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29 【バーナードside】 ソフィアの捜索
しおりを挟むその頃、バーナードの領地では
「何故彼女の居場所が分からないんだ?そんなはずがないだろう!」
バーナードが従者たちに対し怒りを露わにしていた。
マリリンが邸を去り、軍関係の仕事もひと段落した今、バーナードはやっとソフィアの捜索に集中できるようになった。
本腰を入れて彼女を捜し出そうとしていた。
邸の従者たちには領地内をくまなく探させた。彼女の実家にも使いをやり、行き違いがあったようで彼女の居場所を探していると聞いてみたが『離婚したという知らせがきただけで、今の居場所は知らない』と冷たくあしらわれた。
結婚してから彼女の実家との付き合いはなかった。
ソフィアの実家は伯爵家だった。しかしソフィアの両親は他界していて、今は叔父が爵位を継いでいる。
あまり親しく親戚付き合いはしていない関係だった。
「バーナード様、離婚は成立していますし、もう旦那様にできることはソフィア様に慰謝料を支払うことだけです」
私の何が何でもソフィアを見つけ出そうとする姿に、いい加減あきらめろと言わんばかりに、コンタンが告げる。
「そんなことは……わかっている」
「では、慰謝料の額ですがこちらでよろしいでしょうか」
コンタンは以前から用意していたのか、まとめられた書類を事務的に私の前に出してきた。
書類には、今までにソフィアが領地経営をして得た利益に、邸の資産価値の半分が上乗せされた莫大な金額が記されていた。
「こ、これ……こんなに多額になるのか」
「払えない額ではありません。それに心的ストレスに対する慰謝料も込みですので、妥当な金額ではないでしょうか」
確かに彼女に与えた精神的苦痛は計り知れない。できることなら、直接謝罪したい。二度と彼女に辛い思いをさせないと誓うから戻って来いと。
もし、ソフィアが私とマリリンの関係を男女間のそれだと勘違いしているなら、はっきり潔白だと言わなければならない。
マリリンたち親子に使われていた費用がなくなった。ケビンの父親のデクスターに、今までマリリンたちに費やした費用の倍額を請求した。
彼らにはアーロンを責任もって育てると念書を書かせ、定期的に報告する義務を課した。
私たちを騙した罪の代償として、ケビンは相続権を剥奪される。
マリリンは一生、外に出られないよう拘束し、監禁するようにと命じた。
デクスターは五十を疾うに過ぎた男だったが、力はまだ漲っていた。体力に物を言わせて事を行う豪腕は、彼女にとって恐怖でしかないだろう。
そしてその男の妻として、マリリンは今後、彼専用の奴隷として生きて行くことになる。
私の邸の使用人も、序列の守れない者を首にした。
邸の経済状況は、悪化しているわけではなく、かなり上向きの方向にある。
それはサイクスの繊維業が膨大な利益を上げているからだった。
払えない額ではない。
「この慰謝料をソフィアに支払う」
私は書類を見つめてコンタンに伝えた。
彼は大きく頷いた。
「ただし条件がある。直接私が彼女に渡すか、それが叶わないなら慰謝料について彼女との話し合いを求める」
コンタンは眉間にしわを寄せ、私に視線を向けると、はぁ、と大きくため息をついた。
コンタンはソフィアの居場所を知っていると思われる。
ガブリエルは、自分は居場所を知らされていないという。
邸に古くから仕えていてくれるモーガンやダミアはソフィアの居場所を知っているが、教えられないと言われた。私がマリリンに騙されている間に彼らの信用を失ってしまったのだ。
彼らは私の邸で働いている使用人達だ。私の命令を聞かないとなればいつだって首にできる。しかし、自らが招いた失態に対して彼らを責めるのは筋違いだと分かっているからそれはできない。
今回の件も、彼らが動いてくれなければ大変なことになっていただろう。
そうでなければ、私はあのままマリリンたち親子を邸に住まわせ、妻であるソフィアを蔑ろにして、アーロンに家督を譲っていたかもしれない。
全ては私の過ちだった。
けれど、ソフィアは戦時中もずっと私を待っていてくれた。そこに愛はあったはずだ。
もう一度、もう一度だけチャンスを与えてほしい。
何としてもソフィアの居場所を自分で突き止めてみせると、バーナードは固く拳を握った。
◇
あれから何度もコンタンと話をしたが、結果的に知り得た情報は、彼女たちは国外に出国し今は平民として暮らしているということだけだった。
住所はコンタンも分かっておらず、彼女の居場所を知るのはステラ王女だけだという。慰謝料はステラ王女経由でソフィアに渡る予定だと説明された。
流石に王女には直接話を聞けない。謁見を申し出るも叶わなかった。そして間もなく王女は隣国の王子と結婚し、国を出てしまう。
ステラ王女殿下がこの国からいなくなれば、ソフィアの行方は二度と掴めないだろう。
何日も考えた。
執務室の彼女の席を見ながら、彼女の残した丁寧に書かれた帳簿の数字を指でなぞった。
食堂で味気ない食事をとりながら、テーブルを挟む、向かいの誰もいない空間を見つめた。
眠るベッドの冷たい右側をそっと撫で、そこにソフィアの体温を探した。
そしてある夜、私は気が付いた。
そうだ、彼女とともに消えた彼女の侍女がいたはずだ。
「確か……名前は……ミラ」
ソフィアの行方を追うより、メイドのミラの方を捜せばもしかしたら……
◇
やっとの思いで彼女の侍女、ミラが何処にいるのか突き止めた。
ミラはメイド仲間にこっそり自分の行く場所を話していたようだ。
外国へ行く、どこへ行くかは言えないがソフィアのことを守ると。
そして彼女たちの知り合いがいる外国といえば……
考えればすぐに分かったはずだった。
ステラ王女殿下。
彼女が嫁ぐ国ボルナットだ。
ボルナット……大国だ。
他国間のどのような戦争にも加わらず中立の立場を崩さず、強大な国家となった国。
我が国は軍事国家、戦争で国土を広めてきた国だ。逆にボルナットは防衛力に長けていてる国だ。
先駆的な設備を誇り、どんな敵が攻め入ろうとも鉄壁の守りで敵を寄せ付けないという。戦わず平和を維持するため王族同士の婚姻を政略的に決める国。
今回、ステラ王女は国同士の平和維持の為、ボルナットの第一王子と結婚する。
彼女が国外へ行けたのは、ステラ王女の支援があったからか……
もしかしてステラ王女の侍女としてボルナットに渡ったか。
だとしたらソフィアに会うのは難しいだろう。
自国にいたときでさえ、ステラ王女との謁見は叶わなかった。
ボルナットの王太子妃になったら謁見なんて絶望的だ。
だが貴族籍を抜いたという彼女が、王宮へ立ち入ることができるかどうかは微妙なところだろう。
詳しい居所が分かれば……
コンタンは頭脳派だ。私がどう言おうと絶対にソフィアの居場所を教えてはくれない。
私は考えた。そして侍女のミラの田舎に使いをやった。
元勤めていた邸の使いだと言って、ミラの両親から行き先を聞き出すのは簡単なことだった。
だが流石に詳しい住所までは知らされていないという。
私はどうしても、もう一度ソフィアと話がしたかった。
間違いは誰にでもある。
今度こそちゃんとやり直したい。
もうマリリンは邸から追い出した。ソフィアのことを虐げ邪魔に思っている者は誰もいない。
きっとソフィアは分かってくれるはずだ。
私はボルナットに調査員を送った。
多分ステラ王女はソフィアを遠くへはやらないだろう。ならば彼女は王都にいる。けれどあの国の王都は広い。
調査員に、貴族風の平民で金があり、女二人だけで最近我が国から入国した者がいないか調べさせる。
ボルナットで現地の調査会社を使えばわかるかもしれない。そう考えて、現地でも専門の調査員を雇った。
後は、知らせを待つしかないか。
トントントンとドアをノックする音が聞こえた。
「旦那様、執務の仕事が滞っております。サインが必要な書類もありますので急ぎ目を通していただきたい」
モーガンが私を呼びに来た。
「今まではちゃんと執事たちでやっていただろう。私がいなくても領地経営はうまくいっていた。コンタンに任せればいい。彼はその為に雇っているのだからな」
コンタンが私に協力しないのなら、彼は自分の仕事をきちんとこなすべきだ。
私の邸の執事としてこれからも働きたいのなら、領地の為に身を尽くすのが当たり前だ。
ソフィアのことに協力さえしてくれれば、こんな嫌がらせをしなくて済んだのに……
苛立ちは限界に達している。いうことを聞かない使用人、出て行った妻、領民たちからも私に対する信頼を感じない。
何もかもうまくいかない。
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