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最終章 ~最強の更に先へ~
第139話 遠方より②
しおりを挟む炎が人型を取った瞬間、膨大な魔力が溢れた。
神の纏う魔力よりも多い。
しかし、その体そのものが魔力だ。
魔力を使い切ったとき、体は消滅するだろうな。
これ以上、炎を吸収できるのかどうかが大きな問題点だ。
まだ炎を吸収することができるのであれば、持続的な戦闘が可能となる。
しかし、これ以上炎を吸収できないのなら、大技は安易には使えなくなる。魔法の発動すら躊躇うかもしれない。
あちら側から駿が操作しているのか、これが駿なのか遠隔で操作されているのかは、今は大した問題ではない。
どちらにしろ、これが駿本体じゃないことは確実だ。
『ライン、行くぞ』
オレのことはラインと呼ぶようだ。
まあ、オレまで……いや、
「あいつはオレが転生者って知ってるぞ。だから、いつも通り」
『そうか。なら、蓮。行こうか!』
「おう!」
炎人形……駿は、手の中に剣……の形をした炎の塊を生成した。
オレはオリハルコンを棍の形に変えた。
『少し待て……これでいい』
そう言うと、駿の手から魔力が漂い、オレの装備を覆った。
『これで、神の魔力操作を遮断できる』
「そうか……ありがとう!」
オレたちは息を合わせ、神を挟み込むように回り込んだ。
「1人増えても、何も変わりませんよ。所詮、貴方は器の力を行使できないガラクタ」
『誰がガラクタだって?』
駿が神に手をかざすと、炎の弾がガトリング銃のように発射された。
「――『排除』……効かない!?」
『これぐらい、造作もない』
たしかに、駿の持つエネルギーは微塵も減っていない。減ったことを感知できない。
「ぐ……が……ああああああああああっっ!!」
炎の弾は神に当たると爆発した。それを幾度となく繰り返している。
貫通させないのか……いや、爆発は確かに良い判断だ。
内部に振動が届く。それは、目に見えないダメージ……疲労として現れる。
ゲームでいう、スタミナを減らす効果がある……ゲームだと使いどころに困る魔法だ。少なくとも、オレは困る。
そして、オレが反対側から『晶弾・龍』を放つ。
神は駿を正面から見据えていたため、正面から無数の爆発を受け、背中にオレの水晶を受ける。
オレの『晶弾・龍』は特に何も服効果はないが、一つ一つが重い。
背中に当たれば、背骨にダメージが通りやすい。
「何を……攻撃して……いるのですか?」
そのとき、神の姿がぼやけ、そこには土の人形が立っていた。
土の人形が姿を見せた瞬間、土の人形は崩れた。
神はオレから見て左側に立っていた。
所撃は食らっていたのか。神の体は傷だらけだった。それに、かなり疲れているようだ。
どうやって移動したのか、だが……
「……【瞬間移動】か」
『なるほど、たしかにあいつの持つエネルギーが大きく減った』
本来、自分の加護でない加護を行使すると、体力が大きく減るらしい。
副騎士団長の加護だった【瞬間移動】は、自分の魔力でポイントを付けた地点に移動できる。ここら一帯はオリハルコンの地面。
つまり、オリハルコンの上を神は移動し放題。
「くぅ……っ!」
そのとき、神の胸から白い珠が飛び出してきて、弾け飛んだ。
『ライン、すまない。あとは頼んだ……』
弾け飛ぶ直前、微かにそんな声が聞こえた。
なるほどな……。
「副騎士団長の魂を――無理やり捕え、力を引き出していたのか!?」
体力が著しく減少するとはいえ、他人の加護を行使しているんだ。
しかし、副騎士団長は死んだ。
つまり、副騎士団長の魂を捕らえ、そこに刻まれた【瞬間移動】の力を行使していた。コスパが悪い。
「ええ……」
『チャンスだ』
駿の姿が一瞬ぶれた。
次の瞬間、
「ぐがっ!」
神の顔に駿の膝蹴りが入った。
熱を解放しているのか、神の顔が焼けた。
「ぐぅう……離れろぉ!」
神が駿の足を掴み、放り投げた。
顔面グロいな……。
皮が残ってないぞ。
「く……っ! 【魂喰】」
神が左右に手を伸ばすと、周辺の木々が枯れた。
そこから小さな白い珠が無数に集まり、大きな白い珠となった。
それを神は……食べた。
それだけで神の傷は全快した。それに、何やら白いオーラが神に纏わりついた。
「――『煉獄召喚』」
『――『極寒の夜』』
神が辺りに炎を生成すると、それを駿が消した。
駿の放った『極寒の夜』は冷気系魔法……ではなく、炎系魔法を打ち消す魔法だ。
駿のオリジナルだが、この時代にも伝わっている。……誰も使えていないが。
炎の体で氷系……というか、他の属性魔法は使わない方がいい気がする。というか、使えるのか?
「ちいっ!」
『――『煉獄召喚』』
駿が先ほど神が使用した魔法を使用する。
しかし、威力、範囲ともに桁違いだ。
「――『極寒の夜』」
神が駿と同じ魔法を放つが、駿の炎の勢いはまったく弱まらない。
駿は神の完全なる上位互換。
「――『氷鎖牢獄』」
神がオレに氷の鎖を放つが、
「――『晶殻』」
オレは水晶の殻で自分を覆う。
氷の鎖が『晶殻』を締め付けるが……破られない。
そして、オレは水晶に包まれていても攻撃ができる。
『蓮!』
「ああ! ――『晶棘』」
辺り一帯に水晶の棘が生える。
オリハルコンが邪魔をして、その下に留まっている。が、それで十分!
オリハルコンの地面が揺れる。
そして、超局地的な大地震が起こる。
駿は軽く『飛行』の魔法で浮かんでいる。
地面に足が着くか着かないかのギリギリのラインで。
神は突然の衝撃に耐えきれず、転倒した。
すかさず駿が、炎を纏った拳を突き出した。
「――『水龍剣』!」
神は動けないながらも『水龍剣』を無動作で繰り出した。
駿の拳に纏った炎は神の放った水を蒸発させるが、同時に駿の拳の炎は消えた。
『――『赫炎灼熱煉』』
駿が放ったのは駿の必殺技だ。
炎系最強最高の威力を誇る、駿のオリジナル魔法。これを超える魔法は存在しないだろうな。
単体超火力。
「ぐっ!!」
神は体勢を崩しているため、避けきれない。
「…………――『転移』」
神の姿が消えた。
まさか、まだ転移ができるのか?
『はぁっ!』
「ぐっ!!」
駿のすぐ右側に神が現れた。
転移じゃなかったのか?
……お、氷の鎖が解けた。
オレは水晶の殻を解除した。
駿と神の戦闘の様子は、小さく開けた穴から窺っていた。
神の右腕が吹き飛び、一瞬で灰となった。断面も炎で焼かれている。
神を覆っていた謎のオーラも消え去った。
「回復……不可能……だと?」
『どうだ、これが圧倒的な力の差だ』
「調子に乗らないことです……ねぇっ!」
神が腕――右側は肩――を左右にかざす……が、何も起こらない。
「なぜ……、なぜ応えない?」
……聖物を自分の物にしようとしたようだ。
しかし、聖物は地面に刺さったままピクリとも動かない。
「な……!? うあぁああああああああ!!」
神の体を水が締め上げ、雷が焼く。
聖物に反抗されたか。ざまぁ。
しかし、聖物が反抗……やっぱり意志があるんだな。ってことは、また次の持ち主が現れるかもな。
…………今、一瞬ターバの顔が脳裏にちらついた。気のせいか?
しかし、駿の持つエネルギーがかなり減少したな。【緻密な魔力操作】で必要魔力量は最低まで減少させているんだろうが。
それでも、元の魔力消費量が多すぎる。オレの総魔力量いくつ分だろうな。
放てて、あと2回といったところか。
2回放てば、駿の持つエネルギーは切れるだろうな。これ以上吸収はできそうにないし。
『――『灼熱槍』』
「――『晶装・槍』」
神に全方位から炎と水晶の槍が降り注ぐ。
片腕がない状態じゃ、しんどいだろうな。つまり、魔法を詠唱するしかなくなる。
「――『重力場』」
神の狭い範囲だが、重力が増し、すべての槍が落ちる。
実体のある跳び攻撃ほぼ無効化か。面倒な。
…………あ。
「駿……すまないっ」
突如、体を異様な倦怠感が襲った。
間違いない、叡智のインストール終了だ。
オレは倒れ込む。
くそ、魔力が練れない。指先1本も動かせない。
戦場で自分の身を守れないなんて、ざまぁないな。
駿1人じゃ、分が悪いか。
駿の火力は凄まじいが、エネルギーが限られているし、存在すること自体でエネルギーを消費しているようだ。
『こんなときにか。……仕方ない、早く復活してくれ。俺のエネルギーが切れる前にな』
「あ……ぁ……」
視界の端が黒く染まってる。熱中症になったときに経験した……なんだっけ、あれ。
目が回るみたいな……眩暈? ああ……おい、叡智インストールされてないじゃねぇか。
そして、オレは神器の覚醒の準備に(強制的に)入った。
「――やれやれ、大分苦戦しているようだな」
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