戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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最終章 ~最強の更に先へ~

第142話  解放②

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 ターバ&駿と、神の戦い。
 ラインは炎の渦の外で、気を失っている。さながら、今は繭の状態。

 そして、この炎の渦の中では、神は魔法の使用が制限されている。

「――『排除リジェクト』」

 神が魔力に干渉するが、

 ――バチンッ

 と、電撃が走り、拒絶された。

『お前のそれは俺の眷属的存在。使用を制限することなど、造作もない』
「そうですか。ですが、穴はあります」

 神は体内で魔力を練り始めた。
 この空間内に魔力干渉を起こしている。それに、駿本体でないため、神の体内にまで干渉はできない。
 
「やはり、干渉できない……。世界から外れたのは早計でしたね」
『世界から外れた俺の力の欠片を倒せていないお前はどうなんだ?』
「倒せてはいない……。ですが、負けてもいません。これから勝利を修めればよい話ではないですか?」
「――俺を忘れんな」

 ターバが双剣を構え、神に斬りかかった。
 神は振り向き、バックステップで躱す。

「声を出すなら、突いてから声を……」

 神はバックステップで距離を取るが、一向に距離が縮まらない。

「声を出すのは、相手の奇襲を躱し終えてからにしましょう」

 ターバは神の真似をして煽る。
 神が1歩下がれば、ターバは1歩進む。
 神が2歩下がれば、ターバは2歩進む。

 ターバは常に一定の距離を保ち、剣を振るい続ける。

 魔法は使用しない。
 跳ね返ってくる……利用される可能性があるからだ。

 体内で完結する、身体強化術しか使わない。
 


 神は煩わしいと思いながらも、この状況を打破する術を考えた。
 答えはすぐに見つかった。
 
「――『斬糸ざんし』」

 神は細い――目に見えないほど細い糸を生成し、ターバの関節部を縛り上げた。
 関節部は筋肉が付きにくいため、防御が薄い。
 駿の魔法の効果で、魔法の維持に余分な魔力を取られるが、費用対効果は最高だ。

 しかし、ターバは構わずに進んでくる。
 それも、神の予想通り。

 徐々に糸を生成し、避け続ける度――ターバが進んでくる度に、ターバの体に糸が纏わりつく。
 
 それは徐々にターバの全身を覆い、動きを制限する。
 徐々に集まった糸は目に見えるまでに集まった。

 そして、ターバの体の表面の半分が白くなった頃。
 神は手を伸ばし、広げ――ギュッと握りしめた。

「――ッ!!」

 ターバの体が粉々に切り裂かれた。
 ここまで粉々にされては、いくらターバと言えど、再生に時間が掛かる。
 
『……――『熾天使の矢』』

 炎の壁から炎の矢が噴射された。
 それらは寸分違わずに、神に狙いを定めていた。

 神は後ろに身を引き、炎の槍ほどの大きさのある矢を躱した。
 しかし、矢もまた続けて発射される。

 神は縦横無尽に炎の渦の中を駆けまわり、矢を避け続けた。
 その隙にターバは再生する。が、やはりかなり時間が掛かるようだ。
 散らばった肉片が徐々に集まり、大きくなってきている。

「――『水』」

 神は魔力をあまり……というより、ほとんど練らずに発射した。
 その魔力は水となった。

 水を炎の壁にぶつけたが、当たる前に蒸発した。

「…………やはり効きませんか。厄介な。ですが、エネルギーもかなり削れたことでしょう。このまま根競べといきましょうか」

 神は駿の矢を避け続けた。
 その間も、ターバの再生は進む。
 今は体全体の大まかな形が形成されている。…………つまり、肉の塊。グロい。

「あ゛…………」
「……声帯が復活しましたか。ふむ……」

 神は矢を避けつつ、ターバに近づいた。
 が、駿がそうはさせない。

 神とターバの間に矢を放ち、神の進路を妨害する。
 その分、神に向かう矢が数本、減る。1本だけ違う進路を取らせるため、矢が数本減る。
 
「ちっ……ですが、これはどうですか? ――『火』」

 神は火を生成し、ターバに放つ。
 が、それも炎の矢が吸収し、防ぐ。

『それをさせるはずがないだろうが!』

 駿の怒号が響く。
 が、心なしか、その声には疲れが込められていた。

「やはり、かなりエネルギーを――」
「――『火災旋風かさいせんぷう』」

 突如、神が炎の竜巻に包まれる。
 それと同時に、駿の炎の竜巻が解除され、炎の体に戻った。やはり、エネルギーをかなり消費したようだ。

 ――バァン!

 神を中心に、衝撃波が発生し、ターバの放った『火災旋風』が消し飛ぶ。

 ターバの魔法を消したのは神……ではなく、駿だった。
 ターバの魔法に干渉し、破壊力を最大――限界を突破させた。その代わり、一瞬で消える。
 駿が消費したのは、魔法に干渉する際に消費した魔力のみ。

『ターバ、炎の魔法が使えるか?』
「ああ。とは言え、聖物の関係で雷と水の魔法のが使いやすいけどな。元の適性が高かったのは炎だけどな」
『了解した。俺が魔法の補助をするから、思い思いの魔法を放ってくれ』
「おう!」

 ターバは両手に持った聖物に魔力を込め、ラインを守る魔力障壁を生成した。
 それを駿が、魔力の組み換えをいじり、より堅固にする。

 そして、攻撃に転じた。

「――『水雷神オケアノス』」

 ターバは水と雷を纏った。
 
「――『水龍剣リヴァイア』」

 ターバは水の聖物を振るい、水の塊を打ち出した。
 
「――『排除リジェクト』 ……――『炎陣極爆サークルバニッシュ』」

 神は魔法の排除を試みたが、魔力の流れを崩すには至らなかった。
 そのため、即座に魔法を組み立てた。

 神の目の前に炎の円が出現し、大爆発を引き起こした。
 エネルギーのベクトルはきちんと定められているため、円より後ろ――神にはダメージはおろか、僅かな風すらない。
 
 水は一瞬で蒸発し、炎も収まる。

『――『魔極まごく』』

 水に含まれていた僅か……しかし大量の電気を操作し、神の右目の前でスパークさせる。
 電気は神の右目を焼く。

「――『蜃気楼フェイクスモーク』ですよ」

 水蒸気が晴れると、右目を貫かれ、うずくまっていた神の姿が消え、後方に姿を現した。

『なるほど……幻影魔法か。それも、かなり高度の』
「お前は使えないのか?」
『……』

 駿は答えない。
 使えるとも、使えないとも受け取れる沈黙。

 しかし、ターバも神も、YESと受け取った。

 神は、魔王が使えたから。
 ターバは、ラインを超える実力を有する駿の実力を見込んで。

『だが、穴がある。あれは高度の幻影を映し出すが、煙が発生する。そして、効果時間が短い。もしくは、魔力が乱れやすい』

 駿の眼をもってしても、魔法の完璧な解析は不可能だった。
 しかし、魔法の発動の有無、大まかな効果はわかる。

『斬りかかっても斬った感触がするだろうな。第二の現実、とでも言うべき幻術だ』
「そんな高度な魔法を使えるのか」
『ああ。俺の【緻密な魔力操作】の加護と魂の力が後押ししているのだろう。今のやつの実力は、器の所持者にも匹敵する』
「そんな相手が存在していいのかよ……」
『たまたまに過ぎん。同じプロセス……同じ方法でなら、確かにここまで強くなるが、それ以外はすべて偶然の一致によって起こったもの』
「いつまで話しているのですか? 戦闘中ですよ?」

 神は両手を胸の前で握りしめていた。
 その手の中から、紅い光が漏れ出している。

「――『紅皇こうおう』」

 紅い光が神の手から溢れ出し、ターバと駿を包み込む。
 紅い光が当たった瞬間に地面は溶け、結晶化している。そんな光が、まず最初にターバを包み……

 ――消滅した。

 ターバが、ではない。

 オレが・・・……オレから発生した力場が……力の奔流が神の放った一撃を掻き消した。

「な……っ!」

 そのエネルギーは神を包み込む。

「ぐぐ……! 何を……をぉ……」

 神は頭を抱えてうずくまる。
 茶色の髪が振り乱れている。ヒステリーを起こしたみたいで、醜いな。

「……【知】を送り込んだだけだ」
「くっ! なぜ……自我を保っていられるのですか!?」

 神の言いたいことはわかる。
 オレは……
 
 




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