28 / 52
第3章:目覚めの力
28.召喚士と黒騎士の対峙
しおりを挟む何ということだ。隙の無い黒騎士に対して、初めて油断を生ませたというのに。
「パナセッ! おいっ!!」
暴風に曝されている黒騎士は、しぶとさを見せながらその場に踏み止まっているが、姿の見えないパナセからの返事が返って来ない。
「くそっ! 俺としたことが……」
「くくく……どこにいるかまではこの俺でも分からなかったが、薬師の女だけが飛ばされてしまったようだな。女の声で一瞬だけ力を弱めただろう? その隙に我が槍で全身を固定させてもらった」
「ち、ちくしょう……パナセ……」
無風の岩窟であれば、手練れな相手でも吹き飛ばせるのは確実だった。
しかしパナセの動きを予期出来なかったのは悔やみであり、敗北を意味するのは明白だ。
「……俺の負けだ。好きにしろ」
「そうさせてもらうが、貴様がそうまで生き続けるのは何故だ?」
「何のことだ?」
「勇者に裏切られ追放された挙句、劣弱賢者の成れの果てとなった。それがどういうわけか、使えもしない女どもを引き連れて各地を彷徨っている。貴様の目的は何だ?」
劣弱賢者を知った上での情けのつもりがあるようだが、知らせたところで黒騎士とは分かり合えないだろう。
「目的は勇者を世界から消すことだ。その為に、弱かろうが成長に望みをかけられる者と、戦える者を連れて旅をしているだけだ。お前も知っての通り、俺だけでは戦えないのだからな」
「……ふん、弱体しても賢者らしく動くか」
「変わりようがないからな」
「……」
俺の話を聞いても情けをかけるほど甘くもないようだ。
パナセを失い、俺もここで果てるのか。
「さっさと始末したらどうだ? 劣弱賢者に用など無いだろう?」
「……勇者を消す、か。面白い」
「俺を奴隷として生かすつもりか?」
「それも悪くないが、俺の”目当て”がようやく姿を見せた。貴様は薬師の女の所にでも行け!」
「なにっ!?」
処されると思っていたが、黒騎士は体の向きを変え、俺ではない何かに敵意を向けている。
『うーうー!! ガンネアに手を出すのは許さないのだー! そういうことだから、大地の神蛇さまに飲まれちゃえーなのだ!』
聞こえた声は、外で泣きじゃくっていた召喚士アミナスであり、怒りか何かで呼び出した大蛇を黒騎士に向けている。
どうやら泣き止みと同時に、召喚士として何かを悟ったか。
そうでなければ制御の効きそうにない荒れ狂いの大蛇を、容易に御する事など出来るはずも無い。
大蛇を呼べる程のスキルを秘めていたとは正直驚きではあるが、やはり俺の慧眼に間違いなど無かったようだ。
黒騎士とアミナスに目を向けた時だったが、目の前を影が覆いかぶさった。
「――ぬっ!? ん……むっ!? な、何?」
「プハー! えへへ……アクセリさまの息吹を頂いてしまったです~愛の力は不滅なのですよ」
「不意打ちにも程がありすぎる……一体、いつから俺の前にいた? というより、失ったものとばかり思っていたぞ……」
暴風で吹き飛ばし、てっきりコイツを失ったとばかり思って落胆していたが、召喚士に救われたか。
「それがですね~不思議なことが起きまして、吹き飛ばされたと思っていたら、モフっとした何かに包まれていたのです! そのまま連れられてここに戻って来たというわけなのです。えっへん!」
「良かった……お前を失ったかと思った」
「ア、アクセリさま?」
「傍にいると言っておきながら、許可なく俺の傍を離れたパナセの罪は深いぞ……」
「えええええ!?」
思わず思いきり抱き締めてしまったが、今は召喚士の強さを確かめておくとする。
「え、あれ? 力強く抱きしめて頂けたのに、もう離れられるのです?」
「いや、お前……どこか生臭いぞ。モフっとした感触と言っていたが、お前を救ったのはアレじゃないのか?」
「ひぃええええ!? へ、蛇……蛇だったのですか!?」
「ふっ……はははっ!」
黒騎士の妙なる情けと召喚士の怒りで、九死に一生を得たようだ。
おまけにパナセの幸運を手にしていたことで、果てる機会も失わせたとみえる。
「パナセは俺にしがみついたまま、戦いを記憶して閃きを生み出せ。出来るな?」
「閃きですか? やってみますです~」
黒騎士の狙いは召喚士……いや、呼び出す獣にあったようだ。表情は俺の時とは比べ物にならない激変ぶりを見せている。
アミナスの意思が獣に伝わっているかは分からないが、大蛇のうねりによる猛進は明らかに黒騎士に向いているようだ。
『劣弱賢者と薬師は獣を屠った後に、下してやる! 逃げるなら逃げてもいいが、すぐに追い詰めてやる』
狭苦しい岩窟内で大蛇に対峙していてもなお、気を緩めることは無いらしい。
召喚士と黒騎士の戦いで俺の運命も変わるか。
0
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる