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最終章 ~最強の更に先へ~
第140話 遠方より③
しおりを挟むオレが倒れる――叡智のインストール完成の直前、人知れず聖物が姿を消していた。
倒れた今だからわかる。
それと同時に声がした。
「ラインは俺が守る。お前は安心して奴を攻撃してくれ」
その声は、オレがこの世界に来て一番よく聞いた声。
二度の人生を含めて、ここまで一緒にいて楽しい友はいなかったと断言できる、神友《しんゆう》。
そして、オレの最大のライバル。
チート野郎。
……ターバ……。
『感謝する』
「さて、ライン。大分苦戦しているようだな」
「あ……あ……」
くそっ! 声がうまく出ない。
あらゆる身体活動が停止しているのか。
「喋らなくていい。ただ、俺でもいつまで保つかわかんないから、さっさと戦線復帰してくれ」
ターバ……文字通り肉の壁となってくれてありがとう。
駿と神の戦いの余波がこちらに響く心配はない。ターバはダメージを受けても、加護の効果ですぐに回復する。
チート野郎め。
死ぬのは寿命が来たとき。
「な……! その手に持っているのは……」
神が目を見開いてターバの手を見ている。そこには……
――水と雷の聖物が握られていた。
「ああ、聖物だ。お前が騎士団長を殺したんだろう? まさか、【魔導士】が盟主だったとはね……」
ターバは聖物に目を向けている。
聖物がターバに状況を伝えているのか。
それにしても、ターバの纏う雰囲気がガラリと変わっていた。
聖物が解放されているのか。両方とも。
聖物の纏う雰囲気も、餓者髑髏や騎士団長が盟主を圧倒していたときに酷似している。
しかも、ターバは2つ所持している。
しかし、この雰囲気――オーラは……足し算にプラスαといったところか?
「これが力を共有してくれるのか……。なるほどなるほど。おかげで力が漲るぞ?」
「かぁ! ――『火炎多弾』」
神が駿との攻防の合間に、ターバに向かって無数の炎の塊を放った。
『余所見をするな!』
しかし、駿は隙を見せた神に上段蹴りを放つ。
「余所見をする暇があるはずがないでしょう……?」
しかし、神はノールックですれすれで駿の蹴りを屈んでかわす。
そして、右腕の断面から鋭利な骨を伸ばした。その切っ先は駿の股間を狙っている。炎の体のため、股間も何もないのだが。
駿は上げた足を思いっきり振り下ろし、神の骨を叩き折った。
……炎の体のため、関節もないのか。
上半身が輪郭を失い、一瞬だけ炎となった――否、戻った。
そして、足を振り下ろしたときの体勢として相応しい形となった。ただ、エネルギーが若干、減ったようだ。
ずっと観察しているおかげで、少しのエネルギーの増減までもがわかるようになった。
今の駿は炎の体を媒体に、この世界に干渉している状態だ。
駿は自身の能力の強大さ故に、この世界から外れた。それはキャンセル不可能らしい。
……オレもこの戦いが終わったら、この世界から外れようかな。ただでさえ、今、歴史に残る大戦争の渦中にいるんだ。
このまま生き続ければ、面倒事に巻き込まれるだろうな。脳筋じゃないけど、力で解決できない厄介事は嫌だな。
あ、でも【知】があれば、力で解決できないことも解決できるんじゃ? だよな。
力と頭があれば、何でも解決できてしまいそうだな。面倒事が代名詞の政治でも。
話が脱線したな。
駿は今、あるペンダントを媒介に力を行使している状態だ。
今までの敵が放った炎系魔法を吸収し、容量がいっぱいになったところで、炎の体を作り出した。それが、今だ。
ペンダントを破壊すればいいってことが言いたいわけではない。
そのペンダントはオレが肌身離さず持っていた。
だからか、炎体の駿の持つエネルギーを感じやすい。
もちろん、駿の炎の体は、ペンダントを破壊しても消えないだろう。……いや、まさか?
ありえないという確証はないな。
仮にペンダントを破壊したら炎の体は消えるとしても、その体は炎。
体内で……炎内でペンダントの移動は容易だろう。
それに、万が一に備えてペンダントを防護しているかもしれない。オレならそうする。
炎の体……。
水……は当たる前に熱で蒸発させれば……いや、避ければ早い。
氷、冷気……有効そうだな。駿の放つ熱を上回る冷気……いや、冷気が強ければ強いほど、それに対抗して熱を上げるだろうから、それはそれでいいのか。
オレと同じ考えに至ったのか、神が
「――『凍結領域』」
周囲に冷気を撒き散らす。
その冷気はターバを包む直前で消え去った。
『…………――『灼熱の昼』』
……今考えたな、技名。
さっき神の放った熱を打ち消す魔法――『極寒の夜』と相反する魔法として『灼熱の昼』か。
極寒の対義語として灼熱。猛暑のがいいと思うんだが……なんでもいいか。
言うまでもなく、夜の対義語として昼。
「相変わらず、ぶっ飛んでますね」
「俺、場違いな気がする……」
ターバはそう呟く。
場違いって思うほどのレベルじゃないと思うがな。
2つの解放された聖物を所持しているターバは、現段階で世界第3位の実力者だろう。
1位と2位が駿の神。
オレは現段階だと4位ぐらいかなぁ。
「ぐふっ……」
駿の放った炎が爆発し、神を包み込む。
右腕の出血はいつの間にか止まっている。それに、じわじわと……ゆっくりではあるが、傷も癒えている。
それに合わせ、周辺の植物が枯れていく。
それに気が付いた駿が炎で森の一部を焼き払うが、炎の中から白い光が輝き、神に吸収されて神の傷を癒す。
効果範囲がどれだけなのかはわからないが、魔力と違い、限界が目に見え、限界が早い。
「はぁはぁ……。くっ」
神は膝をつく。
『古より伝わりし風の王よ。我が命に応え、我が力を依り代に顕現せよ』
辺りに一瞬、豪風が吹き荒れる。
ターバは地面に双剣を突き刺し、なんとか耐えていた。……いや、違う。
ターバの両手は双剣を固く握っている。が、肘から上がなくなっていた。
オレは謎の力が働き、そのままだ。
神器である本が開いている。それが謎の壁を作り出して風を防いでくれていたようだ。
受験のあと、オレに干渉してきたあの謎の存在が関係しているのか?
駿はというと……。
上空に吹き飛ばされていた。
至近距離で受けたため、少なくないダメージが入っている。ダメージでもエネルギーは削られるのか。HPとMPが一緒ってことか。
駿は炎で翼を作り、浮かんでいた。
理論的にはあり得ないが、魔法のあるこの世界だ。何が起きても不思議ではない。
焼け焦げた森の奥から、両肘から先を失ったターバが出てきた。
血は止まっている。
ターバは剣を握った手と肘の断面を合わせる。
すると細胞同士が結合し、元通りに治った。
神はと言うと、完全に膝をついてダウンしている。……かのように思えた。
『封じられし過去の遺物よ。己が主の命に従い、その力を解き放て。封印されし我が力を、我に返せ』
神の足元に光の円が展開された。
そこから更に強い輝きを放つ円柱が伸びてきた。
あれは……。伝説の代物だ。
三賢者の最高傑作と言われる、パンドラの箱。
対象の力を封印する魔法具だったはずだ。
しかし三賢者没後、行方不明となっていた。
しかし、力……身体能力を封じるという、言葉で聞いた限りでは大した代物ではないと判断され、捜査は早々に打ち切られた。
三賢者が最高傑作と謳っていたが、それは素材の希少性からだろうと判断されたのだ。
それが、今、神の手元にある。
『なぜそれをお前が持っている……? 本物は俺が持っているはずだ!』
「ふふふ……。作り方は私の手元にあるのですよ」
神は不敵な笑みを浮かべた。そして、
『――閉ざされし力を解放せよ。――『開封』』
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