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第2章:目覚めへの道
22.傀儡のダークエルフ
しおりを挟む勇者ベナークとPTを組んでいた時、俺はものすごく下手に出ていた。いつも勇者を思いやり、勇者が動きやすいように構成を組み、最適なパーティライフを考えていた。
俺をこんな身にした黒魔の女は、果たして人間の女なのか……などと思いを巡らせているのだが、目の前に立っている勇者を名乗るラットンなる男は、どう見ても賊上がりの男。
戦いにおける戦略や、仲間との連携を組み立てられるような賢そうな顔には、到底見えない。
ロサの姿をずっと捉えることが出来ないでいるが、賢者たる俺の力を使えば、姿は見えずとも気配なんかでも分かるし、通った心の会話なんかも可能だ。
「どうした、雑魚の義賊! 何かの魔法で俺を倒すんじゃないのか? 妖鳥のように亡きモノとされたいんだろう?」
「手合わせもしないうちに雑魚呼ばわりとは、さすが勇者どのだな。私の魔法を繰り出す前に一つ問わせてもらう!」
「御託を並べるのが義賊の戦い方か? そういう面倒な奴はすぐに消してやってもいいぞ!」
「……本当か? では、すぐにその片手剣を地面から抜き、かかって来るがよい。勇者ならばな」
「そ、そうはいくか! 懐に入らせて不意打ちをするつもりがあるんだろう? 魔法を撃つなら撃ってみろ! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」
確信は持てなかったが、今の会話で勇者と名乗る奴の底が知れた。
パナセとルシナを掴み乱暴を働こうとしたのは、薬師の弱さを最初から知っていて、なおかつ二人が女だからだということが分かった。
だが俺は男であり、何の能力を有しているかが不明の義賊。
真に力のある勇者だとすれば、油断も隙も見せることはない。
『地の底に眠りし邪なる精霊よ……地上を汚す愚かなる者に、毒なる息吹を与えるがいい!!』
「な、何だ!? 何だその呪文……聞いたことが――」
「そうだな、俺も知らないな。妖鳥が流した血は、勇者どのにそのまま返す……それだけのことだ」
たまたまこの峡谷に寄ったのか、あるいはすでに傷を負ったままで羽根を休めていたのかは定かではない。
だが不運にも勇者を名乗る男によって、他に連れていた術者の罠によって、妖鳥は息絶えた。
流れた血は地底をたどり、底に潜む邪悪な精霊への源となった。
これを使うことで、手をかけた敵に憎悪が返って行く。
「ぐぁっ?! う、腕が……へ、変色していくぅぅぅぅ!? な、何だこれは? おい、義賊! おい!!」
「俺では無いな。血を返しただけのこと。文句なら貴様の剣に聞くか、術者にでも聞いてみたらどうだ? それか、勇者を名乗るというのであれば、聖なる力で邪を跳ね返せばよい」
「た、助け……助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「勇者? 違うのだろう?」
「お、俺は勇者にして、四番目の……うぐうあああああああ!?」
三番目の強さと聞いた気がするが、最弱に位置する勇者か。
今どき、片手剣だけを手にした見え見えの勇者なぞいないと思っていたが、黒幕は勇者ではなく術者なのかもしれん。
白泡を吹いて倒れたか。
この程度で勇者を名乗れるのならば、やはり大したことはないようだ。それとも、俺の力も多少は戻りつつあるか。
「あ、あのぅ……アクセリさま……もう大丈夫なのです?」
「パナセか。問題ないが、念のためにそこで倒れている男に、痺れ草でも投げつけてやれ!」
「お任せ下さいです!」
どうやら近くまで様子を見に来ていたようだ。しかしルシナの姿が見えないところを見ると、制止を振り切ってここに来たということだな。
「え~~い! えいやっ!」
全てにおいて一所懸命にする姿は、子を見守る親のような感じとなるが、単にパナセが幼すぎるだけだろうし、俺はまだそんな年でもないはずだ。
「ところでパナセ、ルシナは置いて来たのか?」
「ほへっ? ルシナも一緒について来たはずなのですけど……来ていないです~?」
「何? お前だけでここに来たんじゃないのか?」
「それはないです~! わたし、こう見えて妹想いなんです! えっへん!」
「当然のことだと思うが……」
てっきり無理やり来たと思っていたが、一緒について来たらしい。
しかし近くにその気配を感じることが無いが、一体どこに?
「あっ!? ルシナちゃ――あうあうあうあうあう?!」
「むっ!?」
パナセとルシナは寒気を感じたと言っていたが、それの正体が判明した。
アサシンであるロサは、本来ならその姿を相手に気取られることなく抹殺する。
しかし、力ではないモノの術中に嵌れば、意思とは別の人格となってしまう。
やはり勇者が脅威ではなく、術者の方だった。
「フフフ……どうしましたか? アクセリさま」
「お前ともあろうものが、傀儡の術に嵌るとはな……」
「そんなはずはありませんわ……」
「では、何故その女の首に刃を向ける? 仲間意識が無くとも、そういう無駄なことはしないはずだぞ?」
「アクセリさまのことを呼び捨てなど、ありえないことですもの……生意気な小娘には仕置きをするべきと思っただけですわ」
やはり傀儡か。いつものロサであれば、『アクセリさま』などと言わない。
彼女らはそれぞれで好きな呼び方をしているが、それぞれの好意として認識出来ていた。
「――アクセリ……」
「今はそのまま黙っておけ。ロサの術が解けるまではな……」
「……はい」
すでに術者の気配は無いところを見ると、勇者だけを残して去ったようだ。
勇者として崇めていたようだが、それも他の黒幕による手引きだとすれば、俺の時と同じではないか。
「はぅぅ……アクセリさま~~どうしましょ~」
幸いかそうでないか、パナセだけは俺の近くにいるが……
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