守ってあげたい女子の学園二位に君臨する脱力系幼馴染が俺の義妹を見た結果、対抗手段を間違ってイケメン女子になった

遥風 かずら

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第一章 幼馴染が脱力系女子

第2話 ただの居眠り女子を保健室に運ぶ

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早山さやま先生! 後ろの席の浅木さんが具合悪そうに机に突っ伏しています!!」

 四月に入った新学期初日。

 朝のHRホームルームが終わった直後のことだった。

 何やら教室が騒がしいと思っていたら、鈴菜が机に顔を思いきりくっつけて眠っているみたいだった。

 鈴菜の席は一番前で、一番後ろに座る俺の席とはかなり離れている。

 後ろに座る俺から前の席がよく見えるので、時々は鈴菜の様子を気にするようにしていたのだが。

 ……あぁ、またか。

 俺から見ればいつもの居眠り姫の光景で、慌てる必要は何もないと思って全く気にしていないのに対し、鈴菜の近くの席に座る女子たちはまるでこの世の終わりがきたような表情で先生に声を張り上げている。

 担任の先生は毎年変わるものの、そこまで騒がないだろう――そう思っていたのに。

「たっ、大変っ!! 誰か、誰か浅木さんを保健室に連れて行って!!」

 まてまて、そいつのは病気じゃなくてやる気のない脱力系だっての!

 先生の慌てっぷりと呼びかけに、それまでさほど気にしていなかった後ろに座っている連中もなんだなんだと立ち上がって鈴菜を気にしだした。

「前の席の浅木を保健室に運ぶならオレやるわー!」
「いや、俺の出番だ!」
「ふざけんな。おれが守ってやらないと話にならねえ!」

 ……などなど、男子のふざけた奴らが手を上げて保健室運びを立候補しだす始末。

 鈴菜は見た目華奢な女子だが、出るところは出ているせいかよこしまな男子から時々声をかけられたりもする。

 その一方で守りたい女子の学園二位にいるだけあって、自称の騎士ナイト気取りの男子が下心丸出しの奴らから守る奴もいたりして、幼馴染ではあるが俺としては何もすることがないのが現実だ。

 しかし、みんな気づけ。鈴菜はただの居眠り女子だぞ?

 騒いだところで目を覚まさないし、男子が思いえがくような展開は期待出来ない。

 俺としては、騒ぎが収まって親切で安全そうな男子が鈴菜を運ぶまでは自分の席で大人しく過ごすつもりだった。

 しかし俺と鈴菜の関係を知る友人たちは俺を放っておいてくれない。

「黒山。お前、行けば?」
「それな。何で貴俊たかとしが動かないのか謎なんだが」
「いっつも君が鈴菜を甘やかしてるのが原因じゃん? よく分かんない男子が動く前に黒山くんが行きなよ!」

 ……あぁ、やかましい。

 こいつらは駄菓子をこよなく愛する友人たち。俺が駄菓子屋の息子だと分かった時から店に来ては買い物をしつつ、支店の俺の部屋に遊びにくるようになって今に至る。

 そのうえ鈴菜の友人でもある音川おとかわこころは、学園ランキング実行委員会の一人でもある。

 駄菓子はともかく、元々世話焼きなのか俺と鈴菜が幼馴染であるということもすぐに理解して今みたいなやり取りをするようになった。

「甘やかしてるつもりはないけど……」
「事務室に寝に来てるのがお前への甘えなんだよ! ったく、分かってないな」
「俺のところに鈴菜が寝に来てるのは秘密だし、そもそもあいつは眠るのが好きなだけだ」

 眠りにきた奴を追い出すのは流石に酷い奴なだけだ。それに、幼馴染っていったって大して話もしてないし本当に居眠りされてるだけだからな。

「早山せんせ~!! ここに座ってる黒山くんが浅木さんを運びたいそうで~す!」

 俺が何もしないことが気に入らないのか、音川が勝手に手を上げて先生に告げ口してしまった。

「ふざけん……!」
「――やれや」

 くっ、突き刺すような威圧的視線に顎で命令とか怖すぎるぞ。

「黒山くん? あ、そっか。そうね、うん……大丈夫そうだしお願いしようかな」

 担任の先生が知っているのは俺の家が駄菓子屋倉庫をしてることくらいで普段は特に気にも留めてこないが、店に顔を出しに来たこともあるのでそれで俺が安全そうだと瞬時に判断したに違いない。

「良かったな貴俊! 教室から堂々とお姫様抱っこ出来るぞ」
「いい晒し者の間違いだろ……」

 早山先生が認めてしまったので、俺は仕方なく前の席へと足を動かし鈴菜の机の前で足を止める。

「おんぶじゃ駄目ですか?」
「ん~でも、浅木さん机にくっついているし……無理じゃない?」
「まぁ、そうですよね……」

 くっ、なんてこった。

 教室中の男子、女子から一斉に注目を浴びながら鈴菜の腰と足に手を置いて、俺は何とかお姫様抱っこを完成。

「それじゃあ、お願いね」
「はぁ。分かりました」

 くっそ、音川が厄介すぎる。

 鈴菜は抱っこしても苦にならないくらい軽く、非力な俺でもすぐに運べるくらいの軽さだった。

 それにしても――

「――鈴菜さん。起きてますよね?」
「ふわぁ……おふぁよ、貴俊くん。や、体が急に浮いたから何事なのかなって思って~そしたらお姫様抱っこしてたからとうとうなのかなって~」
「何がとうとうなのか分かりませんが。まだ眠いとか、本当になんかの病気を疑いますよ?」

 いくら春だからってそこまでやる気なくすくらい寝るか?

「ん~? 元気元気~。わたしは健康だよ~面倒くさいけど」

 鈴菜は俺に抱っこされながらやる気のないガッツポーズをとっている。やる気がないのにガッツポーズって、矛盾してるだろ。

「ほい、保健室に着きましたよ」
「え~? なんで~?」

 そりゃあそうだ。朝から俺にお姫様抱っこされてることには疑問を浮かべなかったみたいだが、保健室となると勝手が違う。

「ここなら好きなだけ寝れるから。そうしとかないと、鈴菜さんを知らない女子たちが変に心配して毎回運ばれることになるからです」

 せめて朝は我慢しとけよと言いたい。

「あ~……そっかぁ。それって面倒くさいね」
「そう思うなら、せめて朝の時間だけでも我慢するべきです」
「ん~~~……頑張っ……てみる。多分」

 これは駄目なやつだ。

「とにかく、この時間だけでも保健室で横になってればいいんじゃないですかね」

 本人が元気でも周りが判断したのをあっさり否定するわけにはいかないからな。お姫様抱っこの往復は勘弁してほしいし。

「貴俊くん」

 お、完全に目が覚めたか?

「はい?」
「せめてわたしといる時だけはもっと気楽にして欲しいなぁ~。それきぼ~。そうじゃないと、本当にだるいから~」
「……努力しま――する予定」

 言葉遣いのことなんだろうけど、今までこれで通してるからいきなり直すのはな。

「――っしょっと」

 鈴菜は俺から自力で降りて、俺に手を振りながら保健室にノックする。

 ……なんだ、やれば軽やかな動きができる子じゃないか。

「じゃ、ちょっと行ってくるね~。貴俊くん、またね~」
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