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「媚薬?なぜそんなものをお母様が持っていたんですか?っていうか、この世の中にそんな薬があるはずありませんわ。おとぎ話じゃあるまいし」

眉根にしわを寄せて怪訝そうに問う私に、叔母は頷いて話を続けた。

「これはお母さんがある人から預かったもの。それは……当時の王太子殿下よ」

王太子殿下、その時代の王太子殿下と言えば……病で亡くなったカマル第一王子。今の国王陛下の兄にあたる方だわ。私が生まれる前の話、ずいぶん昔の話だしカマル殿下の事はあまりよく知らない。

話の先が聞きたくて私は黙って頷いた。

「カマル殿下は異国に伝わるという伝説の魔法薬。恋の媚薬を手に入れて、それをある女性に使おうとなさったの。その女性には婚約者がいたの」

私は驚きのあまりぽかんとしてしまった。

「え、それって犯罪ですよね?自分の事を好いている相手ならそんな薬は使う必要はないから」

「ええ。そうよね」

ある令嬢って……まさか。お母さま?でもお母様はお父様と婚約していた。愛し合っていたと聞いている。お父様はずっとお母様一筋で、その証拠に亡くなった後、お父様は再婚されなかった。

お母様だってお父様を愛していたはず。

「殿下は、その薬を使い、自分の好きな女性を振り向かせようとしたのですか?それっていくら何でも邪道ですよね」

叔母はうんうんと頷いた。

「そうよ。さすがクリスタ話は早いわね。媚薬を使い彼女を何とかしようとされたの。けれど未遂に終わった。そして彼は病に倒れその後、若くして亡くなられたわ。そして、その時の媚薬がどういう訳かうちにあるの」

「殿下の好きになった女性というのはお母様の事ですね。事情は分かりませんが、この媚薬はその時に使われようとしたもので、なぜかお母様が所持する事となった。そして殿下の持ち物でもある媚薬。勝手に処分する事ができずに叔母様がずっと保管していたという事でしょうか」

叔母様は頷いた。

「ええ。その時何があったのか、もう姉は亡くなっているから真実は分からないわ。正直処分してしまっても良かったんだけど。姉の持ち物だったから、クリスタが成人したら話して貴方にこれをどうするか決めてもらおうと思ったの。勿論このまま暖炉の火にくべてしまっても構わない。知らなかった事にすればいいわ。それに今更王室にこれをお返しする事はないと思うし」


「そう……ですね」

けれど、王室が秘密裏に入手した媚薬。ものすごく貴重な物であることは間違いないだろう。
私は叔母の顔を窺った。

「叔母様はこの箱を私に開けろと言われました。何か目的があったりしますか?だって、そのまま私に言わずに、処分すればいいだけの話でしょう?わざわざ……」

叔母様は急にもじもじしだした。

な、なんなの?いったいどういう意味なのかしら……いまいち叔母の心理が分からない。

「私……見てみたいという好奇心が抑えられないの」

何故か叔母様は恥ずかしそうに肩をすくめた。
え?どういう事?もしかして……叔母様ただのミーハー?

これまでの緊張感はいったいどうしてくれるのよと拍子抜けした。


「叔母様……開けてもいいですよね。開けますよ」

「ええ、クリスタ!実際に使う訳じゃないから、一度どんなものか見てみてもいいと思うわ」

なんだやっぱりそういう事ね。
叔母は一人では開けてはいけないし、開けるべきじゃないと思っていた。だから私という共犯者を作りたかったのね。

「分かりました。どのみち、二十年も前の物でしょう。今では薬の効能なんてないでしょうから。飲んだらおなか壊しそうですし、開けてみましょう」

「ええ!そうしましょう」

叔母様は満面の笑みでそう答えた。





それはとても美しい小瓶に入っていた。何十年もそこに入っていたとは思えない程の輝きで、ガラスの小さな瓶にはチェーンが付いていて、首から掛けられるようになっている。

中には虹色に輝く液体が今も蒸発することなくそこに入っていた。

「うわぁ美しいわ」

「本当綺麗ですね!」

「とても素敵ね」

「ええ。宝石のようですわ!」


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みんなの感想(10件)

こいぬ
2024.06.23 こいぬ

このお話は、すごく面白いです。続きが読みたいです。

解除
熊ちゃん
2024.05.18 熊ちゃん

アルファポリス新参者の私が物申すのも何ですが😅「旦那様…」シリーズから こちらの作品に着目しますよ!面白くてワクワクしますもの😍間違いなしです!!

解除
熊ちゃん
2024.05.17 熊ちゃん

ぜひ、是非更新お願いします!

おてんば松尾
2024.05.18 おてんば松尾

あまり人気がないのと、時間がないのと……で放置してます。すみません。

解除

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