きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第四章 彼の心とわたしの心

38.元彼と今彼の距離感

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「綾希。ノートを俺に渡して」
「……ん~」

 わたしが前提で、七瀬は課題のノートを手渡してくる。嬉しいけど、ちょっと過保護かも。

 一限を終えた休み時間。

 他の女子たちや沙奈がの席に群がったおかげで、わたしへの直接的な接触もなければ被害もなかった。

 おかげでぐっすり寝られたし、平穏無事な時間を過ごせた。

「てっきり俺の隣に寄越すのかと思っていたけど、宮前の隣だったから来なかったな」
「うん」

 警戒していた元彼の男を気にしていたのは、わたしだけじゃなく七瀬もだった。だけど、予想していたのとは別に元彼は七瀬にもわたしにも一切絡んでこなかった。

 ちゃんと理由があって、よほどわたしのいる位置が気になったのか実は元彼からのねちっこい視線は結構感じていた。

 ただ、視線に気づいた七瀬が睨みを利かせていたこともあって、元彼はわたしがいる席付近を気にしなくなったのだとか。

 とはいえ、うちのクラスにいる事実だけは覆すことが出来なくて、わたしは気を緩めることが出来なくなってしまった。

 そんなこんなでお昼休みになった。

「綾希。お昼に行くか」
「行く」

 学食で七瀬と向き合って話していると、雪乃が声をかけてくる。

「あやきち、聞いたよ! 宇月君って人はあやきちの親友なんだってね? 親友なのに何でお話をしに行かないの?」

 雪乃にデマを吹き込むなんて最低すぎるんだけど。

「事実と異なるから」
「あれ? 私の聞き違い?」
「うん。無関係」

 無表情なわたしの態度に、

「……あぁ~。そっかそっか。何となく理解出来てしまったぞ。なるほど~彼が噂の元彼君だったかぁ」

 ……などと言って、雪乃は小刻みに頷いてみせた。

「元彼君だと少なくとも親友って関係とかじゃな――」
「――泉さん。綾希に何か用があったんじゃないの?」

 雪乃の追及を遮るようにして七瀬は雪乃に尋ねている。

「あ! そうでした。えっと、週末の話なんだけど一部の女子達交えて宇月君とでオール行くことにしたんだけど、それの誘いに来たわけです!」

 オールってなんだっけ?

 というか、早くも週末の話になってるなんて気が早すぎ。

「泉さんには悪いけど、俺は騒がしいのは好きじゃないんだ。週末に限らず綾希とその辺を歩くだけでいいよ。そういう泉さんは林崎を誘ってみたらいいんじゃないかな?」
「もちろんそのつもりなんですけど。でも弘人くん、最近バイトで忙しいみたいなんですよね」
「あいつバイトしてんの? 俺は最近顔を合わせてなかったから知らないけど、泉さんは何か訊いてる?」

 七瀬の言葉に雪乃は首を振って答えている。そうかと思えば、七瀬は一瞬だけわたしの方も気にしている。

「……なに、七瀬?」

 弘人のアルバイトのことで何か気になることがあるのだろうか?

 わたしも弘人のことは知らないけれど、七瀬が気にすることで思い当たるのは水族館に行った時にキスされそうになったことくらい。

 それもあって、七瀬はますます過保護っぽくなった。

「いや、何でもない」

 弘人の問題も片付いてないのに、元彼が同じクラスに来たことで七瀬は前以上にわたしへの想いを強くしているような――そんな気がしていた。

「七瀬くん。それにあやきちも無理してオールに行かなくていいけど、それとは別にまたみんなでどこかに行きたいよね? もちろん弘人くんの都合とか合わせてになるけど、また行けたら行こうよ!」
「あぁ、それはまぁ……綾希が平気なら行くよ」
「問題ない」

 あの場面は驚いたけど、流石に二度は無いだろうし。

「オッケーだね! それじゃ、夏祭りとか花火とか行けるようにしとく。ふたりの邪魔してごめんね! あやきちと七瀬くん、ではさらば!」

 そう言って雪乃は気を遣いながらいなくなった。

「……しっかし、あいつ本当にしょうがない奴だよな。泉さんの気持ちとか、全然分かってないだろ」
「そもそもまだ雪乃って……それに弘人も話してないと思う」
「それ! この前から気になってたけど、綾希も泉さんも林崎の下の名前を普通に呼んでるけど、あいつがそう呼べって?」
「言ってた」

 下の名前呼びにそんな特別扱いはないけれど、七瀬はやっぱり気になってたみたいで、思い出したかのように弘人とわたしの秘密について訊いてくる。

「綾希。この前言いかけてたけど、あいつと秘密にしてることって何? 大したことじゃないって話だったけど……」

 実際大したことないし問題にもならなくても秘密にすることでもないけれど、七瀬に会いに来ていたあの女子のことはちょっとだけ気になっていた。

 偶然に遭遇しただけの女子――彼女曰く単なる元クラスメートという話を。

「……七瀬の元クラスメート女子。あの子は七瀬のなに? 七瀬も何か隠してるよね?」

 疑ったわけでもないのに、七瀬に問い詰めるように訊いてしまう。

 それがお互いの想いと気持ちを少しずつ離していくことに繋がろうとは、この時はまだ知る由もなかった。
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