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第四章 彼の心とわたしの心
36.近付く夏とオンナ
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進路面談が終わり、季節はすっかり初夏。
七瀬の面談については「どうだったの?」なんて訊いてみたけれど、「面白くないから」なんてどことなく寂し気に微笑んでいた。
本当は他人の家のことを訊くなんて面白いわけがなくて。でも、七瀬をもっと知りたいって思ったから訊いてみたけれど、訊いてほしくない何かがあるのかもしれなかったから無理に訊くのをやめた。
――週が明けた教室に入ると、みんなすっかり半袖姿になっていた。
半袖だったりまだ長袖だったりしているけれど、その中でも注目を浴びるといえば、もちろん七瀬と弘人のふたりだったりする。
長袖でこれまで見せていなかった腕を見せている――ただそれだけなのに、どうしてそこまで騒ぐの?
まるで他人事のように眺めていたけれど、七瀬の腕を見たら思わずわたしも変な声が出そうになった。
「な、ななな……七瀬――ぁ」
落ち着かない状態で七瀬を呼ぼうとしたら、七瀬の隣にはすでに。
「まだそんな日焼けしてないんやね? もしかしてだけど輔、ずっと部屋に籠ってたん?」
「……悪ぃかよ」
「きっと暑い夏やし、これからは外に出まくって遊ばん? 海とか川とか、色々?」
「海はともかく、川はあり得ないな。足を入れられる川じゃないし――というか、勝手に腕に引っつくなよ!」
「なんや、まだ綾希と付き合ってん?」
どうやら沙奈がまたライバル活動を始めたらしく、目に見えるところで七瀬に迫るようになっている。
夏だから勝手に自分自身を開放させた?
それとも、以前言っていた噂の真相が近づいているからそれを武器にしているとか?
「うるせぇな。まだじゃなくて、ずっとだ。言っとくけど、お前があれこれしてきても無駄だからな?」
「へぇ? まだキスもしてないのに?」
「キスすればそういう関係になれると思ってんなら、やっぱお前とは合いそうにねえわ」
朝から相当イラついたのか、七瀬は自分の席に着いた途端に顔を机に伏した。でも、すぐに顔を起こしてわたしに笑顔を見せてくれた。
「おはよ、綾希」
「うん」
「朝から暑くね? ……そういや、どうよ? この鍛えられた腕は」
そう言って七瀬はわたしに向けて自慢げに腕を見せてくる。
「え? どこ?」
「素直じゃねえな」
とぼけたわけでもないけれど、七瀬は肘を机についていたわたしの腕に自分の腕を重ねて力を込めて筋肉のついた腕を強調してきた。
朝だからあまり汗を掻いてないけれど、それでも朝から腕が重なり合うとかちょっと暑苦しいし気恥ずかしい。
「や、暑いし」
嫌じゃないけど、腕をぶつけて注意をしてみた。
「ごめん、いい気になった」
「うん」
ただでさえ注目を浴びている七瀬なのに、さり気なくそういうことをしてくるものだから、女子たちの悔しそうな視線が痛すぎた。
沙奈からの沈黙の視線も中々のものだけれど。
「おいおいおい、あやきち。朝からのスキンシップくらい自重しろ~! 七瀬くんもだぞ!」
「悪いのは七瀬だけ」
「わ、悪い。それと、泉さん。この前はごめん」
七瀬が悪いわけじゃないのに雪乃へのフォローは流石というか。
「林崎の奴、ちゃんと謝ってきた?」
「うん。丁寧に謝ってくれた。それに、気にしてないよ。夕方の人混みだったから、具合も悪くなるかなぁって思ったし」
水族館での出来事以来、弘人とは話をしていない。何より、彼の考えていることや思っていることが分からないというのもあるから。
わたしから特に話すこともないけれど、七瀬が完全にガードしてわたしを弘人に近づけさせなかったというのもあった。
七瀬の中では、わたしに近付く男はたとえ友達だろうと容赦しないって意味だと思えたから。
だけど、七瀬への真の厳しさは弘人じゃなくて――。
「綾希~。もうすぐ来るから期待しててな~!」
「……?」
離れたところから沙奈の挑発めいた声が聞こえているけれど、何のことかさっぱりで、首を傾げるしかなくて。
そんなわたしに隣の七瀬は、
「沙奈……あいつ、何言ってんだ? 綾希、意味不明なことを言ってる奴は気にせず寝てていいぞ」
沙奈の煽りに付き合わなくていいと言ってくれた。
「そうする」
七瀬の言葉通り、わたしはHRが始まる前なのにいつもどおり机に伏した。
七瀬の面談については「どうだったの?」なんて訊いてみたけれど、「面白くないから」なんてどことなく寂し気に微笑んでいた。
本当は他人の家のことを訊くなんて面白いわけがなくて。でも、七瀬をもっと知りたいって思ったから訊いてみたけれど、訊いてほしくない何かがあるのかもしれなかったから無理に訊くのをやめた。
――週が明けた教室に入ると、みんなすっかり半袖姿になっていた。
半袖だったりまだ長袖だったりしているけれど、その中でも注目を浴びるといえば、もちろん七瀬と弘人のふたりだったりする。
長袖でこれまで見せていなかった腕を見せている――ただそれだけなのに、どうしてそこまで騒ぐの?
まるで他人事のように眺めていたけれど、七瀬の腕を見たら思わずわたしも変な声が出そうになった。
「な、ななな……七瀬――ぁ」
落ち着かない状態で七瀬を呼ぼうとしたら、七瀬の隣にはすでに。
「まだそんな日焼けしてないんやね? もしかしてだけど輔、ずっと部屋に籠ってたん?」
「……悪ぃかよ」
「きっと暑い夏やし、これからは外に出まくって遊ばん? 海とか川とか、色々?」
「海はともかく、川はあり得ないな。足を入れられる川じゃないし――というか、勝手に腕に引っつくなよ!」
「なんや、まだ綾希と付き合ってん?」
どうやら沙奈がまたライバル活動を始めたらしく、目に見えるところで七瀬に迫るようになっている。
夏だから勝手に自分自身を開放させた?
それとも、以前言っていた噂の真相が近づいているからそれを武器にしているとか?
「うるせぇな。まだじゃなくて、ずっとだ。言っとくけど、お前があれこれしてきても無駄だからな?」
「へぇ? まだキスもしてないのに?」
「キスすればそういう関係になれると思ってんなら、やっぱお前とは合いそうにねえわ」
朝から相当イラついたのか、七瀬は自分の席に着いた途端に顔を机に伏した。でも、すぐに顔を起こしてわたしに笑顔を見せてくれた。
「おはよ、綾希」
「うん」
「朝から暑くね? ……そういや、どうよ? この鍛えられた腕は」
そう言って七瀬はわたしに向けて自慢げに腕を見せてくる。
「え? どこ?」
「素直じゃねえな」
とぼけたわけでもないけれど、七瀬は肘を机についていたわたしの腕に自分の腕を重ねて力を込めて筋肉のついた腕を強調してきた。
朝だからあまり汗を掻いてないけれど、それでも朝から腕が重なり合うとかちょっと暑苦しいし気恥ずかしい。
「や、暑いし」
嫌じゃないけど、腕をぶつけて注意をしてみた。
「ごめん、いい気になった」
「うん」
ただでさえ注目を浴びている七瀬なのに、さり気なくそういうことをしてくるものだから、女子たちの悔しそうな視線が痛すぎた。
沙奈からの沈黙の視線も中々のものだけれど。
「おいおいおい、あやきち。朝からのスキンシップくらい自重しろ~! 七瀬くんもだぞ!」
「悪いのは七瀬だけ」
「わ、悪い。それと、泉さん。この前はごめん」
七瀬が悪いわけじゃないのに雪乃へのフォローは流石というか。
「林崎の奴、ちゃんと謝ってきた?」
「うん。丁寧に謝ってくれた。それに、気にしてないよ。夕方の人混みだったから、具合も悪くなるかなぁって思ったし」
水族館での出来事以来、弘人とは話をしていない。何より、彼の考えていることや思っていることが分からないというのもあるから。
わたしから特に話すこともないけれど、七瀬が完全にガードしてわたしを弘人に近づけさせなかったというのもあった。
七瀬の中では、わたしに近付く男はたとえ友達だろうと容赦しないって意味だと思えたから。
だけど、七瀬への真の厳しさは弘人じゃなくて――。
「綾希~。もうすぐ来るから期待しててな~!」
「……?」
離れたところから沙奈の挑発めいた声が聞こえているけれど、何のことかさっぱりで、首を傾げるしかなくて。
そんなわたしに隣の七瀬は、
「沙奈……あいつ、何言ってんだ? 綾希、意味不明なことを言ってる奴は気にせず寝てていいぞ」
沙奈の煽りに付き合わなくていいと言ってくれた。
「そうする」
七瀬の言葉通り、わたしはHRが始まる前なのにいつもどおり机に伏した。
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