戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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最終章 ~最強の更に先へ~

第141話  解放

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『――『開封リリース』』

 神がそう唱えると、パンドラの箱が一際強い光を放ち、周囲を白で覆い尽くした。
 そして神のもとへ、光が収縮する。

「ああ……力が漲る……!」

 神の傷は回復していた。
 右腕は奇怪な形をした腕が、代わりに生えていた。
 まるで、神というより魔人だな。

 右腕が禍々しい色と形を持っている。
 こいつ、神の中でも邪神タイプだろ、絶対。

『……それ、お前の力じゃないな』

 駿も気づいたか。
 今までの神は、本来の神の力に、魂の力を引き出し、数個の魂の力を上乗せした強さだった。
 神本来の強さを1.5倍ぐらいか?
 最初、盟主は神の半分の強さだった。【魔導士】と半分ずつ。
 そこに魂の力を足し、【魔導士】と融合し……。

 ほんと、一度に見せろよ。

 駿はそんな神をも軽くあやしていた。
 オレは……ギリギリだな。駿もなかなかチートだ。

 そして、駿の放った、お前の力じゃないという言葉。

 神が魂の力を上乗せする際に、なんとなく異質さを感じる。
 油と水みたいな、な。
 神と【魔導士】が融合したときは、水と水、もしくは油と油を混ぜたような感じがした。

 今、神はいろんな力が混ざりあっている。

 神本来を1とすると、今の神は3……いや、4まで行くか? さっきまでは1.5だ。

『込められて……封じられていたのは、お前の力じゃないな?』
「ふふ……。ええ、正解です。封じられていたのは私の眷属たちです」
『眷属?』
「ええ、ええ」

 神は笑いが堪えられないようだ。
 口の端がぴくぴくしている。うっぜぇ。

「私自身の魂を練り込み、もう1人の私を作る秘術です」
『なるほど……。お前が俺と魔王に殺される前に、今こうなることを想定していた、というのか』
「クククッ……。ええ、そうです。おかげで邪魔な魔王を排除し、貴方も100パーセントの力を出せなくすることができました」

 たしかにそうだ。
 駿は魔王を殺し、【魔】の器を手にした。
 そして魔王の意志のもと、神と対峙し、神を殺した。見事、神殺しを2回行った偉業の達成だ。
 魔王は死に、駿は神を倒したことで、この世界から外れた存在となった。

 そして神は力の大半を失い、長い間彷徨ったが、今、こうして元の力以上の力を手にしている。
 駿は遠隔操作でHPMPが同じメーターとなっており、本来の力には遠く及ばない。
 
 そこに幸運なことに、聖物が2つある。
 それらは1人の人物の手の中にある。が、それでも駿と今の神には及ばない。

『これは……まずいな』
「ライン……」

 オレ? まだ体の自由は戻らない。大分馴染んだようだが。
 何が原因でこんなに時間が掛かっているのか。

「いい気味ですねぇ、ラインくん?」

 ん?
 神は何か知っているのか?

『お前……蓮に何をした?』
「そればかりは答えませんよ。何でも答えるはずがないでしょう? 馬鹿ですか? 追い詰められているからって……ふふっ。ああ失礼」

 こいつ……何かしやがったな?
 だが……いつ、どこで? まさか、転生時か?

「さて、これで終わりにしましょう」

 神は腰を深く落とし、駿に向かって突進した。
 地面は陥没し、神の姿が霞む。なんとか目で追えている。

 それに合わせ、駿のエネルギーが減った。
 駿の体を構成する炎が一際強い熱を帯びる。そして、駿も地を蹴り、姿を霞ませた。

 某戦闘漫画のような光景が広がる。

 姿は霞んで見え辛いが、某戦闘漫画そっくりだ。
 ある地点(x,y,z)で音がしたら、(x+a,y+b,y+c)で音がした。この2点間の距離を求めよ。みたいな。

 空間座標……これを教えてくれたあいつは、いつの時代に……。
 あいつ、隣のクラスだったから巻き込まれていないんだった。あれ、転校していったっけ? ――忘れた。

「ライン、まずい……」

 ターバは目で追えているのか。
 オレは体勢が変えられないから、全体を見渡すことができない。
 精々、音と衝撃を肌で感じて、どこら辺で発生しているのかを推測できるぐらいだ。十分凄いだろう?

 それで、ターバの目にはまずい、と判断する何かが起こっている。
 それは、オレも薄々気づいている。

 ――駿のエネルギーが減少中なのだ。

 おそらく、今のブースト状態を維持するのに少なくないエネルギーを必要としているのだろう。

「どうしました? やはり、世界に拒絶されている・・・・・・・・・・ようふぇ――」
『無駄口叩いてる暇があるなら、攻撃して来い』

 喋る神の口に、駿の熱拳が刺さった。
 前歯が折れ、唇が焼けている。
 
「ふう……」

 が、すぐに再生した。
 あのオーラをどうにかしないと、なんだが。

 ゲーム風に言うなら、過剰ヒットポイントってところか?
 限界値が100にも関わらず、120ある、みたいな。
 
 ……少し違うか?
 自動回復状態オートヒーリングモードか? 

『……蓮、まだか?』

 駿はそう言ってオレの方を見るが、まだだ。

 ――ドクンッ

 あ゛……? これは……?

 頭痛が……死んでいった人たちの顔が浮かぶ。
 リーイン。
 ゴース、ノヨ、ロイズ。
 副騎士団長、騎士団長、餓者髑髏。

 おかしいな。
 
 オレが見たのはリーインの死に際だけだったはずだが。
 他のみんなの死に際も見える。

 それだけじゃない。

 魔物連合との戦争で命を落としたであろう人たちが鮮明に脳裏に浮かぶ。

 誰かは知らない。会ったこともない。
 
 なのに、オレはそれが誰かなのかを知っている。

 ああ……全部、こいつのせいだ……。

 オレの意識は、そこで一度途切れた――。



 ――ドンッ!!

「な……器が? ぐあっ!」
『隙ありぃ!』

 バチンッと、神が何かに弾かれ、のけ反った。
 そこに駿が後ろ回し蹴りを加え、神を吹き飛ばす。

 ラインを中心に、辺りに魔力が渦巻く。
 それは所々で爆発を引き起こすが、オリハルコンの地面に傷を付けるのが関の山。
 周囲の木々はすべて神が枯らし、駿が焼き払った。
 
 ターバの体も傷つくが、すぐに再生する。
 駿と神の周りには爆発が届かない。周囲の魔力を操作しているのだ。

 ターバもそれを見て、周囲の魔力を操作し、爆発を遠ざけた。 
 しかし、完全に遠ざけることはできていない。

『ターバと言ったな。加勢できるか?』
「できるが……ついていける気がしない」
『大丈夫だ。聖物の力を信じろ』

 ターバは両手に握る聖物に語り掛けた。
 たしかに、まだ力を引き出せるようだ。

 ターバは聖物に、力を最大限引き出すように頼んだ。 
 聖物から、了解の意志の代わりに、ターバの身体能力が大幅に上昇した。
 
「……行ける」
『来い!』
「させません! ――『地雷マイン』」

 神はボーダーラインを形成した。
 ターバと自分たちとの間の地面に、戦場に魔力が走る。

「踏めば、肉片も残らぬほどの爆発を引き起こします。そこで大人し――」
『隙だらけだと言っている!』

 駿はまた隙を見せた神に回し蹴りを放つ。
 神はそれを片手で受け止める。受け止めた手から煙が上がり、神の手が焼ける。

「二度目が通じると思っていたのですか?」
『ああ、そうだ』
「舐められたものです……ねぇっ!」

 神は駿の足をがっしりと掴み、『地雷マイン』を設置した場所に飛ばした。

 駿は体を炎に変え、受け身を取った。
 そのまま周囲を炎で包む。神を中心にし、辺りに炎の渦が形成される。

「核が……パンドラの箱・・・・・・が丸見えですよ! ――『氷剣アイスソード』」

 神は氷の剣を作り出し、炎の渦の中に浮かぶペンダント……パンドラの箱に向かって放つ。
 しかし、それは放たれた瞬間に消滅した。

『ここは俺の体内も同然。この中で、俺以外の存在は俺の許可なしに魔法を扱うことはできない』

 駿は炎の渦の中に『排除リジェクト』を発動させている。
 範囲が広すぎるため、完全なものではないが、それでも十分な効果は発揮している。

『そして……』
「ここからは、俺も参戦させてもらう」

 炎の渦の外から、ターバが歩いてやって来た。
 今まで以上の圧力を纏っている。

 間違いなく、駿(炎体)と神に並ぶ実力者に至った。
 
 
 
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