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第2章:目覚めへの道
23.潜在なる万能者の目覚め?
しおりを挟む「はぅぅ……ルシナちゃんがうぅっ……ぐすっ、っずず……」
「やられてもいないのにすでに泣きじゃくるのはどうなんだ……」
「でもぉ、でもぉ……ロサさんは仲間なんです~ロサさんに怪我を負わせて、ルシナちゃんを救い出すなんてそんなのは無理です~うぅぅ」
愉快な感情を兼ね備えているパナセだとずっと思っていたが、想像以上に感情の起伏が激しいようだ。
しかもすでに本人には何の記憶も残っていない、血を見た直後の特殊能力発動。
コイツの潜在能力は、本人として自覚の無い時に発動されるものなのではないだろうか。
「パナセ、俺の元に来い」
「は、はいっ」
「ルシナを……妹を助けたいか?」
「は、はいです! も、もちろん、ロサさんも!」
「……分かった。ならば、お前の根性と勇気……いや、頑丈さを見込んでやる。覚悟はいいな?」
「ほえ?」
あまり賢者らしからぬ行動になるが、危機的状況を自ら生み出せば、パナセの能力が発動するかもしれないという期待感はある。
パナセのおかしすぎる行動と発言と……そうしたものを全て、見届けてみたくなった。
「え、え? あ、あのぅ……?」
「じっとしてろ」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!? ア、アァァァ……アクセリさま!? わたしをどうされるおつもりがぁぁぁ」
「――こうする」
恥ずかしがるパナセにはこの際、気にしないことにして、俺は彼女の腰に手を乗せて抱っこをした。
「あわわわわわ!? ふ、二人に見せつけて、どうす――えっ?」
「そのまま飛んで来い! ロサを目がけて投げたぞ。後はパナセに任せた!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ?! わ、わたしはぁぁぁぁ、武器にもなれないですよぉぉぉぉ!」
「頑張れ。そして、目覚めて来い!」
「ほえええええええ!?」
非人道的行為ではあるが、俺はロサたちに向けてパナセをぶん投げた。
もちろんパナセの全身には、密かに氷の要素を付与してある。
これにはパナセの万能能力における、潜在的な期待が込められている。
自称勇者に発動した瘴気といい、薬師として度を越えている調合力といい……一度、危機的状況を与えてみれば、潜在的な能力が開放、あるいは垣間見えることが出来ると踏んだ。
加えて、ロサは氷を苦手とするダークエルフだ。氷を漂わせているパナセが飛び込んでくれば、傀儡状態であっても、苦手意識が働いて自我を取り戻すことが出来るかもしれない。
『――っ!? な、何を」
『う、嘘……? パナが飛んで来てる!?』
一見するとふざけた光景と行為だが、真にパナセを信じてしまっているからに他ならない。
仮に潜在的なことが起きなくても、要素に命じた氷の壁が発動してしまえば、パナセを含めた彼女らはその場から、一切の動きを封じることが可能だ。
ここに来て、俺自身も力が戻って来たおかげで、要素も言うことを聞いてくれるようになったのはでかい。
「ど、どいてどいてどいてーーー!!」
「どけるはずがないでしょう!」
「あぁ……賢者のせいでここで終わるなんて……」
終わらせるはずがないが、まずはパナセの様子を見るしかなさそうだ。
『ギャーーぶつかるぶつかるぶつかる~~!!』
ぶん投げたパナセは、声を張り上げながらルシナたちの所に激突した。
金色の長い髪がかなり乱れるほど、激しく衝突を果たしたようだ。
「うぅ……もう! パナってば! というより、アクセリ~~何をしてくれてんの!? しかもまた少し寒いし、どうせ氷魔法でも仕掛けていたんでしょ」
「くっ……さ、さすが、わたくしのアクさまですわね……ネギ女を武器としてぶつけてくるだなんて」
「……」
見たところ、ロサにかけられた傀儡は解けたと見えるが、パナセの反応が無い。
ルシナの言葉を信じれば、氷の要素が発動してしまったようだ。
自称勇者が傍で目を気絶しているとはいえ、油断しては元も子もない。ここはパナセの成果を讃えに行くとする。
「パナセ、無事か? 悪かったな、お前ならどうにかするかと思っていたのだが……」
「あんた、姉を何だと思って――あ……」
ルシナが俺に腹を立てるのも当然のことだが、怪我をしたわけではなかったようなので、パナセに話しかけると意外な反応を見せて来た。
「ルシナちゃん、構わないよ。アクセリさまのやることに間違いはないもの」
「えっ? パ、パナ……?」
特に変わった様子には見えないが、ロサがこっそり耳打ちをして来た。
「アクさま、あの女に触れてはなりません。これはわたくしともう一人の薬師の女が、身をもって体験して気付いてのことです。よろしいですね?」
「何事だ? パナセから何かされたか?」
「いえ……衝突されてすぐに術から解放されたのですが……」
ロサは自分の身に起きたことが、未だに信じられないといった表情を見せながら、ハッキリと答えられずにいるようだ。
ルシナは、氷の要素に触れたせいか、体に起きた異変はさほど感じていないらしい。
「アクセリさま~!」
「お、どうした?」
いつもの流れでは頭を撫でて褒めるのだが、傀儡から解くほどの衝撃を与えたパナセには、抱きしめて褒めるのが得策だと考えた。
しかしロサの警告は、パナセに触れてはならないということなわけだが……実際に触れてみなければ、正体を掴むことなど出来はしないはず。
褒めてもらいたくて駆け寄ってくるパナセを拒むなど、賢者のすることではない。
「良くやった! いや、すまなかったな。パナセの可能性に賭けてみたかったのだが、何も起きなかったようで安心したぞ。さぁ、思いきり抱きしめて褒めてやろう!」
「きゃぅっ!? だ、だだだ、抱きしめて頂けるのですか!?」
「遠慮するな!」
「で、ででで、では……むぎゅぅ! なのです」
ふむ、特段変わった様子には見えないし、何も気を付けるべき所は……うっ!?
「……がっ!? く、くぅ……な、何?! 何だ、この痛みは……」
「アクセリさま? ど、どうかされたのですか?」
「ぐっ……お、お前、パナセは何とも無いのか? どこか痛む所はないか?」
「ロサさんたちにぶつかった直後は、痛さを感じたのですけど、すぐにおさまってしまったんですよ~不思議なことがあるものです」
「ま、まさか、この痛みは意識の書き換え能力だとでもいうのか……?」
ロサとルシナを見ると、俺の反応で全てを理解したらしく、目を外して合わさないようにしている。
「く、くそ……本人は痛みそのものを吸収しておきながら、痛みを感じずに蓄積していたということか」
「どうしたのです~? どうして痛そうな顔を……」
「い、いや……これは俺の落ち度だ。パナセにひどいことをしたことが、そのまま返って来ただけのこと。パナセが気にすることではない……つぅ」
パナセの潜在能力は、これが確定とは言い難いが、どうやら本人が受けた他者からのダメージを吸収し、体内に蓄積……、その後何らかの形で、接触した者に跳ね返して書き換えるということのようだ。
未だ俺の胸の中で抱きしめられているパナセは、何とも幸せそうな表情をしているが、受けた俺だけは激痛に耐えている状態だ。
「……だから申しましたのに。アクさまは、そこまでその女を愛するおつもりですか?」
「お、お前、分かっていただろ? 何故言わなかった……」
「確証はございませんでしたわ。そこの妹も同じかと思われます」
ルシナの方を見れば、いたたまれない表情で俺を見ているだけだが、痛みの大半はロサによるものだろう。
どうやらパナセの潜在的な能力は、本人が全く気付くことの無い防衛能力のようだ。
パナセには一切の痛みとダメージを負わないような、見えない守護神でもついているのではあるまいな。
それとも知らぬ間に、賢者たる俺と盟約でも結んでしまったことで、ダメージは俺だけに書き換えられるとでもいうのだろうか。
「まさか、あの時の口づけ……か?」
「ええっ!? 今ここで口づけをご希望なのです? でもぉでも~」
「いや、違う。し、しばらくこのままの姿勢で大人しくしていてくれ……」
「は、はいぃぃ」
痛みで動けなくなるとは、コイツは何なんだ?
薬師の前は魔法を覚えようとしていたらしいが、変な呪術でも会得したんじゃないだろうな……
「はふぅ~アクセリさまに抱きしめられて、力がみなぎって来ます~」
「洒落にならんな……」
身をもって確かめられたのは良かったが、もう二度としないことを誓わせてもらわなければな。
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