格安物件借りたらサボり癖のある神様が住んでた

遥風 かずら

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第2話 起きたらダンジョンでそこそこ戦えてる件

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「――く、くそぉっ! このっ!! あっちいけっ!」

 ……などと、どういうわけか魔物と戦っている俺がいる。

 何せあの少女……小さな神が手を叩いたら、急に暗転して寝落ちしていたのだからな。

 寝落ちはまだいいとしても、目を覚ましたらふかふかのベッドの上じゃなく、蜘蛛の糸に包まれて危ないところだった。

 幸いにも蜘蛛がどこかにいなくなっていたから逃げてきたが、もう少しであの世に――いや、あの神のいる居間に戻されるだけか?

 とにかく魔物がうじゃうじゃいてじめじめと薄暗くて、熱湯を注がれたんじゃないかと思うくらい口の中がヒリヒリしていて嫌な感じのする場所になぜかいる。

 ここはアレだよな?

 転生した奴がとりあえず最初に挑んで、弱っちい魔物にぼこぼこにされて泣いて帰ってくるダンジョン、もしくは最初から最強の力を好きなだけ与えられて大して苦戦もしないで英雄扱いされるダンジョンだよな?

 ※これは、あくまで木間暮ひとしの独断と偏見による知識である。

 ゲームは昔から苦手で、ジャンプして避けるだけのゲームすら開始一秒でやられるくらい下手くそには定評がある。

「ギィィ……!!」
「うおっ!? いきなりそんな切れ味が鋭そうなもんを振り上げてくるなっての!」

 寝落ちから目覚めたらすぐに襲ってくるような魔物しかいないダンジョンに放り込まれ、挙句チートっぽいスキルも戦いに使える武器を何一つ与えられていない俺に何の試練をお与えになられたので?

 俺は格安物件に引っ越してきただけですよ?

 ……今は神に愚痴っても仕方がないくらい、絶賛全力疾走中である。

 洞窟という名のダンジョンなら、石ころの一つや二つは落ちていてもおかしくないのに、全く落ちてないどころか落ち着いて周りを確かめる余裕すら生まれない。

 前世の俺はどれだけの罪を……あ、転生じゃなかった。

「プゴー――!!」
「あぁっ、もう駄目だ! 行き止まりじゃ逃げきれな――はっ?」

 羊とも豚とも言えない魔物に追いかけられ、行き止まりの場所に逃げてきた俺だったが、幸か不幸か足下がいきなり消えて強制落とし穴に落ちていた。

 今度こそまともそうな神に出会えるのか……そう思いながら痛みを感じない体を起こし、目を開けると――

「――ひとし、おかえり」
「おぅおぅ、頑張ったんじゃな。流石はわしらのひとしじゃな」
「なんでだよ!」

 お前らかよ……。

 まるでギャグ漫画のようなずっこけを披露してしまった。

 しかも神の間ならぬ居間に戻され、泥で汚れた服や疲れ果てた体力すらもリセットされている。

 ……空腹だけは対象外なのか正直なものだが。

「もしかしなくても、ここはホームポイントか?」
「ゲームの用語で言えば正解。凄いね、ひとし」
「無感情で言われても嬉しくないけどな」
「ほうむ……ぽ……ふが~。いいのぅ、ひとしにとって帰ってくるほうむぽいんと、いい響きじゃ。ふぉふぉふぉ」

 じいさんは何度目の再生かよってくらい永遠に茶を啜っているし、にこにこしてるだけだからまともな話すら出来そうにない。

 唯一会話が出来そうなのが少女タイプの神なのだが、どう見ても完全に舐めプされてる。

 俺をあんな魔物だらけのダンジョンに配置して、動きやら何やらをどこかで見ながら密かに楽しんでる……としか思えない性格の悪い神としか思えないんだが。

「あ~そこの少女神さま。俺を寝落ちさせ、その状態でダンジョンに送り込んだ理由を訊かせて欲しいんだが?」

 タメ口の時点で地獄に落とされそうだが、俺はまだ何もしてないはずだ。

「みこ」
「……ん? あぁ~名前か? みこ様はどんな狙いがあって俺を――」
「――ふがふが~……」
「おじいちゃんはぜうす」

 じいさんは入れ歯か。

「みこ様とぜうすじいさんね。で、みこ様の考えはどのようなもので?」
「……たとえば?」
「それはもちろん――」

 全然ケガもしていないが、蜘蛛に喰われそうになったことや魔物を蹴ったり殴ったり、挙句全力疾走したオチが落とし穴などなど、俺は存分に愚痴を解放した。

 その間、ぜうすじいさんは茶の啜りを初めて止め、俺の話を何度も首を上下に動かしては頷く姿勢になり、みこ様は相変わらず無表情のまま頷きも瞬きすらもしない。

「おじいちゃん、魔物の強さ加減は調整しといたの?」
「ふが? どうだったかのぅ……転生者向けに強めにしといたはずなんじゃが……」

 ……おい。

「俺は転生者じゃなくて、生身の平凡な男! 冒険者だとかスキル持ちだとか、全然全くこれっぽっちも与えられてないんですが?」
「うん、知ってる」
「そうじゃったかのぅ……?」

 駄目だ、このじいさん……早く神ということを自覚させないと。

「ひとしや、晩御飯は何がいいかのぅ?」

 そうかと思いきや、俺を息子か何かと勘違いしてる。対するみこ様は流石にそう思ってないはずだが。

「……私はチャーハンがいい。ひとしだってそれくらいは……作れる?」
「作れる!! 独身を舐めるなよ? いや、舐めないでいただけますかね?」
「いいよ、タメ口で。今さら崇めようとしたって手遅れ」
「で、ですよねぇ」

 気のせいか、みこ様もぜうすじいさんも俺のタメ口や失礼すぎる態度に対し、生温かい眼差しを向けているような気がした。

 そして、どこか嬉しそうにしている。

「ダンジョンのことの説明はどう――」
「台所はひとしが入ってきた入り口付近。そこに行けば何でもあるから、行ってきて」
「えっ、あ、あぁ……」
「わしは昆布茶が欲しいのぅ」
「わ、分かったよ。全部用意する。だから、ここで待っててくれ」

 何でも揃うということは、手を使わずに神の手で出来上がるって意味かもしれない――なんて甘い幻想を見ていた自分がいました。

 結局、食材や調味料その他を使って、俺の手だけで作り上げた。

「いただきま……」

 うっ?

 みこ様とぜうすじいさんがチャーハンが乗った皿を見つめて動かないな。

 食べる前の祈りか?

「味は保証されるんかのぅ?」
「それは大丈夫。ひとしは、それだけは凄い」
「……つくづく失礼すぎる神々だな!」

 だが、みんな揃って手を合わせ――

「――いただきま~す!!」

 ……などと声が重なった瞬間は、昔々の食卓のような感じがして何となく嬉しかった。
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