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第3章:目覚めの力
29.神獣殺しの騎士
しおりを挟む「ひ、ひぃいいえええぇぇ!?」
「しっ、大人しく見ていろ。アレが黒騎士の狙いなんだろう」
「で、でもでもでも……」
「パナセ、お前もアミナスの近くで戦いを見守れ。あそこなら被害は無い」
「そ、そうします~アクセリさまもお気をつけて~」
召喚士アミナスは少し離れた所にいて、祈るように神獣の動きを見守っているらしい。召喚士本体は、前に出るものでもないのは本当のようだ。
対する黒騎士エウダイは、ここぞとばかりに長槍の動きを神速のごとく増し始めている。
神獣ではあるが、ミドガルズオルムといえば毒蛇の類とされ、敵する対象を容赦なく飲み込む怖れの蛇だ。
「……この程度か。やはり本体次第ということか」
エウダイが呟いた直後だった。
細長い舌と鋭利な牙をむき出しにして口を開けた神獣に向けて、エウダイは閃光からの突きを何度も繰り出した。
開かれたままの大蛇の口からは、逃れようのない苦痛と黒騎士に対する怒りと怖れ、そして魔物の絶叫が岩窟内に響き渡った。
パナセとアミナスは、大蛇の絶叫に耐えられなかったのか両耳を手で押さえたまま、呆気に取られている。
エウダイの槍は容赦なく神獣であるミドガルズオルムに突き刺され、次第に神獣の姿が幻のように絶え消えていく。
息絶えた神獣からは、鮮血が流れることなくその場にいた痕跡を残さなかった。
「お前は神獣殺しの黒騎士か?」
「……だとすればどうする」
「どうもしないが、その表情を見る限りではアテが外れたようだな」
「あのガキはお前の仲間か?」
召喚士アミナスを仲間にするつもりでここに来たが、まだ決めてはいない。
「そうでもないかもだが、それがどうかしたのか?」
「貴様、賢者アクセリは俺と動いてもらう」
「何? 仲間になるつもりか?」
「忘れたか? 貴様は俺に敗北した。そこの薬師の女の為にな……」
あっさりと神獣を消しておいて、さっきまでのことをまだ記憶に残していたか。
「仲間にならず、共に彷徨うと? お前の狙いは神獣なのだろうが、召喚士の成長でも見守るつもりがあるのか?」
「……違うな、俺は貴様に従うつもりはない。だが、貴様の弱さで勇者どもを消し去ろうとしていることに、興味を持っただけのことだ。力無き者に従うことなどありえない」
素性を明かさず、低い声と俺と似た言葉遣い。
黒鉄のヘッドアーマーで遮らせた顔と、身軽さを捨てたプレートアーマーでは、性別を知る事など出来はしなかった。
「エウダイと言ったか? そのヘッドアーマーを外し、敗北の賢者に強さの象徴を見せてみろ」
「……悍ましき姿を見たいか。いいだろう……貴様に後悔を植え付け、生涯において消え去ることが出来ぬようにしてやる」
パナセとアミナスからは丁度陰となっていたことが幸いしたのか、気まぐれなのかは分からないが、黒騎士エウダイはその素顔を俺に晒した。
「――なるほどな」
「忌み嫌われの存在に性別など不要。血を追い求める俺を、薬師と同様に求めることも無駄だ! 貴様はどういうわけか、女子供だけで勇者を消そうとしているようだが、それと同義にされるつもりはない」
「声帯は自らか?」
「女である必要は無いだけだ」
「……必要は無いが、俺だけに見せてくれたのも、女であるが故の武器なのだろう?」
「ほざけ」
どういう運命を受けたのかは知る由も無いが、エウダイなる黒騎士は女だった。
パナセやルシナ、ロサを見る限りでは、とてもじゃないが同じとは到底言えるものではない。
だが原色を失ったシルバーアッシュなる長い髪、怒りと焦燥が入り混じった薄く青い瞳、そして罪でも刻まれたかのような隻眼には、思わず魅入られそうになった。
「隻眼は自らでは無いだろう?」
「さぁな……」
「お前のことは分かった。協力もしなければ、助けも無用なのだな?」
「そうだ。仲間になるつもりはない」
「ならば、それでいい。狙うものが似たものであるならば、合致と言っていいだろうからな」
「……俺は貴様たちとは距離を取る。逃げようとしても無駄なことを覚えておけ」
「いいだろう」
不思議な巡り合わせというやつか、黒騎士エウダイに追われながら進むことになったようだ。
狙いが何であれ、劣弱から放たれる機会を得たことは、俺にとっていいことなのだろう。
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