きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第四章 彼の心とわたしの心

37.暑苦しいオトコと夏の始まり

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 七瀬と弘人が編入してきた春はクラス中の女子が期待の目を光らせ、あわよくば――なんて思ってた子が沙奈を含めて数人はいた。

 わたしはどっちにも属さず、ただただ春眠の惰眠を貪ってただけだけど。

 同クラの女子たちにとって、わたしの存在はあくまで後ろの席の居眠り女子。そういえばずっと眠ってるよね――くらいの存在。

 だけど、女子の中でも目立つ沙奈と友達だったせいもあって、別の意味で警戒はされていた。そんな沙奈と何気ない恋話をして、適当に話を合わせていたのがついこの前までの話。

 そして今では、常に敵対視される関係になってしまっている。

 沙奈は手に入れるものは何でも手に入れたいという、ある意味『ジャイアニズム』的な女子。

 堂々とした宣言をしたうえで七瀬を奪おうとしている。

 けれど、七瀬は最初から沙奈を苦手にしていた。七瀬はわたしの想像以上に大真面目で優しくて一途すぎたから。

 そんな優しい彼が今ではわたしの彼氏に。それでも、まだ七瀬のことを全て知ったわけじゃなくて。

 一途な気持ちは伝わってきているものの、その気持ちに少しずつ受け入れていきたいって思うようになりつつあるのがつい最近。

 それなのに、どうして最悪な夏が始まろうとしているのか意味が分からない。

「楽しみすぎ!!」
「なにが?」
「またまたぁ! 綾希はチャンスやよ。上手くいけばヨリ戻せるんやし」
「ヨリ?」

 どこからの情報なのか知らないけれど、沙奈はがうちの学校に移ってくることを事前に知っていた。

 そしてそれを武器にして七瀬にずっとアタックし続けている。

「えーと、夏に編入生っていうのも驚くかもしれませんけれど、隣接区から移ってきた男子を紹介します。どうぞ、入って!」

 先生の言葉の後、教室に入ってきた新たな男子に女子たちは期待の歓声を上げる。

「えーと、こっちの学校から推薦で行ける大学があるって知って移ってきました。で、自分は宇月うづき せいって言います。友達からは単純にせいって呼ばれていたので気軽に呼んでください」

 本当に何で今さらうちの学校、それも同じクラスに来るの?

「それでは宇月君の席は……もうすぐ席替えになるけれど、ひとまず宮前さんの隣に座ってくれる?」

 よりにもよって沙奈の隣とか。

 先生だから何も分かってないのは仕方がないけれど、何で沙奈の隣の空きスペースに座らせるの?

 ただでさえ事前にやり取りしてる疑いがあるふたりなのに。

 ……なんか、もうそれだけでも最悪な夏が始まってしまった気がする。

 何が最悪かって、早くもわたしのいる場所を気にしているっていうか、こっち見ないで欲しい。

「世くん、君の席はあたしの隣やよ。後ろ気にせんと、隣に座って」
「……あぁ、悪いね。ついつい教室全体を見回したくなったんだ。可愛い女子ばかりだから嬉しくてね」
「嬉しいこと言ってくれるやん。ちなみに気になる女子は?」
「まだ見つけてない。ま、HR終わったらすぐ見つかると思うけどね」

 ……沙奈と仲良くしてくれるならそのまま仲良くしていてほしい。

 とにかく一限が始まるまで静かに眠らせてほしいし、話しかけられることがありませんように。 

「…………あいつ、どんなコネでこのクラスに来たんだ? おっと……」

 隣の席からは、状況を理解出来ないといった声のトーンでなるべくわたしを起こすまいとしながら呟く七瀬の声が聞こえていた。

「また机顔になりそうなくらいぐっすり眠って。全く……なるべく俺が綾希を庇ってやるし守るから、そのまま寝てていいからな綾希」
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