戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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最終章 ~最強の更に先へ~

第131話  明かされる正体

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『さあ、選べ。我と共に来るか、ここで仲間を殺されるか……ああ、お前が抗っても無駄だぞ』
「……お前に付いて行くと、何がある?」

 騎士団長の問いに、外套を纏った者は答える。

『……この争いの終結。魔物連合の壊滅。……どうだ? 悪くあるまい?』
「……何より、お前はなんだ? 連合側の魔物……それとも、連合を信奉する者か? どちらにしろ、ただでは済まさんぞ?」
『ふむ……』

 侵入者は何かを決し、ぱさり、とフードを外した。
 その下にあったのは、角の生えた髑髏どくろ。騎士団長はその姿に覚えがあった。
 しかし反応し、声を上げたのは近くに控えていた近衛騎士だった。

「――餓者髑髏がしゃどくろか! 連合側の幹部――最高戦力がなぜここに!?」
『それより、答えろ。時間がない。もたもたしていると――【水晶使い】が死ぬかもしれん』

 餓者髑髏がしゃどくろはそんな者――騎士団長以外の人に興味も、意識も向けなかった。

「なんだと? お前たちの盟主と関係が? いや、それより、なぜ条件が連合に不利な内容なんだ?」
『それが我とお前の持つ、聖物の意志だ。お前のは解放されていないようだけどな。今解放してやる』

 餓者髑髏《がしゃどくろ》は剣で騎士団長の持つ剣を軽く叩く。
 すると、騎士団長の剣が光り輝く。

「こ、これは……なんだ? 誰だ?」
『それが聖物の意志だ』
「…………」

 騎士団長は、聖物の意志に耳を傾けていた。
 聖物は騎士団長に語り掛けていた。それも、ずっと前から。それに騎士団長が気付かなかっただけで。

「……どこに行けばいい?」
『雨雲とともに移動する。目的地は、盟主と【水晶使い】の戦場だ。すでに戦いは始まっている。急ぐぞ』

 次の瞬間、2人の姿は雨雲と共に消え去った。








 オレの前には信じられない光景が広がっていた。

「ミル……なぜお前が生きて、しかも連合の盟主に!? ……いや、本物か?」
「本物のミル・デイルさ。これで信じてもらえるかな?」

 盟主は纏う服を変化させた。
 ……ああ、本物のミルだ……。そう、オレは確信した。

 冒険者学校時代、ミルと共に買い物に行ったときにオレが買った服だった。
 白いパーカーに、蔓が描かれたジーパン。

「ああ、信じる……が、どういう経緯が……」
「ふむ……まだ器の力が目覚めきっていないのか。まあ、いずれ知ることだし、冥土の土産になるか」

 頭痛が止まない。
 だが、目の前の存在がミルであることは間違いない。――が、ミルでないこともまた間違いない。
 なんとなく、ではあるが、それらは確信を持って言える。

「我はミル・デイルであり、ミル・デイルでない。それ以上は……死ぬまでにわかるはずだ」

 そう言うと盟主は服を元通りにし、襲い掛かってきた。
 せめてもう少し教えてくれてもよかったのに……。しょうがない。オレはあれ・・を、

「ミルとはみなさない!!」

 盟主の剣をオリハルコンの刀で受け止め、弾く。
 盟主の剣もまた、オリハルコン製だった。やはり連合もミスリル鉱山を持っていたのか。
 そして、ミスリルをオリハルコンに進化させる技術もある、と。

「それで正解っちゃあ正解だな。うむ、痛めつけてくれる!」

 頭痛は、未だ治まる気配はない。集中力が乱される……。
 ……横薙ぎか。

 盟主の横薙ぎを躱し、『晶弾』を打ち込む。
 ――が、『晶弾』は盟主に当たる直前で掻き消された。

 盟主は特に変わった動きは見せなかった。つまり、ノーモーション。種も仕掛けも不明。
 加護の力とみるべきか、それとも未知の技術・魔法か……。
 まずは性能を理解しないとな。

 視認できなかった場合、防げるのか。物理ダメージは通るのか。範囲は。効果時間は。複数の魔法を同時に放ったらどうなるのか。

「――『晶弾・龍』」

 無数の晶弾を生成し、盟主に向かって放つ。中には物理ダメージの『重撃』を加えている。
 
「くっ……」

 半分が掻き消されたが、もう半分は命中した。
 ……掻き消すことに集中力を持っていかれていたように見えた。だからこそ、攻撃を避け切れなかった。と見てよさそうだ。
 そして、『重撃』までも消えている。

 ここまで来れば、心当たりが一つ、ある。まず間違いない。

「……加護、【緻密な魔力操作】で魔法に干渉、排除しているのか……」
「ふ……仮にそうだとして・・・・・・・・、防ぐ術は……」
「――今、攻撃を受けただろ?」

 何言ってるんだろうな、こいつは。たった今、オレの攻撃を受けたばっかりなのに。

 そう、魔法干渉には欠点がある。
 駿が使っているから、欠点がないのだが、それはシンプルに、駿が【魔】の支配者……器の所持者だからだ。
 言わば、自分の能力、自分の手足。
 
 それに対し、加護は所詮借り物。
 それが本来持つ力を100パーセント使うことはできない。それに、加護は過ぎた力だ。
 加護が宿った人間がどれだけ優秀で、適正があっても、100パーセントの力を引き出すことはできない。
 ターバの【不死】がいい例だ。ターバは精々、本来の加護の95パーセントほど引き出している。かなり優秀な例だ。
 
 また、加護が宿っても、それを使いこなせるかはまた別の話になってくる。
 加護は本人が使わないとわからないため、前例がない。だが、あり得ない話ではない。
 そう、例えば…………

 ――魔法関連の加護が、魔力がほとんどない者に宿る……とか。

 そう、ミルがいい例だ。
 現に今、【緻密な魔力操作】を持ったミルが目の前にいる。昔は……言っては悪いが、弱い前衛型だった。
 加護と体が絶望的なまでに合っていなかった。

 だが、なんらかのアクシデントが起こり、魔力量が爆増した。
 だが、この明らかな性格の変化は? 最も納得がいく説明は、乗っ取り。

 先ほど盟主の言った「ミルであってミルでない」というセリフをどう捉えるか……。
 昔のミルではない。もしくは、体はミルだが中身は別物。
 
 冒険者学校時代にオレと過ごした記憶がある以上、中身が別物という説明は少し厳しい。
 が、記憶が脳に残っているのであれば、脳も体の一部とみなし、記憶を赤の他人が持っていてもおかしくない。
 ……どうなっているのか。

「――『火炎魔人イフリート』」

 盟主は体に火を纏った。それらは盟主の体を完全に覆うと、大柄の鬼の形を取った。
 鬼、と言っても、ヤマルのような鬼ではない。
 前世にいた……伝承の中の、毛皮パンツを履き、金棒を持っている狂暴な姿。神とも悪魔とも取れるその姿。

 イフリートって、火の精霊だったはずだけどな。
 しかも、あの鬼の姿は、こちらの世界に伝わっていないはずだ。こちらに鬼族がいるんだからな。
 つまり、オレと同じ転生者が盟主に関わっている……いや、直接・間接的に接点があったということ。
 子供に読み聞かせとして聞かせていた物語が語り継がれ、それを耳にしたのか。
 腕利きの転生者と戦った、もしくはその戦いを目にした。

 陰に隠れた転生者がいる可能性も考慮せねばならない。
 ……いや、ミルが転生者だった、盟主が転生者の可能性もある。
 その場合、属性特化で他人を操る、乗っ取る魔法を修めた生徒の可能性か。

 そもそも、転生前に見た属性特化の分岐ルートは人それぞれ異なっていた。それが、駿と出した結論だ。

「どうしたどうした? 【知】よ。脂汗をかいているぞ? 脳に限界が来ているのではないか?」
「ふむ……」

 なるほど、言われてみれば、脳が……頭が重い。だがそれと同時に、頭痛は治まりつつある。
 ああ……頭が冴える……。

「いや、むしろ……」
「調子がいい? ほう……なら、覚醒が強いのか?」

 頭痛の正体は、おそらくそれ――神器の覚醒が近い……いやむしろ、覚醒の準備期間か?
 おそらく、あと一つ、能力が目覚めれば、オレは完全に【知】の能力を得ることができるはずだ。
 
「多分な……それが目的か?」

 頭が冴える。おかげで、思考が冴えて冴えて……。
 ――今までの謎の言動が繋がる。

「そしてお前は……――神だな」

 


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