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4 クリスタ
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王都には亡くなった母の妹にあたる、叔母のジャネットが住んでいる。
彼女は幼くして母を無くしてしまったクリスタの事を我が子のように可愛がってくれていた。
クリスタは毎年社交界シーズンはその叔母の屋敷で過ごしていた。
「クリスタ、わたくしは貴方を実の娘のように思ってるわ。結婚がなくなったからといっても気にすることはないのよ」
ジャネット叔母様はハンカチで涙を押さえながらなぐさめてくれた。
婚約破棄されたのは悔しい。けれど、愛があったわけではないから、そんなに哀しまれたら逆に申し訳ない気持ちになる。
「あ……えっと。大丈夫ですわ叔母様。次を探します。前向きが一番ですから」
「そうね。クリスタ!気を落とさないで、明るくいきましょう。人は明るい方が人気が出るのよ」
叔母は気を遣い自ら明るく振る舞ってくれた。
いいえ、腹は立ちますけど落ち込んではいないです。
ただまた一から探さなきゃっていうのが面倒なんです。
私は叔母に隠れてそっとため息を付いた。
「明るいだけでいいなら、ハゲはモテモテじゃないか!ははは」
大声で叔父様が入室して来た。
叔父様は薄くなった自分の頭部を押さえながら笑っている。
そしていつもくだらない冗談を言って笑わせてくれる。
この二人がいてくれたおかげで、私は母がいなくても楽しく暮らせてこれたわ。
そう思うと目頭が熱くなった。感謝しかない。
◇
来週は王室で舞踏会が開かれる。
ドレスは完璧だ。
薄いグリーンのシフォンに青いバラのモチーフが刺繍された人気のデザイナーの物だった。
試着した時、これだわ!と、声を上げてしまったくらい気に入ったものだ。
時間がなく既製品だけど私にはそれで十分。領地に帰れば、かたっ苦しいドレスなんて着る必要ないから。
そう思いながらも、やはり女の子。ふんわり広がるドレスを着ると嬉しくなって鏡の前でクルリと一回転した。
しばらくすると叔母が私の部屋へ入ってきた。
「クリスタ、貴方ももう大人の年齢になったのね。感慨深いものがあるわ」
叔母は舞踏会用のドレスを身に着けた私わみると目を細めて嬉しそうにそう言った。
ソファーに腰掛けるとおもむろに叔母は宝石箱を出した。
「これね。あなたのお母様の物なの。大事な物よ」
箱には鍵がかかっていて空きそうにない。細かな細工がしてあり、古い物だという事は分かる。
「お母様の宝石箱?中に宝石が入っているのかしら……とても素敵な箱ね。中を見てみたいわ」
叔母は困ったように眉根を寄せた。
「あのね、これの鍵はないの。姉にとっては開けてはならないパンドラの箱だったのよ。だから鍵は捨てたのかもしれない」
どういう事なのかしら?
「開けてはならない箱?なのにどうして大事に持っていたのかしら。なにかとても危険な物が入っているのかしら」
少し気味悪くなり、私は持っていた箱をテーブルの上に戻した。
「叔母様は中に何が入っているか知ってるの?」
「ええ」
叔母はとてもまじめな顔で頷いた。
叔母は私にわざわざこの箱を見せに来た。中身を知っていて私に渡すわけだから危険な物ではないだろう。
でも開けてはならないって……
「こじ開けろって事?」
困ったような顔をしていたが、叔母がゆっくり頷いた。
「ただ、中身が何なのか先に教えてもいいかしら?」
「ええ!勿論よ」
叔母はゆっくり私の両手を包むように握るとこう言った。
「この中には媚薬が入っているわ。惚れ薬よ」
私は驚いて目を見張った。
「媚薬?なぜそんなものをお母様が持っていたんですか?っていうか、この世の中にそんな薬があるはずありませんわ。おとぎ話じゃあるまいし」
眉根にしわを寄せて怪訝そうに問う私に、叔母は頷いて話を続けた。
彼女は幼くして母を無くしてしまったクリスタの事を我が子のように可愛がってくれていた。
クリスタは毎年社交界シーズンはその叔母の屋敷で過ごしていた。
「クリスタ、わたくしは貴方を実の娘のように思ってるわ。結婚がなくなったからといっても気にすることはないのよ」
ジャネット叔母様はハンカチで涙を押さえながらなぐさめてくれた。
婚約破棄されたのは悔しい。けれど、愛があったわけではないから、そんなに哀しまれたら逆に申し訳ない気持ちになる。
「あ……えっと。大丈夫ですわ叔母様。次を探します。前向きが一番ですから」
「そうね。クリスタ!気を落とさないで、明るくいきましょう。人は明るい方が人気が出るのよ」
叔母は気を遣い自ら明るく振る舞ってくれた。
いいえ、腹は立ちますけど落ち込んではいないです。
ただまた一から探さなきゃっていうのが面倒なんです。
私は叔母に隠れてそっとため息を付いた。
「明るいだけでいいなら、ハゲはモテモテじゃないか!ははは」
大声で叔父様が入室して来た。
叔父様は薄くなった自分の頭部を押さえながら笑っている。
そしていつもくだらない冗談を言って笑わせてくれる。
この二人がいてくれたおかげで、私は母がいなくても楽しく暮らせてこれたわ。
そう思うと目頭が熱くなった。感謝しかない。
◇
来週は王室で舞踏会が開かれる。
ドレスは完璧だ。
薄いグリーンのシフォンに青いバラのモチーフが刺繍された人気のデザイナーの物だった。
試着した時、これだわ!と、声を上げてしまったくらい気に入ったものだ。
時間がなく既製品だけど私にはそれで十分。領地に帰れば、かたっ苦しいドレスなんて着る必要ないから。
そう思いながらも、やはり女の子。ふんわり広がるドレスを着ると嬉しくなって鏡の前でクルリと一回転した。
しばらくすると叔母が私の部屋へ入ってきた。
「クリスタ、貴方ももう大人の年齢になったのね。感慨深いものがあるわ」
叔母は舞踏会用のドレスを身に着けた私わみると目を細めて嬉しそうにそう言った。
ソファーに腰掛けるとおもむろに叔母は宝石箱を出した。
「これね。あなたのお母様の物なの。大事な物よ」
箱には鍵がかかっていて空きそうにない。細かな細工がしてあり、古い物だという事は分かる。
「お母様の宝石箱?中に宝石が入っているのかしら……とても素敵な箱ね。中を見てみたいわ」
叔母は困ったように眉根を寄せた。
「あのね、これの鍵はないの。姉にとっては開けてはならないパンドラの箱だったのよ。だから鍵は捨てたのかもしれない」
どういう事なのかしら?
「開けてはならない箱?なのにどうして大事に持っていたのかしら。なにかとても危険な物が入っているのかしら」
少し気味悪くなり、私は持っていた箱をテーブルの上に戻した。
「叔母様は中に何が入っているか知ってるの?」
「ええ」
叔母はとてもまじめな顔で頷いた。
叔母は私にわざわざこの箱を見せに来た。中身を知っていて私に渡すわけだから危険な物ではないだろう。
でも開けてはならないって……
「こじ開けろって事?」
困ったような顔をしていたが、叔母がゆっくり頷いた。
「ただ、中身が何なのか先に教えてもいいかしら?」
「ええ!勿論よ」
叔母はゆっくり私の両手を包むように握るとこう言った。
「この中には媚薬が入っているわ。惚れ薬よ」
私は驚いて目を見張った。
「媚薬?なぜそんなものをお母様が持っていたんですか?っていうか、この世の中にそんな薬があるはずありませんわ。おとぎ話じゃあるまいし」
眉根にしわを寄せて怪訝そうに問う私に、叔母は頷いて話を続けた。
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