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最終章 ~最強の更に先へ~

第143話  【知】

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「なぜ……自我を保って……!?」

 神の言いたいことはもっともだ。

 オレは【知】の神器の力で、この世に……この世が誕生してから生まれた全生物の人生を追体験してきた。
 つまり、オレの精神年齢は数千……否、数万と22と15歳分、成熟した。

 もちろん、それだけではない。
 この世の未知・・も熟知した。


 ――オレは……この世界そのものだ。


 なんて思う余裕すらある。
 いや、心の底ではそう思っている。

 前世の記憶も今世の記憶も、所詮情報、と達観してもいる。

 そして今も、新たに情報が書き加えられ続けている。が、オレの脳に書き込まれている気がしない。
 オレの持つ『不可知の書』……否、【知】の神器。これに情報が加えられ続けている。

 そして、オレはこれと繋がっている。

 【知】の神器……全知の書、とでも言おうか。
 ……叡智のがいいか?

「なぜ、自我を保てているのか、と問うたな? 答えはいたって単純なんだが……。そう、解説がいらないぐらい……な?」

 オレはそう言って神を煽る。
 口の端を若干上げ、とても殴りたくなるような顔……くそうざい顔を作る。

「な!? ……なら、別にいいでしょう」

 おや、諦めた。無駄にプライドの高いやつはあしらいやすい。

 愚かだ。
 自身の知識欲を理性で強引に抑え込むとは……。

 答えは至って単純シンプルだといのに……。

 たしかに、オレはこれまでこの世界に存在してきた数億を優に超える。
 オレはその人であり、別のあの人でもある。

 だが、結局それらはオレ自身を通して経験したものだ。
 つまり、オレがAさんでも、その核はオレ自身。

 オレが人格を保てているのは、それが理由だ。
 結局、オレ自身が他人を経験したというわけだ。

「駿、そろそろまずいんじゃないか?」

 オレの目には何も映っていない。
 だが、わかる。

 そして神もそれに気づいている。

 ――駿の核……ペンダントは壊れかけだ。
 容量超えキャパオーバーだ。

『ああ。正直、もう大技は使えない。使えてもあと1回といったところだ』
「ターバ、聖物を貸してくれ」

 神は頭痛で動けない。
 オレは駿のように、他人の【知】に干渉することはできない。

 だからこそ、空虚な【知】を送り込んだ。
 中身が空で容量だけが無駄に多いパッチを当てたようなものだ。

 前世でやったゲームで、1000MB超えのパッチが当てられたことがあった。しかし、精々イベントが1つ追加されただけだった。
 結果、運営は大炎上。
 
 これと同じことをやっただけだ。

「ああ」
「ありがとう」

 ターバから聖物を受け取り、意志を向けた。
 すると即座に返答があった。そして、オレは聖物に干渉した。

 聖物はこの世の均衡を保つ物。調停の意志の元、行動している。
 つまり、意志、思考は存在する。――それが例え、プログラムのようなものだったとしても。

 そして、聖物の了承を得て、聖物を弄る。
 そしてターバに返す。

「これは……!?」

 聖物にも意志がある。
 だからその意志を少し弄って、聖物が内包するエネルギーを完全に引き出した。

 オレたち動物の脳には制御装置リミッターがある。それがオレたちの動きに制限を掛けている。
 それが外れるのは……いい例が、火事場の馬鹿力だ。あとは南の国のカメハメハ大王……か。
 極限状況においても尚、生への渇望……強い思いがあってこそ、解放される。

 しかし、聖物にはそれ――リミッターはおろか、脳すらない。
 聖物は魔力に意思が内蔵されている……否、魔力そのものが脳。
 意志を弄ることで、魔力の流れを最適化させ、潜在能力を最大限に引き出させた。

 ターバは聖物を2本持っている。
 聖物2本では、その力は足し算ではなく、掛け算されている。

 普通、聖物は1人1つしか持てない。
 だが、ターバは例外処置だ。加護持ちで、双剣使いで、この危機的状況。
 例外中の例外だ。

「制御装置を外した。だが、数日・・しか持たないだろうな」

 数日でも十分だろう。ここで逃げられない限りな。

「……駿、使え」
『――『監獄結界』』

 オレは駿に魔力を一部、譲渡した。
 
 いや、この表現は明確ではない。
 正確に表現するなら……。

 オレが簡易的に、かつ余分に魔力を込めることで結界を作り出した。
 神器のおかげで、魔力の流れがスムーズだ。動体視力もまた。

 その魔力を基にし、駿が結界を超・強化した。
 魔力が隙間なく詰められ、結界を堅固にする。

 この『監獄結界』は魔法すら……否、僅かな魔力すら遮断する。
 まあ、直に解けるけどな。暫しの時間稼ぎってやつだ。

「ちぃっ!」

 神が大きく舌打ちをする。
 だんだんと、淑女の面が剥がれてきている。面白い。足の古皮を剥がすみたいだ。
 
「ふん、いいでしょう。障害となる貴方たち2人を消し去り、我が願いを成就させましょう!」

 神は変異した右腕を広げる。
 その手の中には濃密な魔力が練られている。が今までと比べると薄い。
 やはり、頭痛が効いているようだ。

『蓮、まずい。そろそろ……』

 駿のペンダントの罅が広がっている。
 駿の持つエネルギーが大きすぎる。ペンダントもよく耐えた方だろう。

『…………ターバ、あとは頼む』
「おう!」

 そのとき、炎が収縮し、ペンダントに収まった。罅から若干炎が漏れている。
 ペンダントは空中に漂い、鎖が溶けて消えた。

 装飾品の部分が菱形に変わり色は淡い赤色。所々金色に染まっていた。
 それは一直線に……ターバに突進していった。

「んな!?」
『「――避けるな」』

 オレと駿が叫んだのはほぼ同時だった。

「――『晶壁』」

 神が魔法を放ちそうだったので、遮蔽物を生成する。
 神器の力を解放したオレの、防御に重きを置いた『晶壁』を安易に突破できるとは思えない。
 
 そして、ターバの胸にペンダントが埋まった。
 
「が……あ゛ぁぁあああ゛っ!!」

 ペンダントから炎が溢れ出し、ターバの体が炎に包まれる。
 炎は触手のように伸び、ターバの体を貫く。ターバの体は内外から焼かれる。
 ターバの体は焼かれながらも再生を続ける。

 そして遂に、ターバの再生力が上回った。
 
 炎はターバの体に法衣のように纏わりついている。
 ……ターバ第二形態だ。ふむ……。あと2段階あってもおかしくないな、こりゃ。
 次はエクレアヘッド、最後は丸坊主……いや禿げか?

 ……加護を得た時点で二形態目だったと見るべきか?
 つまり、あと……いや、聖物も含めるとこれが最終……? 
 いや、まだ筋肉膨張ムキムキと金ぴかが残ってる! そうだ、まだ可能性はある!

 炎はもうターバを焼いてはいないようだ。
 そして、『晶壁』の端から神が顔を覗かせた。破壊しなかったか。

「――ふむ。寺島駿が消えましたか。これはこれは……」

 神は不敵な……残虐的な笑みを浮かべる。
 これから起こる、弱者への虐めを想像してるんだろうな。【知】の能力で相手の心を読めたらなぁ。
 残念なことに【心】の神器がある以上、オレの主フィールドではない。【知】の能力、加護に読心術に繋がるものはない。
 
「うるさいなぁ……」

 ターバが剣先を神に向ける。
 それだけで風圧が発生し、神周辺を包み込む。

 地面がオリハルコンで覆われているため、土煙は立たない。
 だが、風は神の髪をなびかせる。まともに食らえば、巨木が倒れるだろう。

「――『水雷神オケアノス』」

 ターバは水と雷の聖物の身体強化魔法を重ね掛けする。
 オケアノス? 何が由来なんだ? この世界は神は存在しな……存在しません。
 
 ……ふむふむ。この世界の住人にも信仰心はあるのか。信仰対象がいないだけで。
 一部地域では土着信仰があるようだ。

 そしてオケアノス……。
 この世界の土着宗教の信仰対象か。大海に住まう、雷の神。……か。
 信仰されている地域は……ターバの故郷の隣の村か。何かしらの文献が流れてた可能性があるな。
 ふむ……。たしかに、ターバの家にその文献があるな。神話か。
 聖書じゃないから……というか、ただの本とみなされているようだ。やはり、宗教というものに無頓着なようだな、この世界は。



 さて、ならオレも……。
 昔、駿と考案したが、魔力の制御が緻密過ぎて実行できなかったあの技――。

「――『晶怪人』!!」
 


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