かまいたちから出ていけ!』
『お断りだ。我が主の望みが叶うそのときまで、私は死ねない・・・・!』

 シューゲルは餓者髑髏《がしゃどくろ》に爪を振り下ろす。
 しかしそれよりも速く、餓者髑髏がしゃどくろの剣が一閃された。
 しかし、シューゲルの攻撃も餓者髑髏がしゃどくろに当たる。

『硬いな……』

 鎌鼬かまいたちの攻撃は大して効いていなかった。
 一方、餓者髑髏がしゃどくろの攻撃は、シューゲルも胸に浅い傷を付けていた。

『ところで、聖物の意志と言ったな。なんだ? 聖物に意思でもあるのか?』
『そうだ……というべきかは怪しいがな』
『……ふむ。我が主と器が接触なさったか』
『…………なら、急いで終わらせないとな!!』

 餓者髑髏がしゃどくろの持つ聖物が再び輝きだした。
 
『なら、それに合わせてやろう! お前が盟主様の横にいるのが気に入らなかった! これで一石二鳥だなぁ!!』

 シューゲルは狂人じみた顔で餓者髑髏がしゃどくろに襲い掛かった。

『――『鎌鼬』!』

 シューゲル――鎌鼬かまいたちは自身の名を冠した、鎌鼬かまいたちの持つ中でも最高火力の魔法を放った。
 しかし、ギリギリで避けられた。

 それと同時に、聖物の輝きが徐々に消え去り、元の形に戻った。

『それはなんだ? 意味があるのか?』
『よく見ろ』
『んん? …………!』

 シューゲルは餓者髑髏がしゃどくろの持つ聖物を注視した。そして、気づいた。

 ――聖物は、刀身が消えていた。代わりに、水が刀身の形を取っていた。

『そんなもので、私が斬れるとで……も? …………は?』

 宙に鮮血が舞う。
 ドサッと何かが地面に落ちる。

『が……アァアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 その、落ちたナニカはシューゲルの――左腕だった。

『ぐ……ぐぁ……うぅぅ……!』
『その剣で斬れるのか、だったな。どうだ? いい切れ味だろう?』
『な……なんだ……力が……!』

 シューゲルの体に刻まれた痣の色が若干薄くなる。
 しかし、元がかなり濃い色だったため、未だ客観的に濃いと言える色のままだ。

『それが聖物の……か。……?』

 シューゲルの声が――飛んだ。

『なぜなぜなぜ……なぜ! なぜ神の! 盟主様の力を断つことができる!』
『聖物の意志。それはすなわち――世界の均衡維持。均衡が崩れそうなとき、聖物は持ち主を選び、均衡を戻そうとする……』
『その「均衡を崩すもの」がこの力だと!?』 
『いいや、違う』

 餓者髑髏がしゃどくろは一度言葉を区切る。
 これ以上話してもいいものか、と少しばかり悩んだが、離すことに決めた餓者髑髏がしゃどくろは話を続けた。

『お前の主――魔物連合盟主だ!』
『~~~!! ふざ……けるな! 御方は世界を平等にしようとなさっている! それが世界の害悪だと!? ふざけるな! お前が……お前こそ世の害悪だ!!』

 シューゲルは叫ぶと、餓者髑髏がしゃどくろに向かって行った。

『動きが単調になったぞ』

 振り下ろされた爪を剣で弾き、シューゲルの腹を蹴る。

『ガうッ』

 餓者髑髏がしゃどくろは回し蹴りでシューゲルを吹き飛ばす。

『ぐ……うぅぅ』
『そんなもんか? お前の主への・・・思いとやらは・・・・・・
『なにをぉぉおおおおおおおお!!』

 餓者髑髏がしゃどくろの言葉はシューゲルの琴線に触れたようだ。餓者髑髏がしゃどくろはそれを狙ったのだが。

 シューゲルは半狂乱になりながら、爪と風の魔法で連続攻撃を仕掛ける。
 爪を振り下ろし、弾かれ、その隙に風の球を……――

『なんだ、冷静じゃないか……』
『怒りで我を失う寸前だけどな! お前を殺して……嬲り殺して! この怒りを晴らすさ!』
『あっそ。勝手に夢見てろ』

 激昂するシューゲル、冷静な餓者髑髏がしゃどくろ
 しかし、実力差は明確にあった。

 

 何度目かの攻防の末、

『がっ……ぜはっ』

 シューゲルが吐血する。
 口元を拭うが、すでに汗で毛がびっしょりだった。
 しかし、餓者髑髏がしゃどくろは汗一滴も見られない。当たり前だ。汗腺がないのだから。

『もう限界か?』
『……ぐぅ……何をした!?』

 いつもであれば、まだ体力の半分ほどもなくなってはいないはずだった。
 しかしシューゲルにはその原因に心当たりがあった。

『それも聖物の力か』
『頭はまだ冴えているようだな。だが、手遅れだ』

 餓者髑髏がしゃどくろは倒れ伏しているシューゲルに剣を向けた。

『――『竜巻槍ピアッシントルネード』』

 シューゲルの指先に風の塊が発生した。
 それが伸び、餓者髑髏がしゃどくろの顔を削ろうと伸び――るが、体勢を崩し、結果的に餓者髑髏がしゃどくろの肩甲骨を削った。

『疲労もかなりのものだな。まともに立つこともできないようだな』
『我が主のため、最後まで抗い続ける! 私の全生命を――』
『――それは困る。鎌鼬かまいたちを返してもらう』

 己の全生命力、全魔力をエネルギーに変換しようとしていたシューゲルだたが、それよりも速く餓者髑髏がしゃどくろの攻撃が刺さった。

『――聖物解放』

 そのとき、シューゲルの意識は消し飛んだ。
 
 

 



 近衛騎士が慌ただしい様子で走ってきた。

「報告します!」

 王都前に現れた魔物連合が勝手に死に、手持ち無沙汰となった騎士団長の元に、一人の近衛騎士が現れた。

「どうした?」
「各地の戦況報告です!」
「どうなった?」
「はい、【六道】炎龍を【水晶使い】様が、【六道】腐食粘液を【魔導士】様が討ち取りました。そして、【六道】狼男とペテル・ヴァシクス様が友好関係を結ぶことに成功」

 そこで、近衛騎士の言葉が区切られる。続きはおそらく…………。
 それを予感したのか、雨が降り始めた。

「ミュイ・ライトリクス様は、【六道】三頭狐ケルベロスと相討ちとなり、死亡が確認されました。それと、にわかに信じ難いのですが【双剣士】様が【六道】餓者髑髏がしゃどくろに敗れました」
「そんなばかな!」

 辺りに騎士団長の声が響く。
 長年、妹のように接してきたミュイ・ライトリクスと、【不死】の加護を持つはずのターバが負けた。
 この事実に、騎士団長は動揺を隠せないでいた。

「これらの戦いにより、同行した近衛騎士、冒険者が死亡。……軽く100人は超えるものと……」
「そうか……未だ決着が付いていないのは【前鬼後鬼】か」
「――お知らせです! 【水晶使い】様が……! 【水晶使い】様が魔物連合盟主と接触したとの情報が!」
「なんだと! くそ、考えることが次から次へと」

 頭を抱える騎士団長のもとに、更に報せが舞い込んだ。

「――【前鬼】様、【後鬼】様、敵の一撃を受け、壊滅状態です!」
「――【前鬼】様、【後鬼】様が【六道】鎌鼬かまいたちを破りました!」
「――お邪魔するよ」

 同時に3つの報せが舞い込んだ。

「んあ?」
「いえ、ですから、つい先ほど、【前鬼】様、【後鬼】様と戦っていた【六道】鎌鼬かまいたちが倒れた、と……」
「そういうことだ、聖物の持ち主よ、共に来てもらうぞ」
「な――! どこから!」

 侵入者に気づいた近衛騎士が、外套に身を包んだ侵入者に剣を向けるが、

「な……ぁ……?」

 一瞬で、風穴を開けられ、辺りに血を撒き散らしながら、倒れた。

『来ないというのなら、この場にいる者全員を殺してもいい。これだけの人数であれば、数秒もあれば片が付く』

 返り血を外套に浴びた侵入者は、騎士団長に目を向けた。

「く……」

 騎士団長は選択を迫られる。
 服従か、仲間の死か――


 
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