上 下
2 / 6

1 ユリウス

しおりを挟む
王都から2日かけて領地へ帰る。

騎乗したままでは峠越えは難しいので、馬の手綱を引きながら黙々と山道を歩いてきた。前泊した町から早朝に出発したので、護衛の騎士たちの疲れも出ているだろう。しかし今日夕刻には我が領土セルリアンに到着する。従者たちもこころなしか嬉しそうだ。

ルミナ領に入るとセルリアンは目の前。ノーマン山脈も中腹まで登ったところで皆に声をかける。

「この辺りで昼休憩にしよう」

「はい。ユリウス様」

天気も良い。ピクニック気分だなと思いながら、座り心地の良さそうな木の根元に腰を下ろし昼食用に持参した干し肉とパンをかじった。


ノーマン山脈の南側は斜面を利用して果樹を育てている。手入れされた見事な果樹園がこの先に広がっている。
ルミナ領の領主は見事な統治方法で領土内を活気づかせ、かつ平穏で民が皆幸福らしい。そして果樹を産業として立派に成功しているときく。

「ルミナ伯爵のロベール卿は素晴らしい領地をお持ちですね。特にオリーブが有名で財政も潤っているとか」

家臣のガストンが果樹園を見下ろしながら深く息を吸い込んだ。
彼は俺が幼いころからいろんなことを教えてくれた3つ上の従士で、強面だが剣の腕も立つ。俺にとってはとても頼りにしている側近だ。

「ルミナ伯爵とは何度か会ったが、なかなか気さくで感じの良い方だった」

感想を述べると、ガストンはそうですねと頷いた。

「一人娘がいるそうです。クリスタ嬢。とても美しい令嬢らしいです」

「なんだ、また嫁を貰えという話か?俺はまだ当分自由でいたい」

冗談交じりに笑った。

流石に25歳になってからはひっきりなしに各方面から縁談の話がやってくる。まだ遊び足りないのかと揶揄る侍従たちもいる始末だ。
自分としては女が嫌いなわけではない。若く美しいレディーたちは鑑賞するだけなら素晴らしいと思う。だが、結婚となると面倒くさい。


「けれど、そうも言ってられませんよ。舞踏会に呼ばれたではないですか。もう『断ってはならない』って感じでしたよ。2ヵ月後にまた王都へ行かなければならなくなりましたね」

ガストンの言葉に苦笑いするしかなかった。

王都で独身の貴族たちを集めて大規模な舞踏会が催されるらしい。今回王子から直々に必ず参加するようにとお達しがあった。
王子とは同じ学舎で学んだ竹馬の友。恐れ多いことだが気の知れた友人関係が今も続いている。
彼なりに俺の事を心配しての舞踏会参加命令だろう。

ギラギラした高価な宝石に、どこぞの新作のドレスだか何だかを身に着けた女たちの自慢大会なんかに、参加したところで退屈なだけだ。若い令嬢たちも。ここぞとばかりに気合を入れて、笑顔で会話しながら陰で悪口を言い合う。そしてくだらない事に、ダンスを申し込まれる順番を競っている。
わずらわしい事この上ない。
俺は深くため息をついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!?

私は貴方の性奴隷じゃありません

天災
恋愛

好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん
恋愛
学園の卒業パーティーで傷害事件が起こった。 切り付けたのは令嬢。切り付けられたのも令嬢。だが狙われたのは本当は男だった。 狙われた男エドモンドは自分を庇った令嬢リゼルと傷の責任を取って結婚することになる。 エドモンドは愛する婚約者シモーヌと別れることになり、妻になったリゼルに冷たかった。 リゼルは義母や使用人にも嫌われ、しかも浮気したと誤解されて離婚されてしまう。 離婚したエドモンドのところに元婚約者シモーヌがやってきて……というお話です。 

一部完|すべてを妹に奪われたら、第2皇子から手順を踏んで溺愛されてました。

三矢さくら
恋愛
「侯爵家を継承できるという前提が変わった以上、結婚を考え直させてほしい」 マダレナは王立学院を無事に卒業したばかりの、カルドーゾ侯爵家長女。 幼馴染で伯爵家3男のジョアンを婿に迎える結婚式を、1か月後に控えて慌ただしい日々を送っていた。 そんなある日、凛々しい美人のマダレナとは真逆の、可愛らしい顔立ちが男性貴族から人気の妹パトリシアが、王国の第2王子リカルド殿下と結婚することが決まる。 しかも、リカルド殿下は兄王太子が国王に即位した後、名目ばかりの〈大公〉となるのではなく、カルドーゾ侯爵家の継承を望まれていた。 侯爵家の継承権を喪失したマダレナは、話しが違うとばかりに幼馴染のジョアンから婚約破棄を突きつけられる。 失意の日々をおくるマダレナであったが、王国の最高権力者とも言える王太后から呼び出される。 王国の宗主国である〈太陽帝国〉から輿入れした王太后は、孫である第2王子リカルドのワガママでマダレナの運命を変えてしまったことを詫びる。 そして、お詫びの印としてマダレナに爵位を贈りたいと申し出る。それも宗主国である帝国に由来する爵位で、王国の爵位より地位も待遇も上の扱いになる爵位だ。 急激な身分の変化に戸惑うマダレナであったが、その陰に王太后の又甥である帝国の第2皇子アルフォンソから注がれる、ふかい愛情があることに、やがて気が付いていき……。 *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.7.14-17)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます! *第一部、完結いたしました。 *第二部の連載再開までしばらく休載させていただきます。

愛するあなたへ最期のお願い

つぶあん
恋愛
アリシア・ベルモンド伯爵令嬢は必死で祈っていた。 婚約者のレオナルドが不治の病に冒され、生死の境を彷徨っているから。 「神様、どうかレオナルドをお救いください」 その願いは叶い、レオナルドは病を克服した。 ところが生還したレオナルドはとんでもないことを言った。 「本当に愛している人と結婚する。その為に神様は生き返らせてくれたんだ」 レオナルドはアリシアとの婚約を破棄。 ずっと片思いしていたというイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢に求婚してしまう。 「あなたが奇跡の伯爵令息ですね。勿論、喜んで」 レオナルドとイザベラは婚約した。 アリシアは一人取り残され、忘れ去られた。 本当は、アリシアが自分の命と引き換えにレオナルドを救ったというのに。 レオナルドの命を救う為の契約。 それは天使に魂を捧げるというもの。 忽ち病に冒されていきながら、アリシアは再び天使に希う。 「最期に一言だけ、愛するレオナルドに伝えさせてください」 自分を捨てた婚約者への遺言。 それは…………

唯一の恋

綾月百花   
恋愛
両性具有として生まれた女の子の話です。幼い頃から女の子として育てられてきたのだが、弟に性器のことを指摘された奈都は小学4年生の途中から男装して過ごしていたが、心は女の子のままだ。奈都は自分が両性具有だとは知らずに育ってきた。長男の響介は奈都が生まれたときから秘密を知っている。奈都は幼い頃交通事故に遭い、記憶喪失だ。響介との約束も忘れている。響介は幼い頃から奈都のことが好きだ。高校生の時に小説家になった響介は一日も早く独立したかった。奈都に赤ちゃんを産ませたくて、奈都が16歳の時から、こっそり抱いていた。両親が他界し、奈都の秘密を知る者は響介だけになった。響介は奈都が気づくような抱き方をした。傷ついても受け止める覚悟を持っていた。弟の亜稀は響介と奈都が抱き合っていることを知っている。亜稀は姉としてではなく、奈都を女として見ていた。 体の秘密も、小さな頃のことだが覚えている。奈都に平等に愛して欲しいと頼んで、体の関係を持つ。奈都は二人に共有されることを受け入れるが、どうしても亜稀とのセックスに馴染めない。亜稀はまだ子供っぽく、奈都の体の限界をわかってくれない。奈都は亜稀の求愛を断るようになっていた。ある日、響介に説得されて体の精密検査に連れて行かれた。検査は苦痛で、奈都には辛かった。検査の途中で、奈都は自分が二人に取り合いをされるような者ではないと悟ってしまった。帰宅した奈都は、求愛する亜稀に拒絶した。わざとおこらせるような言い方をして怒らせた。奈都は廊下に投げられ、頭をぶつけてしまう。子供頃から何度も検査をしてきた頭をぶつけて、奈都は体が不自由だった頃を思い出し、死を覚悟して家を出た。響介が奈都を見つけ出し、つきっきりでリハビリをし、元の暮らしに戻ることができた。亜稀は責任を取れなかった自分を責めて、奈都を見守る覚悟を持つ。奈都は墓場で意識を失う前に、自分は本当は女の子になりたいと気づいた。 女の子としての生活が始まる。兄弟二人に愛されながら、いろんな障害を乗り越えていく。 三人の成長を描いた作品になっています。 最初の頃はエッチ多めのラブストーリーです。

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。 やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。 迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

完結 裏切られて可哀そう?いいえ、違いますよ。

音爽(ネソウ)
恋愛
プロポーズを受けて有頂天だったが 恋人の裏切りを知る、「アイツとは別れるよ」と聞こえて来たのは彼の声だった

処理中です...