18 / 52
第1章:劣弱の賢者
18.姿なき賢者は悩み続ける
しおりを挟むこういった予測外のアクシデントに、自分自身が被ることになったのは、初めてだ。
パナセという愉快な薬師には、一切の悪気が無いことも承知している。
しかし里にたどり着く前、合成の欠点を克服し忘れたパナセに、気付けなかった自分の過失は罪深い。
賢者である俺の姿を見えなくするとは、到底予測など出来るはずもなかろう。
「ネギ女! よくもアク様を消滅させてくれたわね! 切り刻む……それとも?」
「あうあうあう!? い、痛いのは嫌です~」
「ダークエルフの人、落ち着いてよ! そこの賢者は消滅なんかしてないっての!」
里の民には彼女たちのやり取りは聞こえているらしいが、俺の姿はもちろんのこと、声も聞こえないようだ。
そうなると、単にエルフの女どもが口喧嘩をしているだけに見えていて、解決のしようもないということになる。
パナセの奴は、自分をよく見て欲しいとほざいていたので、この機会に彼女の顔や身体を隈なく眺めた。
愉快な薬師は、まずハーフエルフなどではなく人間の女と断定した。
その時点で、合成における努力はともかく、隠された能力を、生まれつき持たらされた天才児ということが分かった。
しかし潜在能力を眠らせたままでも、俺の姿を消すことが出来る調合の能力は侮れない。
体つきを見ようとしたところで、その気配を勘づいたロサが止めに来て、今に至る。
「落ち着いて、落ち着いてくださぁい~! アクセリ様は消滅してないんですよ~」
「それこそネギ女の戯言。どうすれば、あの方の凛々しきお姿を眺められるのか、教えなさい! かろうじてお声は、わたくしの耳に届いていますけれど……不確かなモノを信じるほど甘くはない!」
ロサの俺に対する捻じり曲がった溺愛ぶりもどうかと思うが、声が聞こえていれば信じろよと言いたくなる。
「なるほどね……パナだけでも大変そうなのに、屈折愛のダークエルフを仲間にしているだなんて、元賢者様は中々にお厳しそうですね?」
「……何が言いたい?」
「この里に来たのは、単にパナを里帰りさせるためではないのでしょう?」
「それで合っているとも言えるし、使えそうな者がいれば加えたいとも思っていた。それがどうかしたか?」
「パナの欠点でアクセリさまは今の状態となったわけですよね?」
「……ふ、だからどうした? 同じ薬師だとて、今すぐ元に戻せないのだろう?」
「ついてまいりたいと思います。姉がますます愉快になって行く姿も見てみたい……ではなく、わたしが一緒であれば、弱弱しい賢者さまの足手まといにはならないかと思いまして」
里にいる者の中で、パナセに次ぐ合成の強者でもいればと願っていた。
しかしルシナという女は、長であり、民を束ねる立場のはず。
そんな女を連れて行けば、残された薬師はどうなるというのか。
「だからこそ、消えてくれてありがとうございます!」
「何? お前、俺の考えていることが聞こえるのか!?」
「パナの作り出した調合薬には欠点があると言いましたよ」
いや、むしろ俺の姿が見えない状況だからこそ、里から出ていけるということか。
0
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる