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第1章:劣弱の賢者
14.遮りの霧
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ロサが住んでいた小屋からはさほど遠くもない道。
単調にして険しくもない山道ではあったが、薬師の里も、人も獣も寄せ付けない集落に住んでいるらしい。
だとすれば、パナセの恥ずかしがり屋な性格も分かるような気さえする。
『アクセリさま~もう少し、もう少しですよ~!』
俺とロサを後ろに置き、珍しくパナセが先導しながらズンズンと先に進みまくっている。
「ふっ、さっきから何度も同じことを聞いているぞ」
「アクセリさま……ね。溺れまくった痴れ者だと知ったら、どうなるか見ものですこと……」
「お前、俺を罵るために加わったのか? 悪いがそういうタチの悪い冗談を黙って聞き流すほど、俺は優しくなれんぞ」
「あぁ~もっと! もっとわたくしをお叱りくださいませ!」
「いや、叱らん。いつからMに成り果てた?」
「うふふ……初めからですわよ。ロサは初めから、アクセリに身も心も捧げておりますわ」
「気まぐれエルフめ……」
ダークエルフであるロサの言うことは、大半が虚栄であり、独占欲といった何ともまごまごした感情がコイツの中で行き来しているらしい。
アサシンとして動く以外は、言動その他諸々で非常に危なっかしい女といえる。
出来れば今後のPT作りにおいて、ロサを入れたくは無かったが、アサシンとしての腕は疑う余地もない。
『あれ~? あれれ~!?』
前へ前へと進んでいたパナセだったが、何かの異変を感じてこちらへ戻って来た。
「どうした? 敵か?」
「い、いえ、何と言いますか~モヤモヤしてます」
「何? モヤモヤとは何だ?」
「さっきまで視界良好だったんですよ~? それなのに、気付いたら足下はぬかるんでいるし、雨が降っているわけでもないのに、服が濡れてました。ううーん? どうしてでしょう?」
山から離れ、しばらくは空気の澄んだ山道を歩いてきた俺たちだったが、いつの間にか辺り一帯が霧だけになっていた。
この手の霧は、大抵はモンスターの威嚇、あるいはその辺りが深い谷に囲まれているかによるものだったが、違うようだ。
――去れ……
霧に混じって、霧の奥に潜む何者かの声が俺やパナセを阻んでいるらしい。
「アクセリさま、この声の人は何者なんでしょうか~?」
「薬師の者ではないのか? どこの方角からかは断定できないが、里が近くだったとするなら声の主は、薬師の里からだと推測出来るぞ」
「う~ん? わたし、しばらく帰って来ていないので、里じゃなくなっちゃったのかもです」
「それは悲しいことに思えるが、里の人間が霧を出しているというのが妥当なところだな」
薬師のパナセには、一切の魔力が感じられないが、薬師全体がそうとは限らない。
この霧は、薬師の潜在能力によるものかもしれないし、パナセのようなでたらめな薬品調合によって出て来たものかもしれないが、こうも視界が遮られてはどうしようもない。
「フフ……アクさまと、ネギ女はお下がりなさいませ」
「アクさまってお前……」
「ネギ女じゃないのに~!」
「こんな子供だましな霧は、わたくしのはらいだけで消し去れますことよ」
手足の長いダークエルフは、手持ちの武器よりも自分の体を刃に変えるアサシン。
彼女は霧の前に一人佇み、長い腕の力を抜かして下げたと思えば、凄まじき風を起こした。
「わー! すごい風~!」
ロサの両腕から繰り出された凄まじい風は、深く遮らせていた霧を一瞬にして掃っていた。
『な、何者……!?』
「フフ……何者でもありませんことよ。ここにいるのは、智者と女……ただそれだけ」
単調にして険しくもない山道ではあったが、薬師の里も、人も獣も寄せ付けない集落に住んでいるらしい。
だとすれば、パナセの恥ずかしがり屋な性格も分かるような気さえする。
『アクセリさま~もう少し、もう少しですよ~!』
俺とロサを後ろに置き、珍しくパナセが先導しながらズンズンと先に進みまくっている。
「ふっ、さっきから何度も同じことを聞いているぞ」
「アクセリさま……ね。溺れまくった痴れ者だと知ったら、どうなるか見ものですこと……」
「お前、俺を罵るために加わったのか? 悪いがそういうタチの悪い冗談を黙って聞き流すほど、俺は優しくなれんぞ」
「あぁ~もっと! もっとわたくしをお叱りくださいませ!」
「いや、叱らん。いつからMに成り果てた?」
「うふふ……初めからですわよ。ロサは初めから、アクセリに身も心も捧げておりますわ」
「気まぐれエルフめ……」
ダークエルフであるロサの言うことは、大半が虚栄であり、独占欲といった何ともまごまごした感情がコイツの中で行き来しているらしい。
アサシンとして動く以外は、言動その他諸々で非常に危なっかしい女といえる。
出来れば今後のPT作りにおいて、ロサを入れたくは無かったが、アサシンとしての腕は疑う余地もない。
『あれ~? あれれ~!?』
前へ前へと進んでいたパナセだったが、何かの異変を感じてこちらへ戻って来た。
「どうした? 敵か?」
「い、いえ、何と言いますか~モヤモヤしてます」
「何? モヤモヤとは何だ?」
「さっきまで視界良好だったんですよ~? それなのに、気付いたら足下はぬかるんでいるし、雨が降っているわけでもないのに、服が濡れてました。ううーん? どうしてでしょう?」
山から離れ、しばらくは空気の澄んだ山道を歩いてきた俺たちだったが、いつの間にか辺り一帯が霧だけになっていた。
この手の霧は、大抵はモンスターの威嚇、あるいはその辺りが深い谷に囲まれているかによるものだったが、違うようだ。
――去れ……
霧に混じって、霧の奥に潜む何者かの声が俺やパナセを阻んでいるらしい。
「アクセリさま、この声の人は何者なんでしょうか~?」
「薬師の者ではないのか? どこの方角からかは断定できないが、里が近くだったとするなら声の主は、薬師の里からだと推測出来るぞ」
「う~ん? わたし、しばらく帰って来ていないので、里じゃなくなっちゃったのかもです」
「それは悲しいことに思えるが、里の人間が霧を出しているというのが妥当なところだな」
薬師のパナセには、一切の魔力が感じられないが、薬師全体がそうとは限らない。
この霧は、薬師の潜在能力によるものかもしれないし、パナセのようなでたらめな薬品調合によって出て来たものかもしれないが、こうも視界が遮られてはどうしようもない。
「フフ……アクさまと、ネギ女はお下がりなさいませ」
「アクさまってお前……」
「ネギ女じゃないのに~!」
「こんな子供だましな霧は、わたくしのはらいだけで消し去れますことよ」
手足の長いダークエルフは、手持ちの武器よりも自分の体を刃に変えるアサシン。
彼女は霧の前に一人佇み、長い腕の力を抜かして下げたと思えば、凄まじき風を起こした。
「わー! すごい風~!」
ロサの両腕から繰り出された凄まじい風は、深く遮らせていた霧を一瞬にして掃っていた。
『な、何者……!?』
「フフ……何者でもありませんことよ。ここにいるのは、智者と女……ただそれだけ」
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