旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾

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12 慈善事業の計画

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レストランのオーナーであるマルクが私のことを知っていた。
当時は食材が手に入らず苦労していたが、備蓄の野菜を利用した料理で何とか営業できたと言っている。備蓄野菜が町の民を救ったことは記憶に新しい。
彼は私たちを、通りが見渡せる二階の個室に案内してくれた。

「うわっ、どこがどれだけ賑わってるか、ここから見渡せますね。凄くいい席です!さすが奥様、顔が広い」

良い席に案内されたことに喜び、ガブリエルが調子よく声をあげる。

ガブリエルは明るい性格でノリも良く、女性に人気がある。見た目も華やかで、体つきも背が高く男らしい。
一緒に歩いていると、すれ違う若い娘たちが彼を見て振り返る。

コンタンは店の主人に、部屋を数時間借りるがいいかと尋ねていた。
コンタンはメガネをかけていて、前髪が顔にかかり、一見、野暮ったく感じる。
けれどよく見ると顔のつくりは整っていて、とてもハンサムだ。
色白でスマートだけど、一応護衛として付き添うこともあるので、剣術の稽古は欠かせないと言っていた。

「久しぶりに外食するわ。たまにはいいわね」

「奥様は働きすぎです。バーナード様は隊では隊長としてしっかり仕事してました。けれど邸の執務関係とか事務は奥様に任せっぱなしですね」

バーナードの愚痴はもう散々聞いて、お腹いっぱいだわ。そう思ったが口に出すわけにはいかず、ガブリエルに苦笑いで答え、メニューを開いた。

「奥様は女性たちの働ける場を作り、子育てしながらでも仕事ができ、生活ができるような基盤を作りたいんですよね」

注文を終えるとコンタンが話し始めた。

「ええ。赤ん坊がいると仕事ができない。けれど男性は子育てしなくていいからずっと働ける。そもそも、自分達の子供なのに、なぜ女性だけがそういう状態にさせられるのかしら」

「そりゃ、子供抱えて仕事なんて、大変だし。女より男のほうが稼げますからね」

「現実はそうよね……残念だけど、夫がいなければ生活できないなんて辛いわよね。力仕事とかは無理かもしれないけど、頭を使う仕事だったり、細かい手作業だったりは女性の方が得意よ」

「え、それって女の方が頭がいいって言ってるんですか?」

ガブリエルが驚いて目を丸くする。

「そうでしょう?」

私はさも当たり前のように言う。

「ええーー!そうだったんですか?」

ガブリエルがまたも驚く。

「まぁ、その辺は置いておいて。確かに女性は不利です。どう考えてもこの世は男社会ですしね。けれど、王都では今、女性の社会進出が目覚ましい。なぜなら戦争で男がいなかった間に、女性だけで生活をした実績がある。自分たちにもできるんだという自信を付けた職業婦人たちが、次々と出てきて起業しています」

冷静にコンタンが話しを元に戻した。

「そうなのね!」

今、王都ではそんな事が起きているんだ。
私は知らなかった。最近王都へは行っていない。

「ええ。ですから、夫に生活の面倒を見てもらわなければ、生きていけないという考えは古い」

「まぁ、素敵だわ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなぁ、男の立場がないじゃないですか」

ガブリエルの言葉に三人で笑い合った。


「まず、何をするにも先立つものが必要です」

「金があったら、女性専用のアパートみたいなものを建てて、そこに託児所も作って。なんなら仕事もそこでできるんだったらいいんじゃないですかね。住まいも確保できて子供も預けられて働ける」

「そうね。先ずはお金よね。この事業は旦那様にお願いして予算を用意してもらうしかなさそうね」

バーナードは女性が働くことに賛成しないだろう。
それはマリリンさんの扱いを見ていてもわかる。弱い立場の女性を守るのが男性だと思っている節がある。
領地の執務に関しても、実際私がやっているにも拘わらず、全て邸の執事がしていると思っている。

女にできると思っていないのだ。彼からお金を引き出すのは苦労するだろう。

「慈善事業だといえば、少しは用意できると思うけど」

コンタンはそれは違うと首を振った。

「奥様。旦那様のお金を使うのではなく。奥様のお金を使いましょう」

「え?どういうこと?私そんな大金は持っていないわよ」

「今から稼げばいいんです。予算はご自分で用意して下さい」

「そんなのどうやって……無理よ。私には何もないわ」

「できます。今まで領地経営なさっていたのは誰ですか?」

コンタンはニヤリと笑った。


母子の為のシェアハウス
邸に帰ってから私は忙しかった。

王宮へ手紙を書いた。



『私は王宮で事務官をしておりました。第二王女のステラ様と奥様は、王都学園で同窓ではありませんでしたか?』

コンタンは私がまだ王都で学園に通っていた頃のことを知っていた。
当時、彼は王女殿下の担当事務官をしていた時期があったらしい。

『ええ、そう。私はステラ王女と同級生で友人だったわ』

親友と言っても過言ではなかったが、私は身分の差が気になって公には付き合えなかった。
王女がお忍びで王都に遊びに行くときなど、こっそり待ち合わせて一緒にカフェなどでお茶をした。
ショッピングやお祭りなんかも楽しんだ。

王女は王位継承者としての役割を持ち、将来的には王位に就く可能性がある。 そのため、王女は王族としての特権や責任を持つことになる。
勿論王家には第一王子、第二、第三王子までいる。ステラ様の王位継承順位は低いけどでも王族の特権がある。
ステラ王女殿下はあまり気にしていなかったが、伯爵家の娘の私は、周りを気にしていつもびくびくしていた。
結婚式にも呼ぶことはできなかったけど、ステラ様からお祝いのプレゼントと心のこもったお手紙を頂いた。

『ステラ王女様は、広く女性の意見を反映し、能力を生かしながら活動推進する、女性のための基金を立ち上げました。ステラ基金です。自立する女性たちを助ける目的を持っています』

彼は言った。ステラ様に手紙を書き、相談して基金の援助を受け、目的を達成しろと。もちろんそれには、私自身も活動に積極的に参加しなくてはならない。

邸の中でマリリンさんのことを気にしてウジウジ考えているより、自分のお金で自ら事業を起こし自分の目標を達成する。

『もちろんこれは奥様が個人的にされる事ですので、旦那様の了承は必要ないかと思います。奥様個人の資産管理の為、口座を作られるべきです。私法人、会社名義で作るこ事をお勧めします』

コンタンはまるで兼ねてから計画していたのではないかと思うくらい、これからやるべき事を書きだしていった。

これは旦那様には知らせない。あくまで私個人で行う事業だ。
とても緊張する。けど、とてもワクワクしてきた。





「今度、戦争で旦那様を無くした未亡人たちの為の慈善パーティーがあるのよ。ドレスを新調しなくてはいけないわ。私の予算は、旦那様が決めた分があるんだけど、そこから費用を出すのは少し気が引けて……」

私はステラ様からの手紙で、慈善パーティーに参加することを勧められた。けれど慈善パーティーと言うものは、貴族の夫人たちが集まる、いわばお茶会。
ある程度見栄えのするドレスを着るのがマナーだ。

貧しい民を救うというのは建前で、自分たちのドレスや宝石を自慢する為の会だ。
それでも、お金は動く。
寄付をすることが高位貴族の中では美徳だという概念がある。それが偽善であろうがなかろうがこちらとしては有り難い。

ステラ様から、パーティーで私の計画を話すように言われた。「夫のいない母子のためのシェアハウスを建てる」と。
夫がいない女性の仕事は限られている。悲しいことに、自分の体を使いお金を稼ぐしかない者もいる。そうならないために、まず彼女たちに仕事を与える。

彼女たちを仕事ができる状態にすることが先決だ。
そうすれば我が子を手放したり、生活が苦しくて捨てられてしまう子供たちも減るだろう。

ステラは言った『孤児院に寄付をすることも必要だが、元になる原因を断つことが最も重要だとアピールし、貴族から高額な寄付を集めろ』と。

今回参加するのは、戦いに勝利した国の貴族夫人たちだ。
今、彼女たちの懐は潤っているはずだ。

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